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2015年6月29日 (月)

アバドのマーラー全集まとめ

 クラウディオ・アバドのマーラー交響曲全集について、れいにゃさんという方からコメントをいただいた。

http://gospels.cocolog-nifty.com/classic/2007/12/1500_8662.html#comment-126475380

 実際、アバドはマーラーの交響曲を、(第8番を除いて)ほぼ3回づつ録音・録画している。その数は、録音・録画合わせてやはり3回の全集を残したかのバーンスタインと双璧だろう。録音した時期で言えば、第1期がシカゴ響、ウィーン・フィルを中心にしたもの、第2期がベルリン・フィルとのもの、最後がルツェルン祝祭管とのものになる。が、結果、各期とも全集完成には至らなかったことになる。今回、せっかくコメントをいただいたので、その歩みを年代順に調べてみることにした(ただし正規盤のみ)。

1)第2番 CSO 1976年2月
2)第4番 VPO 1977年5月
3)第6番 CSO 1979年2月
4)第5番 CSO 1980年2月
5)第3番 VPO 1980年9月
6)第1番 CSO 1981年2月
7)第7番 CSO 1984年1、2月
8)第10番~「アダージョ」 VPO 1985年6月(ライヴ)
9)第9番ニ長調 VPO 1987年5月(ライヴ)

 アバドは1986年からはウィーン国立歌劇場・音楽監督を務めている。そして、この時点で第8番を除く9曲が録音済みであった。シリーズを通して、くじゃくの羽根を模したようなデザインで統一されている。
 で、ベルリン・フィルとの『巨人』が来る。これはベルリン・フィル第5代首席指揮者に決まったばかりのアバドが、指名後初めて指揮台に立った記録であった。

10)第1番 BPO 1989年12月(ライヴ)
※同プロジェクト内の映像記録あり(LD。最近、「DIGITAL CONCERT HALL」にもアップされた。)

 この後、1990年にベルリン・フィルのシェフに正式に就任、翌1991年にウィーン国立歌劇場・音楽監督を辞任したことで、以下新たなシリーズが始まる。1992年のインタビューでアバドは、

「マーラーのシンフォニー全集がいつ完成するかというのですか。第一番をベルリン・フィルと再録音したのはご存じでしょうが、九三年には第五番をもう一度やり、そのあとベルリン・フィルと第八番を録音する予定です。(聞き手・歌崎和彦氏、「レコード芸術」1994年5月号)」

と答えている。つまり、この時点では以下、再録音シリーズを続け、いずれ第8番を録音、「全集」としたいという意図が見て取れる。

11)第2番 VPO 1992年11月(ライヴ)
12)第5番 BPO 1993年5月(ライヴ)
13)第8番 BPO 1994年2月(ライヴ)

 私が iTunes で購入した全集は、この第8番のリリース後、すぐに全集にまとめられたもので、日本盤も出た。第1、2、5番の3曲については、10)~12)の再録音盤を使っているのがミソ。実は発売後20年たった今でもHMVやタワー・レコード、Amazon等では、この全集(インポート盤)が購入可能で、同一パッケージとしては異例のロングランだ。れいにゃさんもご指摘のように「中途半端な全集」だと言われればまさにそうで、HMVのユーザー・コメント等でもシカゴ響、ウィーン・フィルで統一して欲しかったという意見が多いようだ。ただ、上記インタビューでもわかるように、こちらがアバドが自分の意思で認めた唯一の全集になることは間違いない。

 ただしアバドはこの第8番収録時のインタビュー(聞き手・山崎睦氏、「音楽の友」1994年5月号)で、「これでマーラーの録音完了ということですが、もうマーラーは演奏しないのですか」と聞かれたとき、「とんでもない」と反論している。さらに「マーラーは、あなたの生涯に寄り添うわけですね」と尋ねられ、「まったくその通りです」と、マーラー演奏にライフワークとしてずっと関わり続けると宣言している。
 以下、ベルリン・フィルとの録音が続く。これらはベタ地に「MAHLER」の名前を太文字で抜いて、アバドの顔写真をあしらったもので統一されている。ちょうど下記15)第3番の録音前(1998年)に、同じ山崎氏のインタビューで「ウィーン・フィルとの素晴らしい録音がありますが、意図的に相違を考えますか?」と尋ねられ、「(強い調子で)当然! 何か新しいものを追求し、より良くあらねばと考えています」とアバドは答えている(「音楽の友」1998年6月号)。これらをきいても、彼が過去の録音等にこだわらず絶えず新しい表現を目指していたことがわかる。

14)第9番 BPO 1999年9月(ライヴ)
15)第3番 BPO 1999年10月(ライヴ)
16)第7番 BPO 2001年5月(ライヴ)
17)第2番 LFO 2003年8月(ライヴ)
※同プロジェクト内での映像記録あり(映像・ライヴ)
18)第9番 GMJO 2004年4月(映像・ライヴ)
19)第6番 BPO 2004年6月(ライヴ)
20)第5番 LFO 2004年8月(映像・ライヴ)
21)第4番 BPO 2005年5月(ライヴ)

 途中、2002年にベルリン・フィルの芸術監督を辞任。自ら「夢の大プロジェクト」(1998年の山崎氏のインタビュー)と呼んだルツェルン祝祭管との関係が深くなるが、以後もベルリン・フィルとの録音も2005年まで平行して継続されている。10)から21)までの間に、ベルリン・フィルによる新全集が完成と言いたいところだったが、また1曲だけ足りなくて、第2番はなぜかルツェルン祝祭管としか録音していない。確か1996年にベルリン・フィルとともに来日したとき、『復活』を取り上げていたと思うのだが※。
 ルツェルンでの夏の音楽祭での記録は、これまで同様、すべて映像付きになる。

22)第7番 LFO 2005年8月(映像・ライヴ)
23)第4番 GMJO 2006年4月(映像・ライヴ)
24)第6番 LFO 2006年8月(映像・ライヴ)
25)第3番 LFO 2007年8月(映像・ライヴ)
26)第1番 LFO 2009年8月(映像・ライヴ)
27)第4番 LFO 2009年8月(映像・ライヴ)
28)第9番 LFO 2010年8月(映像・ライヴ)※※

 結局、ルツェルン祝祭管とのあいだでも第8番が欠けている。ライフワークと言いながら、アバドはまとまった形では1度しか「マーラー交響曲全集」を残せなかったことになる。これはかえすがえすも残念なことだ。
 ちなみに、れいにゃさんのコメントにもあるように、2014年に韓国のユニバーサルが上記1)~9)に、後に録音した第8番を加え、「アバドが初めて録音したマーラー交響曲全集」として出したが、これは無論アバドが関与した企画ではないだろう。また最近、「Claudio Abbado: The Symphony Edition」からの分売りという形で、ベルリン・フィルとの演奏にルツェルンとの第2番を加えた全集ボックスが出ているようだ。

※実はベルリン・フィルによる第2番『復活』の正規録音は非常に珍しい。初録音も非常に遅く、1993年1月のハイティンクとの録音だったという(映像版もあり)。このあとラトルとも同曲を録音した(2010年)。ベルリン・フィルのマーラー交響曲全集は、アバドに続きハイティンクも中途で挫折。ラトルも全集は残しそうにない。
※※翌2011年5月にベルリン・フィルと、第10番(2種)および『大地の歌』のライヴ映像を収録していて、「DIGITAL CONCERT HALL」で視聴可能(ただし有料)。他に「DIGITAL CONCERT HALL」では、1999年のジルベスター・コンサートにおける第5番のアダージェットが聴ける。また2011年8月のルツェルンでの第10番も映像収録されており、衛星放送で放映されたようだ。

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コメント

詳細な情報ありがとうございます。助かります。
10番のアダージョですが、BPOとの2011/5ならびにLFOとの2011/8の映像を持っています。それとLFOとの大地の歌も2011/8でもっています。9番のお勧めを教えてください。

投稿: 星野誠治 | 2019年2月 6日 (水) 18時58分

星野様、初めまして。昨今、ブログの更新をサボりがちで、お返事が遅れまして誠に申し訳ありません。アバドのマーラー演奏に関する映像情報、ありがとうございました。実際に映像記録があることがわかりよかったです。
「9番のお勧めを」とのことですが、従前はベルリン・フィルとの演奏が良いと思っていたのですが、今回、あらためてウィーン・フィルとの最初の録音を聞き直してみたら、これが非常に良かったのです。奏者の自発性や技術では負けますが、高弦の響きをはじめ演奏全体のソノリティには独特な魅力があります。迫力も十分です。ぜひ一度お聞きください。星野様のお勧めもぜひ教えてください。

投稿: cherubino | 2019年3月 6日 (水) 20時40分

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