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2008年6月29日 (日)

「二つのレント」の謎(その3)

 昨年の春に、武満徹氏の最初期のピアノ作品「二つのレント」の楽譜について書いた。その折の記事の主旨は、この作品の録音CD(ピアノ・藤井一興氏、Fontec)があるにもかかわらず、後年、これを改作した「リタニ」の楽譜に書かれた注記(日本ショット・刊)に「この作品は、1950年に作曲された《二つのレント》---その原譜は紛失された---を、作曲者の記憶をたよりに再作曲されたものである。(1990年初版)」と作曲者が書いていることの疑問について指摘したものだった。その折にも引用させていただいた、Fontecのチーフ・プロデューサー松田朗氏の回想文には、

「作曲当時武満さんが同人だった“実験工房”の関係者が保管していた楽譜にたどりつきました。」

とあり、「原譜」=「自筆譜」はないとしても、少なくとも演奏に使われた「演奏譜」=「筆写譜」はあると推測された。

 実は、今日、小学館から出版された『武満徹全集』の関連企画本である『作曲家・武満徹との日々を語る』(武満浅香・談、武満徹全集編集長・聞き手 大原哲夫)という本を購入してきて読んでいたら、まさにこの「筆写譜」に関する次のような対話が記されていて思わずびっくり!。なんとこの楽譜の持ち主の名前が書かれていたのである。さっそくここに引用し、これまで書いてきた情報を一部補足・訂正したい。

大原 この《二つのレント》の楽譜は、その後武満さんの手元にはなくなってしまいますね。

武満 あまり物をとっておく人じゃなかったから、その楽譜は友人の作曲家の福島和夫さんがお持ちだったみたいです。

大原 《リタニ》は一九八九年に、その《二つのレント》を元に作られたんですよね。

武満 そうそう、でも譜面を福島さんから返してもらったというんじゃなくて、《二つのレント》を録音したのがあったわけでしょう。音はそれで起こしたとか言ってましたけど。

大原 NHKに園田高弘さんが演奏した《二つのレント》のテープがありますよ。二つのうち二曲目だけですけど、一九五七年の録音で作曲されて七年後のものですね。

武満 でも、どうして福島さんのところに楽譜があるんだろう。

大原 福島さんのお姉さんの秀子さんが持ってらしたと聞きました。

武満 実験工房の関係かなにかで、徹さんが福島秀子さんに渡したのかもしれないわね。終わったものはもういいって思っていたのかもしれませんね。

という具合で、これで藤井氏の録音に使われた楽譜の由来は、ほぼ明らかになったと言えるだろう。

 ちなみに今回、あらためてこの曲についてネットで検索し直してみたら、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「2つのレント」の項目にこういう記述があった。

 ところが、この『2つのレント』の楽譜は思わぬところから発見される。実験工房時代の盟友であった福島和夫の家のアップライトピアノの裏の楽器と壁の間に落っこちていたまま数十年眠っていた楽譜がある日出てきたものを福島が保存していたのだという。これを元に藤井一興が1982年に録音。武満は当初過去の曲を引っ張り出すことに乗り気ではなかったようだが、録音の出来を聴いて「このレコードに限って収録を許可します」と認めた。しかし、これは筆写譜であったらしい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/2%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88

 この「アップライトピアノ」云々の記述は、「ウィキペディア」の性質上、話の出所が示されていないのでなんとも確認のしようがないが、先の『作曲家・武満徹との日々を語る』の記述とは矛盾しない。

 ちなみに語り手の「武満浅香」さんは、名前からおわかりのように武満氏のご夫人である。僕もかつて何回かお会いしたことがあるが、このインタビューは、この種の本にありがちな微温的な身内語りとは一線を画している。読んでいても、そのはぎれのよい語り口やまっすぐなお人柄が彷彿され、まさに文字間から声が聴こえてくるような臨場感あふれる本になっている。ぜひ多くの武満ファンの方に読んでいただきたいと思う。

□小学館・刊

<2010年の追記>

 この話題の再度の結論については、ぜひ下記『「二つのレント」の謎(とりあえずの解決編)』を参照してください! 何度もすみません。

http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2010/02/post-124c.html

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 昨年末に『武満徹 自らを語る』という本が出た。かつて中央公論社が出していた伝説のファッション雑誌「マリ・クレール 日本 [続きを読む]

受信: 2010年2月 9日 (火) 00時45分

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