« 聖書協会共同訳 | トップページ | Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その1・第1章) »

2018/06/01

Editio Critica Maior 新刊(Acts・その2)

 大型批評版 Editio Critica Maior(ECM)の新刊、「使徒行伝」の巻が届いた(Deutsche Bibelgesellschaft 刊)。全3巻・4冊組という大冊であり、以下の構成から成っている。

III/1.1, The Acts of the Apostels, Part 1.1, Text, Chapter 1-14
III/1.2, The Acts of the Apostels, Part 1.2, Text, Chapter 15-28
III/2, The Acts of the Apostels, Part 2, Supplementary Material
III/3, The Acts of the Apostels, Part 3, Studies

 1、2巻目が、本文テキスト「initial text」と異読を収めた本編。3巻目には、本編で使われている記号の説明や、ギリシャ語写本や教父引用、古代語訳のリストといった補遺情報が記されている。さらに4巻目として論文集(英語もしくは独語)が付いている。この種の批評版に論文が付くのは珍しいと言えるが、ECM を主導するクラウス・ヴァハテル氏のコメンタリーなど有益なものが選ばれている。

 さて、(その1)で紹介したようにこの ECM の「initial text」は、ネストレ28版本文とは52か所で相違点があるという。その相違点のリストは第1巻目の序文の最後にある。また、今回の「使徒行伝」の巻ではあえて本文を確定させず、上下二段にスプリットされたまま表示した箇所(a split guiding line)があり、これも155か所にものぼる数がリスティングされている※。冠詞やギリシャ語の変化形等の相違が多く、本文の意味が変わるような箇所はそれほど多くない。とは言え、これらのリストを見る限り、ビザンティン型テキストに戻った箇所が非常に多くなっていることがまず気になる。異読の分析に「Coherence-Based Genealogical Method(CBGM)」という新たな手法が使われた結果なのだが、 この点についてクラウス・ヴァハテル氏は 序文中の「使徒行伝のテキストに関する注記」という文章を書き、詳しく解説している。その文中で「ビザンティン・テキストの再評価」という一項が設けられていて、そこでヴァハテル氏は、よく知られている特定の初期の証拠、ヴァチカン写本やシナイ写本、そしてパピルス群が多数派テキストと相違するときは、精査することなしに安易に多数派の読みが退けられてきたと主張している。その見直しの結果が「initial text」の変更につながったわけである。今後、その成否が議論されていくと思うが、これは意外に大きな影響があるのではないか。前回の発言で僕は使徒行伝における「西方型本文」の問題について触れたが、上に見た「ビザンティン・テキストの再評価」という観点は、福音書や他の新約文書にも適用できるものである。ということは、今後、ECM プロジェクトの進捗により、新約本文の大きな変革が進んでいくかもしれない。

※「公同書簡」の改訂2版からこの表記が採られた。

|

« 聖書協会共同訳 | トップページ | Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その1・第1章) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Editio Critica Maior 新刊(Acts・その2):

« 聖書協会共同訳 | トップページ | Editio Critica Maior; Actsでの本文変更(その1・第1章) »