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2013年1月 6日 (日)

モーツァルトのホルン用法(その1)

 モーツァルト作品におけるホルンの「アルト・バッソ」問題について、年初から Zauberfloete さんとの間で興味深いやり取りができている。その中で、ヘ長調の交響曲において、緩徐楽章で転調した場合にも主調のホルンが使われているという事例を紹介させていただいたところ、 Zauberfloete さんから以下のような貴重な示唆(コメント)をいただいた。

「他にも例があるかも知れませんが、モーツァルトの場合、大半が当該調性と同じ調性のホルンを使っているのではないかと思います。」
高いホルン、低いホルン(その7・モーツァルト編)のコメント欄)

 僕も前発言の時から気にはなっていたので、休暇を利用してモーツァルトの初期中期交響曲におけるホルン用法を調べていた。曲の選択・順番は基本的に新モーツァルト全集によっているが、曲順についてはザスラウなどを参照して一部、修正した。偽作の疑いのある曲も若干含んでいる。以下はその途中経過。

◯凡例
K番号(旧番号。あれば)、曲(第1楽章)の調性/用いられたホルン(=Cor)の調と本数(メヌエット主部および第4楽章は、調性もホルンの用法もこれも同じになるので省略する)、緩徐楽章の調性/ホルンの調と本数、トリオの調性/ホルンの調と本数(メヌエットなしの曲には(なし)とする)、の順に記してある(調性の小文字は短調)。※管楽器の基本は、Ob2+Cor2。「Cl」はクラリーノ=トランペット。ホルンの調が変わった場合、下線を引く。

K16(第1番)、Es/Es管2、c/Es管2、(なし)
K19(第4番)、D/D管2、G/D管2、(なし)
KAnh.223(19a)、F/F管2、B/F管2、(なし)
K22(第5番)、B/B管2、g/B管2、(なし)
K76(42a)(第43番)、F/F管2、B/F管2、d/Corなし(Fg2のみ)
K43(第6番)、F/F管2、C/F管2、B/管なし
KAnh.221(45a)「(旧)ランバッハ」、G/G管2、C/G管2(Obなし)、(なし)
K45(第7番)、D/D管2(Cl2&Tmp含む)、G/管なし、G/管なし
KAnh.214(45b)(第55番)、B/B管2、Es/Corなし(Ob2のみ)、F/管なし
K48(第8番)、D/D管2(Cl2&Tmp含む)、G/管なし、G/D管2(Cl2&Timpなし)
K73(75a)(第9番)、C/C管2(Cl2&Tmp含む)、F/Corなし(Ob2に代わりFl2のみ、Cl2&Tmpなし)、F/管なし
K81(73l)(第44番)、D/D管2、G/Corなし(Ob2のみ)、(なし)
K97(73m)(第47番)、D/D管2(Cl2&Tmp含む)、G/管なし、G/管なし
K95(73n)(第45番)、D/Corなし(代わりにD管のCl2)、G/Corなし(Ob2に代わりFl2のみ)、d/Corなし(Ob2のみ)
K84(73q)(第11番)、D/D管2、A/D管2、(なし)
K74(第10番)、G/G管2、C/G管2、(なし)
K75(第42番)、F/F管2、B/Corなし(Ob2のみ)、※メヌエットが第2楽章で、トリオは管なし
K110(75b)(第12番)、G/G管2、C/Corなし(Ob2に代わりFl2、Fag2のみ)、e/管なし
K111(「アルバのアスカーニョ」序曲&第1番)+K120(111a)、D/D管2(Fl2、トロンバ=Tr2&Timp含む)、G/D管2(Fl2を含む。Tr2&Timpなし)、(なし)
K96(111b)(第46番)、C/C管2(Cl2&Tmp含む)、c/C管2(Cl2&Tmpなし)、F/C管2(Cl2&Tmpなし)
K112(第13番)、F/F管2、B/管なし、C/管なし

 ここまで少年期から第2回イタリア旅行までの交響曲を見てきた(年代でいうと1764年〜1771年11月あたり。ただし若干の曲には年代が不確定の曲がある)。しかし、ここまでは、Zauberfloete さんのご指摘どおり、ホルンの管の持ち替えはないようだ。つまり、モーツァルトの場合、緩徐楽章やトリオでは曲の調性を必ず変えるが、そのときも最初の調の管でそのまま通すか、ホルンを使わないか、そのどちらかで対応している(ちなみに、ニ長調やハ長調の曲でホルンと同じく移調楽器であるトランペットを使う場合があるが、その使い方はホルンと同じである。K81(73l)だけは、ホルンの代わりにトランペットを使う)。さて、いつからホルンの持ち替えが始まるのだろう。

※音楽評論家の安田和信氏は、この「アルト・バッソ問題」に気づいているごくわずかな方のひとりであることは、以前、ご紹介した(アーノンクールの「初期交響曲集」の解説の楽器編成の説明で、そのアルトとバッソの違いを記されている)。今回、上記、交響曲の選択・曲順が上記とほぼ同じなので聴いていたら、その解説のヘ長調 K75の項で「B管へのクルック交換という発想がなかったためか、ホルンが使われない(代わりにオーボエがホルン的役割を担う)。」と書いていらっしゃるのを見つけた。あと、ト長調 K124では「ホルンはC管ではなく、G管のままで使用されているため、「再現部」の該当箇所では管楽器声部の音型が変えられている。」とある。我々と同じ問題意識の方が、専門家にもひとりはいらっしゃると知って、少し安心した次第。

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前回の記事に関し、cherubinoさんから貴重なコメントをいただいた。 http://zauberfloete.at.webry.info/201212/article_19.html http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2013/01/post-414c.html#comment-75558808 前回の記事で、私は交響曲第18番の第二楽章のスコア上の記載に関して、モーツァルトがそのように書いたものだと勘違いしていたのだが、cheru...... [続きを読む]

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