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2009年1月 9日 (金)

ジョン・ルイスとバッハのフーガ

 前回はスイングル・シンガーズの「歌うバッハ」について書いたが、ジャズ化されたバッハの例としては、もちろんジョン・ルイスの名前を挙げないわけにはいかない。たとえ誰かが「あまりに月並みな選択だ」と言うとしても、彼と彼の「平均律クラヴィーア曲集・第1巻」の録音を抜きにして、バッハとジャズとのつながりは語りきれないだろう。スイングル・シンガーズのバッハ演奏の特徴は、インプロヴィゼーションがなくバッハの原曲に限りなく添っているという点にあるが、ルイスの弾くバッハは逆にインプロヴィゼーションの素晴らしさにある。もっと言えば、バッハの原曲からインプロヴィゼーションに入るときと、インプロヴィゼーションからバッハに戻るときの、スリリングな移行の<瞬間>こそに、このアルバムの胆があると言い切ってかまわない・・・と僕は思っている。

 もちろんバッハのフーガの各声部を、ピアノとベース、ギター、時にヴァイオリン、ヴィオラ等も加えて弾いていくおもしろさも抜群であり、クラシック音楽好き・バッハ好きにも十分満足してもらえることは間違いない(その点では、一貫してピアノ1本の演奏で通しているプレリュード部分と好対照を見せている。)そのあたりの事情についてルイス自身はきわめて自覚的であり、次のように述べている。

「私達のレコーディングに耳を通してもらえば、1つ1つの声部がくっきり浮かびあがって聞こえるはずだ。そういう行き方に私はとても魅力を感じた。ところが単一の楽器で4つの声部を弾いた場合には、そうはいかない。それぞれの声部が独自の機能を発揮しながら、その4つが微妙にクロスオーヴァーしていく加減を、ぴたりと聞きわけられる人がいったい何人いるだろう?ためしに、やってみるといい。しかし、数種類の楽器で弾きわけた場合には、その移りゆきがすごく鮮明になる。その点がとても魅力的だったし、私にとって、フーガに取り組む面白さでもあったんだ。(ライナーノーツより)」

 その好例として、第4番の嬰ハ短調のフーガの冒頭を聴こう。低音からの厳粛なフーガ主題がベースのピツィカートで立ち上がり、やがてその他の楽器がからみあってくる様は、まさにこのプロジェクトの白眉である。なおここでベースを担当しているのは、ビル・エヴァンス・トリオの最後のレギュラー・ベーシストであったマーク・ジョンソン。ハイポジションも辞さずベースでバッハのバス声部にチャレンジするには、まさにうってつけの人材だろう。

 ちなみにこの4枚組のプロジェクト、以前このブログで武満徹のギター作品について書いた折(http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2007/01/post_ba5f.html)に紹介させていただいたギターリストの鈴木大介氏の「愛聴盤」でもあるらしい。氏のブログには「このジョン・ルイスのバージョンは、/リヒテルやグールドと並べて聴けます、/と断言しておきましょう。」とまで書かれている(http://daisukesuzuki.at.webry.info/200507/
article_5.html)が、こうなると鈴木バージョンのバッハ・アルバムもぜひ聴いてみたいなあ。「平均律」をギターで・・・なんて無理かなあ。

□日本フォノグラム, PHCE-3008-11 

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