No.11−20

2018年10月20日 (土)

020-2(番外編) 人面瘡

 平成8年、角川文庫の横溝作品が「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版された折に、「緑三◯四」シリーズの『不死蝶』に収められた中編「人面瘡」に、「睡れる花嫁」「湖泥」「蜃気楼島の情熱」「蝙蝠と蛞蝓」を加え再編集された新文庫(ファイル6)。「金田一耕助ファイル」シリーズで新表紙を与えられたものは他にもあるが、こうした再編処置は後にも先にもこの1冊があるのみだ(注)。

「睡れる花嫁」<<『華やかな野獣』所収
「湖泥」<<「<030-1貸しボート十三号』所収
「蜃気楼島の情熱」<<「017 びっくり箱殺人事件」所収
「蝙蝠と蛞蝓」<<『死神の矢』所収
「人面瘡」<<「020-1 不死蝶」所収

 このファイル版の表紙絵を、怖くてまともに正視できない人は多いのではないか(うちの細君がまさにそう)。加えて、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻された折には、ファイルシリーズの小さな短冊サイズの絵から、何と文庫前面フルサイズの装幀に拡大された。これはまさに「禁じ手」では?(笑)。

※確認済みの版
初版(平成8年9月25日発行)<黒背 よ 5-49
4版(平成9年4月20日発行)<白背 よ 5-6
8版(平成10年11月15日発行)<同上
参考 28版(平成24年5月15日発行)<「横溝正史生誕百十周年記念」復刻

(注)「角川ホラー文庫」においては、『トランプ台上の首』というタイトルで横溝氏の編集ものが出たことがある。「トランプ台上の首」「貸しボート十三号」のほか、エッセイ「探偵小説講座」を収めている。

020-1 不死蝶

 金田一耕助ものの長編を収めた『不死蝶』。「八つ墓村」と同じく鍾乳洞が一部舞台になっていることでも有名な作だ。「本篇は二十八年六月から十一月まで、雑誌「平凡」に連載され、三十三年に加筆して単行本になったもの」(中島河太郎氏「解説」、角川文庫版)。「雑誌連載版」は、『横溝正史探偵小説選V』(論創ミステリ叢書100、論創社・刊)で読むことができる。

 杉本氏によるカバー絵は、黒のボディースーツを纏った女性の手が、蝶々の翅になっているという、絵柄的には完成度の高い作品。

 中編「人面瘡」も併録されているが、この「人面瘡」は「講談倶楽部」昭和24年12月増刊号に掲載された同名の先行作を、金田一ものに改作した作品。この元稿は、出版芸術社・刊の『聖女の首 (横溝正史探偵小説コレクション) 』で読むことができる。

 またこの作品は、平成8年に『人面瘡』という独立した中短編集の表題作となったことでも注目される。>>「020-2(番外編) 人面瘡」

※確認済みの版
初版(昭和50年4月30日発行)
3版(昭和50年7月30日発行)
5版(昭和50年10月20日発行)
17版(昭和53年4月10日発行)
23版(昭和56年8月30日発行)

019 髑髏検校

 横溝正史氏の時代物の長編2作を収めた『髑髏検校』。本文庫の解説を書いている中島河太郎氏は、その中で「著者には人形佐七を主人公とする捕物帖が二百編近くあることをご存じの読者も多いかと思うが、その他に若干の時代物があることまではあまり知られていないだろう。」とし、計19作・総発行部数300万部を越えた「緑三◯四」シリーズに、上記時代物の中から「伝奇性を多分に盛った特異な時代小説を紹介することにした。」と、これらの作品を早期にラインナップした理由を述べている。杉本氏の装画は、時代物の雰囲気を出しながらも極めてカラフルな色遣いで、シリーズ中屈指の美しい作品になっている。「神変稲妻車」を併録。

 ちなみに、現行の角川文庫にも『髑髏検校』があり、「よ 5-38」という番号が振られている(平成20年6月25日初版発行)。カバーデザインは、装丁家の片岡忠彦氏。

※確認済みの版
初版(昭和50年6月10日発行)
3版(昭和50年10月20日発行)
7版(昭和51年11月10日発行)
8版(昭和52年3月20日発行)
11版(昭和53年7月30日発行)
13版(昭和56年8月10日発行)

018 仮面劇場

 『仮面劇場』は、由利先生・三津木俊助が活躍する同名長編と、三津木俊助のみが登場する短編「猫と蝋人形」「白蝋少年」2作を収めたもの。『びっくり箱殺人事件』同様、黒枠・白地仕様なので、少し杉本氏初期シリーズよりの香りがするが、丸い鏡に映し出された仮面を被った少年の顔は、すっかり杉本ワールドの世界観を示している。

 表題作の「仮面劇場」は昭和13年に「サンデー毎日」に原型となる同名の中編として連載されたが、その後、昭和17年に出た単行本では、数カ所を改訂の上、「旋風劇場」と改題されている。「改題の理由は、当時の時局として仮面などとは穏やかでないから改めたらよろしかろうと、どこからかお達しが出たとやら出なかったとやらで、出版社の主人が頭脳をひねって新しい題をつけてくれたのである。」と作者自身が述べている(角川文庫版「解説」から引用)。このバージョンは、出版芸術社・刊の『迷路荘の怪人 (横溝正史探偵小説コレクション) 』で読むことができる。ただし作者の改訂はそれにとどまらず、昭和二十一年には、「いままた三転して『暗闇劇場』。但し、こんどは題を改めたばかりではない。/小説の全部にあたって大改竄(かいざん)を加えた。新しく附け加えた場面もあるし削除した部分もある。さらに探偵小説の一番肝腎なぶぶんであるところの謎の中心部をさえ改めた。今後この小説はこれを以(も)って定本としたいと思っている。(同上)」と述べている(この改訂版は翌昭和22年に出版)。さらに、昭和45年に出た講談社版『横溝正史全集』において、題名のみ再び初出時に戻されたのを受け、本文庫版でも題名は「仮面劇場」に戻された、という次第である。

※確認済みの版
初版(昭和50年3月1日発行)
5版(昭和50年10月30日発行)
7版(昭和51年3月10日発行)
19版(昭和53年8月10日発行)

017 びっくり箱殺人事件

 表題作には金田一耕助は登場しない。カバー解説には「名推理で犯人を追いつめる等々力警部の活躍は?」とあり、この項でも一応「等々力警部」カテゴリーに入れておいた。しかし実際には、金田一ものに出てくるときのような個人としての「等々力警部」ではなく、「捜査陣全体の人格化された人物」としての「等々力警部」が登場して事件を捜査すると、作者自身が作中でことわっている。これは、珍しい。カバー絵は黒枠・白地のデザインで、一見初期シリーズと同じような装幀ながら、装画の方は極めて具体的に、しかも緻密に描かれている。

 ちなみに、この「びっくり箱殺人事件」は、昭和24年12月30日に「歳忘れ文士劇」として探偵作家クラブメンバーが出演する放送劇として上演されたことが、中島河太郎氏の文庫解説に記されている。深山幽谷を会長の江戸川乱歩が演じ、以下、蘆原小群を木々高太郎、顎十郎を城昌幸、半紙晩鐘を山田風太郎、田代信吉を島田一男、野崎六助を高木彬光が担当するという具合に、15名の錚々たるメンバーが登場する前代未聞の出し物だったという。その録音が、その名も『北村薫のミステリびっくり箱』(角川書店)という本の付録「希少音源CD」に収録されている。これは僕が言うまでもなく貴重な記録だろう。

 一方、併録の「蜃気楼島の情熱」の方は、れっきとした金田一ものである。平成8年、角川文庫の横溝作品が「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版された折に、新しく編まれた中短編集『人面瘡』に収められた。>>「020-2(番外編) 人面瘡」


※確認済みの版
初版(昭和50年1月10日発行)
5版(昭和50年7月30日発行)
18版(昭和53年11月30日発行)
19版(昭和54年7月10日発行)
21版(昭和56年8月30日発行)<<裏面はISBN番号や定価などの文字のみ

2018年10月19日 (金)

015 悪魔の降誕祭

 『悪魔の降誕祭』の表題作は、金田一ものの長編。元々は、「オール読物」昭和33年1月号に掲載された同名の作品で、それを改稿して約3倍の長さになった。この改稿前の版は、出版文芸社・刊の『金田一耕助の新冒険』(現在は、光文社文庫所収)で読むことができる。前回の記事でも触れたが、この『悪魔の降誕祭』からは、より写実的な新しい作風のカバーで初版が出されるようになる。遺跡が立ちならぶ草原の向こうに、左下から見上げた女性の顔が大きく知り上がっているという、極めて大胆な構図である。本作は短編「女怪」および中編「霧の山荘」を併録している。

 「緑三〇四」シリーズ外で、しかも杉本一文氏の仕事でもないが、上記「女怪」については「角川mini文庫」というシリーズで出されたこともある。タイトルは『金田一耕助ファイル 女怪 八つ墓村 次の事件』(平成8年11月27日発行)。こちらは「獄門島」の直前の事件「百日紅の下にて」を併録している。

 さらに「霧の山荘」は、「講談倶楽部」昭和33年11月号に掲載された短編「霧の別荘」が元になっており、改作版では約5倍の長さになっている。改稿前の版は、上記『金田一耕助の新冒険』(現在は、光文社文庫所収)で読むことができる。


※確認済みの版
初版(昭和49年8月10日発行)
6版(昭和50年11月5日発行)
9版(昭和51年8月10日発行)
14版(昭和52年5月20日発行)
18版(昭和53年1月30日発行)
23版(昭和56年5月30日発行)
26版(昭和57年10月30日発行)

2018年10月 9日 (火)

初期表紙群まとめ

 前回までの記事で、横溝正史著の角川文庫「緑三◯四」シリーズの1番作『八つ墓村』から14番目の『幽霊男』までを見てきた。昭和46年から同49年頃に初版が出た文庫であり、表紙絵の特徴としては、このシリーズの中核をなす中後期の諸作とは若干テイストが異なるアーティスティックな傾向を示している。その特徴を以下にまとめてみた(『八つ墓村』以外は、初版)。

1)黒枠・白地、抽象性の高いデザイン画系
 『八つ墓村(再版)』『悪魔の手毬唄』『獄門島(既存作品からの転用)』『悪魔が来りて笛を吹く』『犬神家の一族』
2)黒枠・地無し、抽象性の高いデザイン画系
 『本陣殺人事件』
3)黒枠・白地、写実風具象画
 『三つ首塔』『夜歩く(グラデーションあり)』
4)黒枠・白地、水彩画風具象画
 『蝶々殺人事件』『幽霊座』『女王蜂』『悪魔の寵児』
5)黒枠・地無し、水彩画風具象画
 『幽霊男』
6)黒枠・白地、ポップな抽象画
 『白と黒』

 分類の仕方にはいろいろあると思うが、中後期のものと比べてもより多様な手法・技法を駆使しながら、一作一作工夫を重ねてきたことが伺える。これらの経験を経て、シリーズの15番以降は3)を発展させた、より写実的な表現を突き詰めていくようになる。実際、上記14作にもそれぞれ改版が存在する。ただ、この時期に見られる装画の芸術性の高さ・多様性からは、初期・過渡期というだけでは済まされない独特の魅力を見い出すことができるのではないか。

2018年10月 8日 (月)

014-2 幽霊男

 『幽霊男』の新版カバーでは、表装画はやはり物語に沿った具象的なものに大きく変わっている(2冊並べても、同じ作品の本、同じ作者の装画とは思えないくらいだ)。こちらでは作中の小見出し名にもなっている「繃帯(ほうたい)の男」が登場していて、杉本氏の作としてはわかりやす過ぎる嫌いがないでもない。が、「怪人 VS 名探偵」という側面を持つこの作としては、むしろふさわしいのかもしれない。下記の版情報を見る限りでは、昭和51年に出た9刷あるいは10刷で新版に切り替わったようだ。

 「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版となった折に、使われたのはこちらのバージョンであった。また、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻されたのも本版であった。


※確認済みの版
10版(昭和51年10月10日発行)
12版(昭和52年1月30日発行)
15版(昭和52年5月30日発行)
16版(昭和52年6月30日発行)
28版(昭和59年4月30日発行)

014-1 幽霊男

 金田一耕助ものの長編『幽霊男』は、杉本氏初期のアーティスティックな系統の作品としては、最後の装画にあたる。「緑三◯四」シリーズにおける次の作品『悪魔の降誕祭』からは、初版からおどろおどろしくも美しい、我々が「杉本一文ワールド」と呼んでいる写実風の絵になっていて、逆に言えば異装版に切り替えられた作品もぐんと減ってくる。『幽霊男』はその意味では貴重であるし、実際、カバー作品として見ても質の高さで際立っている。ファンなら、ぜひ揃えておきたいバージョンだろう。ピンクを基調とした淡いぼかしの奥に、黒服・黒帽子の女性の半身を置き、背景には横たわる女性の顔から胸までが描かれている。その背景の女性の目をあえて描かないことが、どれほど効果を上げているか!

※確認済みの版
初版(昭和49年5月30日発行)
6版(昭和50年11月5日発行)
8版(昭和51年3月30日発行)

013-2 白と黒

 『白と黒』の新版。装画は、黒髪で白い下着姿の若い女性と、白髪で黒い下着姿の若い女性(双子のように似ている)を横置きで上下に並べた、印象的な構図に変わった。都会を舞台にした本作らしいおしゃれさが感じられる。昭和51年10月における第2回「横溝正史フェア」の広告では、すでにこの新バージョンになっている。下記版情報を見る限りでは、初版が出た1年後の昭和50年には、早くも新版が出ていたようだ。

「金田一耕助ファイル」シリーズとして改版となった折に、使われたのはこちらのバージョンであった。また、平成24年に「横溝正史生誕百十周年記念」で復刻されたのも本版であった。

※確認済みの版
6版(昭和50年10月20日発行)<<新版切り替え
7版(昭和50年11月5日発行)
18版(昭和52年5月20日発行)
22版(昭和53年1月30日発行)
24版(昭和53年7月30日発行)

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