« Editio Critica Maior 新刊(Acts・その2) | トップページ | Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その2・13:33) »

2018/06/05

Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その1・第1章)

 大型批評版 Editio Critica Maior(ECM)の「使徒行伝」の巻に関する情報の続編。今回から具体的な中身の紹介をしたいと思うのだが、ネストレ28版と「initial text」が相違する箇所、特にビザンティン・テキストを採用した例を見てみよう。第1章からは、以下の3つが該当する。

1) 1:10「白い衣」
「彼が(天に)のぼっていく,彼らは天をじっと見つめていたが,そのときに見よ,白い衣を着た二人の人が,彼らのそばに立って,」(荒井献・訳、『使徒行伝 上巻』新教出版社・刊)
「そして彼らが熟視しているところで、天へと去った。そして見よ、彼らのかたわらに二人の男が白い衣を着て立った。」(田川建三・訳、『新約聖書 訳と註 2下 使徒行伝』作品社・刊)
※「天に(天を)」という句を「見つめる」「行く(去る)」のいずれにかけるかで、上記2種の訳が考えられるところだが、ここで関係するのは「白い/衣」という語。これにネストレ28等は複数形(与格)を使う(読みb:P56C*. 01. 02. 03. 04*. 044. 81. 323. 945. 1175. 1704. 1891. その他)。が、ここには単数形とする異読がある(読みa:04C3. 05. 08. 33. 614. 1884. 2147. 2495. 2818. その他 Byz)。 行伝10:30の「輝く/衣」では同じ単数形が使われている(ECM によれば、ここを「白い/衣」(単数)と揃える異読まである)。証拠としては当然、読みb の方が優位に見えるのだが、CBGM の分析ではそれは読みa の流れから数回にわたって生まれているという。それで、今回は単数形の読みが a(initial text)とされた。

2)1:15「およそ百二十人」
「 そしてその頃、ペテロが兄弟たちの中に立って、言った。一緒に居た者たちの群はおよそ百二十人であった。」(田川訳、上掲本)
※「およそ/百/二十」と言う句のうち、「およそ」の語に2種の読みがある(厳密には「およそ」の語がない写本もわずかにある)。ネストレ28版等は「wsei」を(読みb:01. 02. 04. 044. 104. 1175. その他)採るが、多数派は「ws」(読みa:03. 05. 08. 33. 81. 453. 614. 945. 1505. 1704. 1884. 1891. 2147. 2818. ほか小文字写本多数 Byz)。どちらを採っても意味的に大きな差はないと思われるところ。だが、こちらも CBGM の分析で読みa の優位が確認されたという。

3)1:26「彼らに籤を与え」
「そして彼らに籤を与え、籤はマティアスに当たった。そして彼は十一使徒と共に選ばれた。」(田川訳、上掲本)
※「彼らに(to them. あるいは for them.)/籤を/与え」というネストレ28版等の読み(読みb:01. 02. 03. 04. 05C1. 33. 81. 104. 945. 1175. 1704. 1739S. 1891. その他)に対し、「彼らの(their)/籤を/与え」とする異読(読みa:05*. 08. 044. 453. 614. 1884. 2147. 2495. ほか小文字写本多数 Byz)がある。CBGM の分析では、こちらも読みb は、読みa の流れから数回にわたって生まれているという。

 ビザンティン系の写本については、田川氏などは「ビザンチン系の役に立たない写本その他」「この場合にぴったりだが、ほぼビザンチン系ばかりだから、原文ではないだろう」「しかしそれはいわゆるビザンチン系の大多数の写本であるから、正文批判上は、よほどの理由でもない限り、通常は無視されるものである」のように言っている(上掲本)。正文批判の専門家はここまで極端ではないだろうが、ビザンティン系の写本の読みとシナイ・バティカン写本の読みが相違したときに、後者を優先してきた例は非常に多いだろう。上に見てきたように、今回の ECM における「ビザンティン・テキストの再評価」という事情の背景には、CBGM によって判明した写本間の一貫的な(Coherent)依存関係がある。その詳細がわからない以上、検証も反論もできないという点が、従来の正文批判とは大いに変わっている点かもしれない。ちなみに、CBGM については『A New Approach to Textual Criticizm; An Introduction to the Coherence-Baced Genealogical Method』(Deutsche Bible Gesellshaft)という解説本が出ていて、最後の行伝1:26 については、かなり具体的な検討結果が出ている。また紹介できたらと思う(Kindle バージョンもある)。

|

« Editio Critica Maior 新刊(Acts・その2) | トップページ | Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その2・13:33) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その1・第1章):

« Editio Critica Maior 新刊(Acts・その2) | トップページ | Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その2・13:33) »