No.1−10

2018年10月 9日 (火)

初期表紙群まとめ

 前回までの記事で、横溝正史著の角川文庫「緑三◯四」シリーズの1番作『八つ墓村』から14番目の『幽霊男』までを見てきた。昭和46年から同49年頃に初版が出た文庫であり、表紙絵の特徴としては、このシリーズの中核をなす中後期の諸作とは若干テイストが異なるアーティスティックな傾向を示している。その特徴を以下にまとめてみた(『八つ墓村』以外は、初版)。

1)黒枠・白地、抽象性の高いデザイン画系
 『八つ墓村(再版)』『悪魔の手毬唄』『獄門島(既存作品からの転用)』『悪魔が来りて笛を吹く』『犬神家の一族』
2)黒枠・地無し、抽象性の高いデザイン画系
 『本陣殺人事件』
3)黒枠・白地、写実風具象画
 『三つ首塔』『夜歩く(グラデーションあり)』
4)黒枠・白地、水彩画風具象画
 『蝶々殺人事件』『幽霊座』『女王蜂』『悪魔の寵児』
5)黒枠・地無し、水彩画風具象画
 『幽霊男』
6)黒枠・白地、ポップな抽象画
 『白と黒』

 分類の仕方にはいろいろあると思うが、中後期のものと比べてもより多様な手法・技法を駆使しながら、一作一作工夫を重ねてきたことが伺える。これらの経験を経て、シリーズの15番以降は3)を発展させた、より写実的な表現を突き詰めていくようになる。実際、上記14作にもそれぞれ改版が存在する。ただ、この時期に見られる装画の芸術性の高さ・多様性からは、初期・過渡期というだけでは済まされない独特の魅力を見い出すことができるのではないか。

2018年10月 5日 (金)

010-2 幽霊座

 『幽霊座』の新版はより具象的で、まさに劇場内にうずくまる黒子が描かれている。よく見ると、黒子は頭巾の影からこちらを窺っている。両バージョンの版情報を見ると、昭和50年11月5日に出た7版以降で切り替えが行われたことがわかる。なので、昭和51年10月における第2回「横溝正史フェア」の広告では、すでにこちらの表紙絵が掲載されている。

※確認済みの版
7版(昭和50年11月5日発行)<<新バージョン切り替え
8版(昭和50年12月10日発行)
10版(昭和51年7月30日発行)
15版(昭和52年5月20日発行)
16版(昭和52年9月10日発行)
28版(昭和60年7月30日発行)

010-1 幽霊座

 緑三◯四シリーズの一桁台最後は、『幽霊座』。歌舞伎の劇場を舞台にした表題作のほか、「鴉」「トランプ台上の首」の3編を収める中短編集である。初版は、青系の絵の具を使った明るい絵柄で、背景はまるでポップな風景画のよう。「ひょっとこ」の面も、ちょうどサーカスにおけるピエロ的な雰囲気を出している。黒枠にバックは白。

※確認済みの版
初版(昭和48年9月30日発行)
再版(昭和48年11月30日発行)
6版(昭和50年1月30日発行)<<旧バージョン最終

009-2 蝶々殺人事件

 『蝶々殺人事件』の新バージョンは、当時、若き学生だった我々の世代の読者には印象の強い(いや強過ぎる)デザインだった。コントラバスのハードケースの中に女性の半裸死体が入っているというもので、物語に沿った内容ではあるものの、このような表紙の本を一般書棚に見ることは少なかった当時には、なかなか衝撃的ではあった。

※確認済みの版
18版(昭和52年9月30日発行)
19版(昭和52年12月10日発行)
25版(昭和57年7月30日発行)

009-1 蝶々殺人事件

 白髪の紳士・由利麟太郎先生と、花形記者・三津木俊介が活躍する通称「由利先生シリーズ」は、金田一ものと並び「緑三◯四」シリーズの一翼を担っている。全13冊。その中で、『蝶々殺人事件』は最有名作であり、かつシリーズ一桁台に収録するにふさわしい傑作だ。表題作のほか短編「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」を収録。初版の表紙では、赤一色で描かれた女性の裸体の上に、色とりどりの蝶々が舞っている。黒枠・白バックに水彩画風の色合いを持って描かれているのは、杉本氏の初期装画に見られる特徴でもある。それほど高価ではないけれど、市場に出た数が少ないせいか、あまりお目にかからない版でもある。

※確認済みの版
初版(昭和48年8月10日発行)
再版(昭和48年8月20日発行)
7版(昭和50年10月20日発行)

2018年10月 4日 (木)

008-3 黒猫亭事件 本陣殺人事件

 緑三◯四シリーズの中で、『本陣殺人事件』だけは、唯一タイトルまで変えたカバーを持っている。ただし本の中身は変わっておらず、奥付のタイトルは元のままになっている。昭和53年9月2日および9月9日に、TBS・MBS系列の『横溝正史シリーズ II 』で、本文庫の収録作の一つ「黒猫亭事件」が映像化された折、合わせて原作文庫のカバーが架け替えられた(番組宣伝の帯付き)。なので版数は、31版のみ。以降は、また第2バージョンに戻っている。黒猫の絵が描かれた「黒猫亭」 の木の看板が、天地を逆に地面に置かれている。あたりには落ち葉が降り落ち、ちょうど看板の上を黒猫が通りかかる瞬間を捉えた、という構図になっている。

 一版だけの特別版ゆえに、この「黒猫亭」バージョンは非常に希少である。僕は「緑三◯四シリーズ 」を集めるにあたり、(初期の「白背」バージョンは除いて)可能な限り一冊・千円以下で買うことを自分に課していた。しかし、この『黒猫亭事件 本陣殺人事件』だけは到底無理。結局、オークションに久しぶりに出品されたときに意を決して手に入れることになったのだが、確か7、8千円くらいかかったと記憶する。それでも安かった方だと思うので、コンプリートを目指す人は、どこかで見かけたときには、多少高くても迷わず買って置くべきだ。

※確認済みの版
31版(昭和53年5月30日発行)<<この版のみ

008-2 本陣殺人事件

意思ょく 『本陣殺人事件』の第2バージョンは、うって変わって、具象的かつ一目見たら忘れられないような非常にインパクトのある装画となった。花嫁衣装の若い女性の顔のアップだが、「角隠し」の代わりになんと黒猫の顔の上部を被っている。「奇想」としか言いようがない。『八つ墓村』『悪魔の手毬唄』などと同じく、最終的にこの再版の装画が長く使われ、多くの読者に親しまれた。

 昭和51年10月における第2回「横溝正史フェア」の広告では、すでに本バージョンの文庫が掲載されている。下記の版情報を見ても、この時期までには新版に変わっていたことがわかる。ちなみに、「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版となった折に、使われたのはこちらのバージョンであった。また、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻されたのも本版であった。

※確認済みの版<<ただし、31版『黒猫亭事件・本陣殺人事件』は除く。
17版(昭和51年3月30日発行)
18版(昭和51年8月10日発行)
22版(昭和51年10月30日発行)
26版(昭和52年4月30日発行)
27版(昭和52年5月10日発行)
42版(昭和60年11月10日発行)<<裏面はISBN番号や定価などの文字のみ

008-1 本陣殺人事件

 『本陣殺人事件』も『獄門島』と並んで作者の自信作でもあったようだ。初版の表紙は、初めて白バックではなくなった。「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」という併録作品を持つのも、初めてのこと。のちにそれは異装版を生むもとになる。当版の表紙絵は、それでも杉本初期バージョンらしく、極めて芸術的かつ前衛的な香りをに放っている。タイトル文字を乗せた紅色の囲み罫もよく効いている。昭和50年9月27日公開の同名のATG映画に合わせたPR帯付きの版も出ていて、少なくともこの年まではこのバージョンが使われたようだ。

 ちなみに「車井戸はなぜ軋る」は、「読物春秋」昭和24年1月増刊号に掲載された「車井戸は何故軋る」という先行作を、金田一ものに改作した作品。この元稿は、出版芸術社・刊の『聖女の首 (横溝正史探偵小説コレクション) 』で読むことができる。

※確認済みの版
初版(昭和48年4月30日発行)
再版(昭和48年6月30日発行)
4版(昭和48年8月10日発行)
5版(昭和49年1月30日発行)
13版(昭和50年11月30日発行)

2018年10月 2日 (火)

007-2 夜歩く

 『夜歩く』の第2バージョン。まさに夜歩く女性が描かれていて、雰囲気はあるもののやや説明的なカバーになっている。初期版があまりに多く出回っていたせいか、こちらのバージョンはオークション等でも意外に見かけない(我が家にも前者は6冊もあるが、後者は1冊しかない)。版情報を見る限り、昭和56年8月30日発行の28版で新バージョンになったと思われるのだが、こちらに書いたように直前の27版は昭和53年8月30日の発行日になっていた。なんと増版まで丸丸3年がかかっている。昭和53年夏は、TBS系列『横溝正史シリーズ』第2シリーズで、この『夜歩く』が放映された時期にあたり、その際に、大量に増刷したものが残っていたということだろうか。

 「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版となった折に、使われたのはこちらのバージョンであった。また、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻されたのも本版であった。

※確認済みの版
28版(昭和56年8月30日発行)<<新バージョン切り替え
30版(昭和57年10月30日発行)
34版(昭和61年5月30日発行)

007-1 夜歩く

 金田一耕助が登場する長編『夜歩く』の第1バージョンがこちら。ガラス板を持った黒服・黒帽子の男が、ガラスの向こう側からこちらを覗いている印象的な構図だ。黒枠に白バックという初期文庫のフォーマットではあるが、上部三分の一には薄いグレー(あるいはパープル)のグラデーションがかかっていて、そこに極めて写実風の装画を描いているのは新しい。そのためか、その後も長くこのカバーが使われていた。少なくとも、TBS系列『横溝正史シリーズ』第2シリーズで、この『夜歩く』が放映された昭和53年7月22日から8月5日(3回シリーズ)の時点では、まだ旧バージョンであった。

※確認済みの版
初版(昭和48年2月20日発行)
再版(昭和48年4月10日発行)
10版(昭和50年7月30日発行)
12版(昭和51年3月10日発行)
15版(昭和51年10月30日発行)
19版(昭和52年4月30日発行)
22版(昭和52年7月20日発行)
24版(昭和53年1月30日発行)
27版(昭和53年8月30日発行)<<旧バージョン最終

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