金田一耕助

2018年11月11日 (日)

043-2(番外編) 首

 前項の『悪魔の花嫁』が、平成8年、角川文庫の横溝作品が「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版された折に、『首』と改題されて組み入れられた文庫(ファイル11)。しかも、新表紙!「金田一耕助ファイル」シリーズで収録作品を変えずに新しく表紙を与えられたものは、本作を入れて3作品4点のみ(注)。ちなみに『首』は、『悪魔の花嫁』を「改題」したとの扱いであるが、収録順は「生ける死仮面」「花園の悪魔」「蝋美人」「首」の順に変えられている。

 表題作の「首」は岡山もの。「大阪の方に事件があって、その調査を依頼された金田一耕助が思いのほか事件がはやく片付いたので」、磯川警部に誘われて岡山県のひなびた湯治場を訪れたときに巻き込まれた猟奇的な殺人を扱っている。杉本氏がこのファイルシリーズのために書いた表紙画は、滝の途中に突き出た獄門岩に載せられた生首が、紅葉と血の色に彩られて?、一種、異様な雰囲気を漂わせている。加えて、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻された折には、こちらの『020-2(番外編) 人面瘡』同様、ファイルシリーズの小さな短冊サイズの絵から、文庫前面フルサイズの装幀に拡大された。ファイル版『人面瘡』の表紙も怖かったが、こちらのファイル版『首』も正視できない方は多いのではないか。

 ちなみに「首」は、「キング」昭和24年7月増刊号に掲載された「悪霊」という先行作を、金田一ものに改作した作品。この元稿は、出版芸術社・刊の『聖女の首 (横溝正史探偵小説コレクション) 』で読むことができる。

※確認済みの版
改版初版(平成8年9月25日発行)<黒背 よ 5-984
参考 23版(平成24年5月15日発行)<「横溝正史生誕百十周年記念」復刻

(注)本作のほかには、012-3『悪魔の寵児』、『悪霊島(上)』、『悪霊島(下)』があった。

043-1 花園の悪魔

 『花園の悪魔』は、同名の短編を含む金田一耕助ものの中短編集。杉本氏の表紙画は、その表題作をモチーフにしていて、花壇の中に全裸で置かれた女性の上半身を描いている。右手前にかけて白くぼかしが入り、早朝の薄霧の中にいるような雰囲気が出ている。他に「蠟美人」「生ける死仮面」「首」の3編を収める。

 巻末の中編「首」は、平成8年に『首』という独立した中短編集の表題作となっている。>>「043-2(番外編) 首」

※確認済みの版
初版(昭和51年11月10日発行)
4版(昭和51年12月20日発行)
6版(昭和52年8月30日発行)
11版(昭和55年10月30日発行)
16版(昭和59年6月30日発行)

2018年11月10日 (土)

040 金田一耕助の冒険

 『白と黒』の項でも触れたように、『金田一耕助の冒険』は「ーーの中の女」というシリーズ名を持つ短編を11作集めている。1作を除き、「週間東京」に断続的に連載された。その意味では、作者の中で金田一ものの短編を連作するというな思いがあったのだろう。以下、収録作を執筆順に示す(冒頭の番号は、本文庫の収録順、( )内の日付は連載掲載号のもの)。

6)「夢の中の女」(昭和31年7月号)<「読切小説集」に「黒衣の女」のタイトルで掲載
1)「霧の中の女」(昭和32年1月12日、19日)
7)「泥の中の女」(昭和32年2月23日、3月2日)<連載時タイトルは「泥の中の顔」
5)「鞄の中の女」(昭和32年4月6日、13日)
3)「鏡の中の女」(昭和32年5月18日、25日)
4)「傘の中の女」(昭和32年6月29日、7月6日)
10)「檻の中の女」(昭和32年8月10日、17日)
2)「洞の中の女」(昭和33年2月8日、15日)
8)「柩の中の女」(昭和33年3月22日、29日)
11)「赤の中の女」(昭和33年5月3日、10日)
9)「瞳の中の女」(昭和33年6月14日、21日)

 ただし、「壺の中の女」(昭和32年9月21日、28日)は『壺中美人』に、「扉の中の女」(昭和32年12月14日、21日、28日)は『扉の影の女』に、「渦の中の女」(昭和32年11月2日、9日)は『白と黒』に、それぞれ改訂され長編化されている。ところで、この『金田一耕助の冒険』のカバーは、極めて貴重である。なぜなら「緑三◯四」シリーズ中、杉本一文氏が唯一、金田一耕助その人を描いた表紙画だからである。我を忘れて推理をしているところだろうか。額にしわを寄せて、もじゃもじゃ頭をかき回している。

<<表紙のみ一致

 この角川文庫版の『金田一耕助の冒険』は、 先行した春陽堂版の『横溝正史長編全集(20) 金田一耕助の冒険』(昭和50年11月20日発行)に、「赤の中の女」を加えている。 ちなみにこの「赤の中の女」は、「アサヒグラフ」昭和4年8月7日、14日、21日号に連載された「赤い水泳着」という先行作を、金田一ものに改作した作品であった。この元稿は、出版芸術社・刊の『赤い水泳着 (横溝正史探偵小説コレクション) 』で読むことができる。

※確認済みの版
初版(昭和51年9月10日発行)
4版(昭和51年10月20日発行)
8版(昭和52年4月30日発行)
9版(昭和52年5月10日発行)
12版(昭和52年10月30日発行)
16版(昭和54年9月20日発行)

 さらにこの作は、「緑三◯四」シリーズで唯一、改版されて新しい番号をもらっている。『金田一耕助の冒険1』(緑 三◯四 -64- )『金田一耕助の冒険2』(緑 三◯四 -65- )の2巻がそれである。ただし、表紙画は和田誠氏が担当になっている。いずれも昭和54年6月10日初版だが、この年の7月14日に同名の映画が公開されている。それを当て込んでの改版だったろう(ただし、上記版情報を見ると、昭和54年9月20日にまだ1巻本も発行されていた)。実際、表紙の絵は古谷一行氏の金田一、裏表紙の絵は田中邦衛氏の等々力警部の似顔絵である。

『金田一耕助の冒険1』「霧の中の女」「洞の中の女」 「鏡の中の女」 「傘の中の女」「瞳の中の女」「檻の中の女」
『金田一耕助の冒険2』「夢の中の女」「泥の中の女」「柩の中の女」「鞄の中の女」「赤の中の女」

2018年11月 8日 (木)

038-2 仮面舞踏会

 『仮面舞踏会』の新版カバーは、杉本一文氏の作にあって屈指の名作だろう。前景に仰向けにのけぞった白い女性の顔を配し、暗いバックと対照させている(後景はガラス窓に映った2つの目と、窓の外に見える都会の夜景だろうか)。旧版が作品のインパクトにおいて際立っていたのに対し、こちらはまるで文芸作品の表紙のような重厚さを醸し出している。ただし、新版はあまり出回らなかったようで、数が少ない。

 以上で、「緑三◯四」シリーズ内で、杉本一文氏が複数の表装画を手がけている作品は、すべて掲載することができたと思う。次回から補遺編をいくつか挙げる。

※確認済みの版
23版(昭和59年1月30日発行)
25版(昭和60年9月30日発行)

038-1 仮面舞踏会

 『仮面舞踏会』は、横溝正史氏が完成まで12年をかけた渾身の長編である。元々は昭和37年7月号から「宝石」で連載が開始されたが、翌年2月号で中断。この時点で約300枚。その後、「横溝ブーム」が巻き起こった昭和49年に、数百枚を書き足して完成するという珍しい経緯を持った作品でもある。

「もちろん、このブームとやらは私にとってマイナスではない。私に執筆の勇気を与えてくれただけでも大きなプラスである。げんに去年私は十年以上もおっぽり出しておいた未完の小説に、新しく想をくわえて八百枚の長編を完成した。」(「オール読物」五十年十一月号)<<角川文庫『仮面舞踏会』解説より引用

 当時、作者はすでに72歳。にもかかわらず金田一耕助ものの新作が読めるということで、大いに話題になった。作者もその出来には満足していたようで、『真説 金田一耕助』(角川文庫)で発表された「私のベスト10」でも、「獄門島」や「本陣殺人事件」などのおなじみの代表作に次ぐ第7位に挙げられている。

 初版の表紙は、まるで曲がった鏡に映ったように変形された女性の顔を大きく描いたもので、インパクトの大きさでは杉本作品中、ベスト3に入るかもしれない。

 ちなみに、「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版となった折に、使われたのはこちらの旧バージョンであった。また、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻されたのも本版であった。

※確認済みの版
初版(昭和51年9月10日発行)
再版(昭和51年9月30日発行)
11版(昭和53年1月30日発行)
13版(昭和53年6月20日発行)

2018年11月 6日 (火)

034-2 迷路荘の惨劇

 横溝氏が長編に改作した『迷路荘の惨劇』の新バージョンは、やはり地下の抜け穴の情景。ここでも怪人の横顔が描かれる。だが、タッチはよりリアルになり、明暗の対比の中、白黒映画を見るような独特の雰囲気を持っている。言うまでもないが、杉本氏の絵のうまさはまさに半端ではない。新バージョンは珍しい方。こちらの版情報と合わせて見ると、昭和53年8月末発行の第17版で新カバーに変わったことがわかる。

 ちなみに、「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版となった折に、使われたのはこちらの最新のバージョンであった。また、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻されたのも本版であった。

※確認済みの版
17版(昭和53年8月30日発行)<<新版切り替え
21版(昭和56年5月30日発行)

034-1 迷路荘の惨劇

 『迷路荘の惨劇』は、2度も改訂され長編となった珍しい作品。最初に発表されたのは、短編「迷路荘の怪人」で、昭和31年8月の「オール読物」に掲載された。このバージョンは、出版文芸社・刊の『金田一耕助の帰還』(現在は、光文社文庫所収)で読むことができる。

次いで、これを約3倍の長さに改稿した同名の中編が、昭和34年2月に出た東京文藝社・刊の『迷路荘の怪人』に収められた。この中編版は、やはり出版文芸社・刊の「横溝正史探偵コレクション---4」『迷路荘の怪人』で読むことができる。

 さらに、である。これをさらに約3倍の長さに改稿し、昭和50年に刊行したのが、この「迷路荘の惨劇」という長編にあたる。横溝氏は、以下のように書いている。

「 かつて単行本として刊行された中編物のなかに、一編だけ意にみたぬものがあり、その後絶版にしておいた小説があるが、あれを自分の納得のいくまで手を加え、書き足し、長編に仕立てなおしておいたらどうだろうと、昭和四十九年の夏から翌年の春へかけてその仕事に没頭し、かつては尻すぼみだった中編物を、八百枚の長編として洗いあげ、縫い直して、題も「迷路荘の惨劇」として刊行したが、これまた締切り地獄に責め苛まれることなく、たいへん楽しい仕事であった。」(『真説金田一耕助』から)

 横溝氏は、昭和49年には中断されていた『仮面舞踏会』を完成させて刊行。その後、翌50年にかけて、その余勢を駆って本作の改訂に取り組んだわけで、ファンにとってはまさにブームのおかげで金田一ものの長編作品が2作も増えたことは大いに喜ぶべきことだったろう。さらに「これを皮切りにこれからも、年に一作くらいのわりあいで長編を書いていきたいのだが」と意欲を燃やしたことを鑑みると、この「迷路荘の惨劇」の改作は重要な事件だったと言うべきだろう。

 この作品の表紙にも2つのバージョンがあり、最初ものは抜け穴に出没する片腕の怪人が描かれていて、その上に不敵に笑う女性の顔が浮かび上がるという構図になっている。巧みな構成だが、タッチはやや劇画調で杉本氏の作品の中では異色な趣きを持っている。ちなみに、TBS系列のドラマ版『横溝正史シリーズII・迷路荘の惨劇』は、昭和53年10月14日、21日、28日の3回にわたり、毎週土曜日22時〜22時55分に放送された。ちなみに、同年7月末に発行された16版が旧版の最終。この16版に「「横溝正史シリーズ」、茶の間に再登場!/第九弾「迷路荘の惨劇」」という緑の帯を付けたものがあり、テレビドラマ化に合わせて新カバーが用意されていたのだろう。

※確認済みの版
初版(昭和51年6月10日発行)
再版(昭和51年6月20日発行)
3版(昭和51年8月10日発行)
4版(昭和51年8月30日発行)
8版(昭和52年2月20日発行)
13版(昭和52年10月30日発行)
14版(昭和53年1月30日発行)
16版(昭和53年7月30日発行)<<旧バージョン最終

2018年11月 4日 (日)

030-2 貸しボート十三号

 『貸しボート十三号』の第2バージョンにも、やはりナンバー13のボートが描かれていて、モチーフ自体は同じ。ただし、全体のトーンはより洗練されている。水面には、恨めしそうな表情の女性の顔が浮かんでいる。完成度の高さから言って、作者にとっても自信作になったのではないだろうか。同じような絵柄になるが、それゆえに第1バージョン、第2バージョン、ともに集めたくなる文庫だろう。ただし、あまり市場に出ない本の一つだ。

※確認済みの版
21版(昭和59年7月30日発行)
22版(昭和60年12月20日発行)

030-1 貸しボート十三号

 『貸しボート十三号』・・・印象的な題名を持つこの作品集には、金田一ものの中編が3作集められた。巻頭の「湖泥」は、のちに「金田一耕助ファイル6」として出た『人面瘡』に収録されている。「堕ちたる天使」は、岡山の磯川警部と東京の等々力警部が顔合わせをする作品としても知られている。この文庫における杉本一文氏の表装画は、やはり表題作の「貸しボート十三号」を扱っている。ナンバー13をつけた無人のボート上に緑のコート、そして鮮血。ここで杉本氏はブラシではなく絵の具を使ったようで、普段とはややタッチが異なっているのが特徴と言える。

 この作品も改作もので、初出は「別冊週刊朝日」に昭和32年8月に掲載された同名の短編であった。翌年、約4倍の長さに改訂された。この改稿前の版は、出版文芸社・刊の『金田一耕助の帰還』(現在は、光文社文庫所収)で読むことができる。

※確認済みの版
初版(昭和51年3月5日発行)
3版(昭和51年7月30日発行)
8版(昭和52年6月30日発行)
13版(昭和53年7月30日発行)

(注)「角川ホラー文庫」において、『トランプ台上の首』というタイトルで横溝氏の編集ものが出たことがある。上記「貸しボート十三号」のほか、「トランプ台上の首」、エッセイ「探偵小説講座」を収めている。

2018年11月 3日 (土)

029-2 夜の黒豹

 『夜の黒豹』の新バージョンは、改作前の短編「青蜥蜴」をそのままモチーフとしている。しかもその蜥蜴は、女性の裸体(上半身)の上に乗っているという一見、極めて扇情的な作品である。ただし、それは抑えられた色調、計算され尽くした構図で書かれているので、意外にも一幅の絵画のように目に映る。中でも、背景の緑が非常に効果的だ。希少というほどでもないが、オークションなどでもあまり若いバージョンは見ない。切り替えは、昭和54年前後か。

※確認済みの版
16版(昭和55年7月30日発行)
18版(昭和56年8月30日発行)
22版(昭和59年7月30日発行)
23版(昭和60年11月10日発行)
25版(昭和62年9月30日発行)<<裏面はISBN番号や定価などの文字のみ

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