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2010年2月 8日 (月)

「二つのレント」の謎(とりあえずの解決編)

 昨年末に『武満徹 自らを語る』という本が出た。かつて中央公論社が出していた伝説のファッション雑誌「マリ・クレール 日本語版」(その後、いくつか出版社が変わったあと、先頃、休刊になった)に掲載された安芸光男氏による「武満徹、音楽生活を語る」と題したインタビュー記事を、そのとき掲載できなかった分も含め本にしたものらしい。先日、この本を書店で見かけた僕は、当時、蓮實重彦の映画評が読みたくて毎月この「マリ・クレール」を近所の書店から定期配本してもらっていたことを思い出したので、「そういえば、そんな記事もあったなあ」という軽い気持ちで屋根裏の書庫に入り込み雑誌の棚を探すこと数分。すぐに記事が掲載された号(1990年11月号)を探しあてたまではいいのだが、これを少し読み進めてびっくり! なんとここに、武満氏の言葉で「二つのレント」の楽譜のことについて、明確に言及があったのだ(同誌p.454-456)。まさに「灯台下暗し」・・・

------『二つのレント』は、最近『リタニ』という題でCD化される時に、新しく書き直されたんですか。
武満 書き直したというより、元の楽譜はなくなっていたんです。いくらかデッサンが残っていたので・・・。というのは、あれを書いていた頃はピアノも持っていなかったし、ぼく、書いた楽譜をみんなどっかに置いてきちゃうんですね。福島和夫のところでピアノを使わしてもらったりしたことがあるので、福島の家のピアノの後ろにみんな楽譜を捨ててきたんだよね。それを福島さん、いま上野学園の偉い先生だけど、その学校の図書館にぼくのデッサンを入れたんですね。ぼくはなくなったと思っていたんだけど。

 このあと、ピアニストの藤井一興さんがその楽譜を見つけ、CDに録音したという<「二つのレント」の謎(その1)>で書いた話が続いて、

(武満・続き)完成譜はなくなっちゃったんですよ。だから残っているデッサンを元に、なるたけ昔のように書こうと思って・・・。

と、この曲の楽譜について自分の言葉で話している。これで、「藤井氏が録音時に使った楽譜が、完成譜ではなく、デッサンであったこと」、「『リタニ』作曲時に、「記憶をたよりに(出版譜に付された作曲者の注記)」したほかに、このデッサンを元にした」ということが、はっきりした。※ちなみにここに引用させていただいた文章は、『武満徹 自らを語る』の記述とは微妙に違う。あえて今は参照しにくい「マリ・クレール」の方から取ったことをお断りしておく。ちなみに、単行本化するときに「テープを聞きなおし」「発せられた言葉どおりに文字に起こした」と安芸氏は書いている。

 上記の記録だけでも十分だろうが、最近、確認した追加情報をあげておく。それは雑誌「文学界」(文芸春秋社)に連載されていた立花隆氏の「武満徹・音楽創造への旅」と題した記事のことである。これは「特別企画 30時間徹底インタビュー」と題されてはいるが、これもインタビューそのままではなく、武満氏のほかに当時の関係者からの証言も交え、再構成された一種の評伝のようなものである。その第2回(1992年7月号)〜第6回あたりまでが「二つのレント」を作曲した時代を扱っている。

------最初の作品として知られる「二つのレント」も、オリジナルの楽譜が失われてしまったんだそうですね。
「そうなんです。いま出ている『二つのレント』は、友人の福島和夫が保存していたスケッチから復元したもので、オリジナルとはちょっとちがうんです」(第2回)

------いろんなヴァージョンがあるという話ですが、どれくらいあるんですか。十とか二十とか?
「いやあ、それどころじゃないんですね。何十とあります。だけどいずれにしても、そのころ書いたものは、みんな無くなってしまったんです。かろうじてひとつだけ、福島の家のピアノの裏に捨ててあったものが残っていた」(第5回)

 以上で、立花氏の記述(記録?)も、内容的には武満氏の安芸氏との対談での証言と一致していることがおわかりだろう。あと僕に残った疑問点は、<「二つのレント」の謎(その2)>でご紹介した音楽評論家・佐野光司氏の「「ない」と言われている《二つのレント》の自筆譜、実はあるのです。武満さんは失ってしまったということにしようとしたのですが。」という発言(「日本音楽学会第57回全国大会」2006年10月28日)での「自筆譜」という言葉が、上記の「スケッチ」を指すかどうかという点だけである。まあ、この点もまたおいおい調べてみたいと思う。ともあれ、<「二つのレント」の謎(その1)>からおつきあいいただいた皆様、ながながとおさわがせしました。

□ 青土社・刊

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