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2014年8月 8日 (金)

高いホルン、低いホルン(その22・ハイドン編 no.48)

 次の第48番は前曲の第41番に少し似ていて、自筆譜はないもののパート譜に由来する「アルト」指定が登場する。

11)第48番「マリア・テレジア」 (ランドン版は第1、3、4楽章のホルンにアルト指定、第2楽章はF管のホルンを使用)

 第1楽章の冒頭から、ホルンとオーボエのSoliによる華々しいファンファーレで始まる。これは非常に映える。この交響曲の場合も、前世紀の中葉にヨゼフ・エルスラーによる信頼できる筆写譜が発見されて、そのホルンのパート譜にははっきりと「in C Alto.」と書かれている(ランドンの「Haydn: Chronicle and Works, at Eszterhaza 1766-1790」にこのアルト指定を含む第一ホルンのパート譜の写真版が掲載されている)。第41番と同様に緩徐楽章アダージョはヘ長調で、こちらもホルンを含むが、ただしC管ホルンをF管ホルンに持ちかえる(ないしは管長を変える変え管=クルックを使用する)。このことで、音階上の制約から自由になることができている。これまで聴いてきた曲では、ホルンを使わないか、主として転調部分で使っていたわけだ。注目すべきはこのF管ホルンの使用法で、曲中、第16倍音まで登っていく旋律を高々と吹き上げるのである。F管なので実際の音高的には2点 f ではあるが、それでもすばらしい効果をあげていることには変わりはない。

 C管ホルンの音高的には第1楽章に第12倍音の上の a が2回使われるほかは、第3、第4楽章は第12倍音 g を数回使うのみである。新ハイドン全集もランドン版と同じく第1、3、4楽章はすべてアルト指定。実際、デイヴィス盤ほかをのぞいて、かなりの盤がアルト扱いになっている。第41番のトリオでは旋律的に高い a 音を使っていたのに比べると、第48番の a の場合はフレーズの最後に単音的に上がりきる形。難易度は少し低いのかもしれない。※下限は、ト音記号の譜面の「下のド」のすぐ下にある「ソ」(g)

 また楽器編成上の問題では、上記エルスラーのパート譜にはトランペットとティンパニのパートはなく、これをHauptquellenとしている新ハイドン全集版も同じ扱い。このあたりの事情は第38番、第41番の場合と似ていて、これらの楽器が加えられた筆写譜も別に数点あるが、第48番の場合は系統だった引証ではなくハイドンに由来するとは考えられないという(特にトランペット)。ランドンは「この時期のハイドンにとって,高いホルン(ハ長調のアルト・ホルン)を伴うハ長調の作品は,交響曲作品であれ,舞台作品であれ,必然的にティンパニを伴うことを意味していた」との理由で、「ブタペストに残る筆写譜からとった」旨の注記をつけた上で、ティンパニ・パートを付け加えている(さらに、ホルン・パートにトランペットの楽器名を加える)。

 ただし、演奏現場での対応は分かれている。マリナー、グッドマン、ヘンヒェン、ホグウッド、オルフェウス室内管弦楽団の各盤は、高いホルンのみでトランペット&ティンパニなしで演奏している。ゴーバーマン、ドラティ、ソロモンス、ワーズワース、クラーク、ピノック、ブリュッヘン、フェルミューレン等は、アルト扱いのホルンにティンパニのみを使っている。アルトのホルンにトランペットを重ねた上、ティンパニを使っているのはバレンボイム盤、ファイ盤と、おそらくムーティのライヴ盤も※。また特殊なところでは、ディヴィス盤は上述のようにバッソ扱いのホルンにトランペットとティンパニを加えている(マクシミウク盤も※※)。フィッシャーの全集に含まれる盤は、ホルンを省きトランペット(とティンパニ)のみを使っているようだ(第2楽章はホルン。たぶん第3楽章のトリオも)。

 このようにハイドンのホルンの用法は、初期の交響曲と比べてもここにきて少し変化が見られる。以下の数曲もアルト指定がからんだ曲が続く。

※ファイはトランペットの重ね方やティンパニの楽譜に少し手を加えている。このファイ盤とバレンボイム盤のトランペット・パートも、第1楽章ではティンパニに準じて吹かれていて、単純にホルンと重ねているわけでないようだ(例えば、第1楽章冒頭)。逆にムーティ盤の第1楽章はほとんどトランペットの音しか聴こえないが。

※※(2014.8.14の追記)往年の名指揮者リステンパルトが「マリア・テレジア」を録音していて、そのLPをオークションで手に入れた(3千円以上かかったが、それでも安い方。ジャケットこそペラペラだが、ずっしりとした重量感のある盤である。演奏も高弦などよく歌っていて非常に美しい)。こちらはバッソのホルンに、トランペットとティンパニを加えているタイプ。ただし、使用楽譜は非常に変わっていて、およそハイドンらしくないトランペット&ティンパニがうるさいくらい鳴っている。旧ハイドン全集だろうか?
>>さらに調べてみたが、Imslpにオイレンブルクのプレトリウス校訂版(Ernst Eulenburg, Ed.517, n.d.(ca.1925). Plate E.E. 3687.)が掲載されており、これと同じパートのようである(ただし、現在Imslpにアップされている楽譜には、肝心のティンパニのパートに手書きで書き込み・修正があるので注意。この点については、手書きの書き込みも含んだ形で印刷されていたことがわかった。>>こちら)。ランドンの「The Symponies of Joseph Haydn」によれば、「旧全集と古いブライトコプフのパート譜に基づく。偽のトランペット&ティンパニのパートは、ジムロックに由来を持ち、ブライトコプフのオーケストラ・パート譜として広くでまわっていたもの」との情報がある。
(2014.9.2の追記)ヤニグロ盤も、少なくとも第1楽章では同じような楽譜を使っている。
(2014.10.2の追記)シェルヘン盤も同様と思われる。

>>下記画像(上の説明で触れたヨゼフ・エルスラーによる筆者譜)と、こちらの記事もご参照ください。

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>>リステンパルトのLP。こちらの記事もご覧ください。

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11月の演奏会でこの曲を演奏する。今回使用するのはトランペット、ティンパニが除かれている版。私もよく知らなかったのでちょっと編成について調べてみた。 以下、cherubinoさんのブログ http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2014/08/22-98e6.html を参考にさせていただいた。... [続きを読む]

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