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2008年1月19日 (土)

シュティッヒ=ランダルのモーツァルト

 テレサ・シュティッヒ=ランダルは、以前から僕のお気に入りのソプラノ歌手だ。さきほど、なじみの佐川急便の配達員の方が届けてくれたHMVからの荷物の中に、彼女の歌唱を集めた仏アコード原盤のモーツァルト宗教曲集が入っていて、ちょうど今「エクスルターテ・イウビラーテ K.165」から、大ミサ曲 K.427の「ラウダームス・テ」、「戴冠式ミサ K.317」と、その澄み切った歌声をたっぷり楽しんだところ。曲もモーツァルトの数多い宗教曲中、その最も美しい旋律を選りすぐって集めたようなものだし、これが1000円を切る値段で手に入るのだから、本当にいい時代である(もしオリジナルのLPなら、いったいいくらするのかわからないけれど)。

 シュティッヒ=ランダルは、この時代の歌手としては、例外的とも言えるくらい極めて知的な歌いぶり。例えば高音の聴かせどころになっても、ここぞとばかりに声を張り上げたりはしない。「戴冠式ミサ」の「アニュス・デイ」でも、とても抑制のきいた、しかし心からのソット・ヴォーチェが聴ける(特に歌が入ってから2度目に冒頭主題が帰ってくるあたり)。CDでは、上記の曲のあとヴェスペレ=「証聖者の盛儀晩課 K.339」が続くのだが、この中の「ラウダーテ・ドミニム(主をたたえまつれ)」でも、リステンパルト/ザール室内管の今にも停まらんばかりのゆったりとした伴奏にのって、天国的な歌を聴かせている(暖かみのある合唱もすばらしい!)。

 ちなみにモーツァルトは2曲の「ヴェスペレ=晩課」を残したが、これは2番目の作。1980年の作曲らしいから、ザルツブルグ時代のまさに最後を飾る曲ということになる。のちにウィーンから父のレオポルトに「例のラムのために書いた『オーボエ協奏曲』を、ぼく宛に大至急送ってください。ーーその際に、何かほかのものーーたとえば、ぼくのミサ曲やーー二つのヴェスペレの総譜をーー入れてくれてもかまいません。ーーそれらを、ただヴァン・スヴィーテン男爵に聴かせたいからです。(1783年2月15日付け)」という手紙を送っている(「モーツァルト書簡全集V」白水社刊)。ウィーンにおける最大の理解者であるスヴィーテン男爵に「聴かせたい」というのだから、作曲者としても出来映えに自信があったのではなかろうか。それに、この時代の作曲家が、友人に「ただ」!「聴かせたい」という欲求のためだけに旧作を振り返るのは、めったにないことではないだろうか。特に「レクイエム K.626」の有名な「キリエ」にも比される峻烈かつ古風なフーガ「ラウダーテ・プエリ(主のしもべたちよ、ほめたたえよ)」から、先に述べた「ラウダーテ・ドミニム」にかけては、青年モーツァルトの才能が羽ばたいているページであり、ぜひ聴いてもらいたいという彼の気持ちも実によくわかるけれど。

HMVジャパン

UNIVERSAL MUSIC FRANCE, 476 8960

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コメント

上記発言で触れたCDの元LPを、オークションで買ってしまった。といっても、日本コロンビアが発売した国内盤。HMVのCD評に、東京のmoriさんとおっしゃる方が、“待望の復活!20数年前コロンビアの廉価盤(白ジャケのセンスの良い物でした・・)として出ていたものが多数含まれている。”という投稿をされていたので、ちょっと欲しくなったのだ(笑)。ジャケットの写真は、「毎クラ・アルバム」にアップしてみた。購入金額は、カール・ベーム指揮のモーツァルト『レクイエム』の旧盤、ほかネヴィル・マリナー指揮の『レクイエム』、コレギウム・アウレウムおよびコリン・ディビィス指揮の『戴冠式ミサ』のあわせて5枚で、2500円。ベームがウィーン響といれた『レクイエム』旧盤も、僕は世評の高いウィーン・フィルとの新盤よりずっと気に入っている。しかも、この盤もシュティッヒ=ランダルがソプラノを歌っている!今ほど休日出勤から帰って、『戴冠式』と『レクイエム』のLP2枚を、続けて聴いてみたところ。『レクイエム』の冒頭で、シュティッヒ=ランダルの歌声が弦の伴奏に乗ってまっすぐ入ってくる箇所は、やっぱり何度聴いてもその清冽な美しさに「はっ」とさせられる。

投稿: cherubino | 2008年2月11日 (月) 00時07分

呼び名のことですが…アメリカ人ですので、(固有名詞の常として)生まれ育った米国で呼ばれたであろう「テレサ・スティック・ランドール」としたほうが良いのでは、と常々考えていますが、そういう方はあまりいらっしゃらないようですね。

投稿: mr2h | 2017年1月14日 (土) 11時36分

mr2h様、コメントありがとうございます!
外国人名の表記はなかなか難しいですね。「ベートホーフェン」のように原語に近い表記をしてみても、誰も使っていないのでは検索にもひっかかりませんし。。。今回、あらためて検索してみましたら、「テレサ・スティック・ランドール」はなかったものの、「テレサ・スティッチ・ランドール」はかなりヒットしました。つまり英語読みの表記もあるようですね。勉強になりました。貴重なご指摘、ありがとうございます。
mr2hさんは、TERESA STICH-RANDALLのファンの方でしょうか? トスカニーニに認められたあと、フルブライトの奨学金をもらってヨーロッパに出て、ウィーンの歌劇場やザルツブルク音楽祭などで活躍されたそうです。ヨーロッパでは、やはりドイツ風の読みで呼ばれていたでしょうから、日本でもそのような表記が使われたのかもしれません。さて、ご本人はどちらで呼ばれることを望んでいたのでしょうか? もしわかったらご教授ください。

投稿: cherubino | 2017年1月15日 (日) 19時26分

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