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2016年3月23日 (水)

ザンクト・フローリアンの朝比奈隆

 1975年に、朝比奈隆氏が手兵の大阪フィルハーモニー管弦楽団とブルックナーの聖地ザンクト・フローリアン修道院を訪れて行った交響曲第7番ホ長調(ハース版)のライヴ録音・新盤が出た。初出はジャン・ジャンから出た「ブルックナー交響曲全集」(1978年)の特典盤LPで、翌年にはビクターから市販LP2枚組でも出された。CD化されたのは1987年というから、そこから数えても今から30年弱前になる。HMVのユーザーレビューで、埼玉県の七海耀さんという方が、 「なんと、初出の1987年から、何も変わらず。リマスターもされず。新装再発もなし。カタログから消えたこともなく、そのまま売れ続ける。もちろん、技術的には、後の新日本フィルや都響との録音が優れているのかもしれないが、何と言っても、豊かな情感は、この演奏に勝るものなし。そんな盤がひとつくらいあっても良いだろう。」と書かれているが、これは至言であろう。

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 今回、そのロングセラー「聖フローリアンのブルックナー」が、満を持して再発された。日本の復刻レーベル Altus がオリジナルマスターテープを発掘し、それをもとにリマスターしたのである。録音されて40年以上過ぎているだけにマスターテープの劣化も心配されたが、もともとの素性がいいのだろう。曲が始まる前の無音のところから、まるで大理石作りのマンモア・ザールに座っているような臨場感・空気を感じられる録音になっている。会場にノヴァーク版の編纂者であるレオポルト・ノーヴァクが居合わせて、演奏後、賛辞を寄せたことでも有名だが、ハース版の特徴であるアッチェレランドしない第1楽章の最後は、何度聴いても美しく感動的だ(実はこの楽章のあと、聴衆から思わず拍手が発せられたということで、その異例の拍手も今回の新盤には収録された)。アダージョや終楽章・第3主題等での悠々とした歩み、長いゲネラルパウゼも、非常に好ましい。この演奏に慣れると、テンポをしきりに変える他の指揮者の演奏がわずらわしくさえ思えてくる。この演奏会は最初、リンツでの演奏を希望していたものが、会場等の都合で次善の策としてザンクト・フローリアンでの演奏が提案されたのだという。曲、歴史、指揮者、オーケストラ、聴衆、会場、スケジュール、そしてCDの制作者たち・・・この名演・名録音は、そうした諸条件が奇跡のように積み重ねられて成立したと思うにつけ、長く聴き継いでいきたい遺産だ。

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