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2016年4月 9日 (土)

新時代の歌姫 -- ラケル・アンドゥエサ

 今年始め、隣町で行われた夜間会議の帰りに車の中で聴いたNHK-FM「ベスト・オブ・クラシック」で、とある女性歌手の声が耳を捉えた。非常にリリックな、しかしまるでポピュラー歌手のように奔放な歌いぶり・・・。それがスペイン出身のソプラノ歌手、ラケル・アンドゥエサであった。電波に乗って伝えられてくる音楽は、旋律的には確かにバロック音楽風なのだが、彼女が歌うと不思議に年代不詳の新しい音楽に聴こえる。今、そこの街角で、即興で生まれたばかりの「唄」とでも言うように。

 調べてみると、彼女のCDはすでに結構出ている。マーキュリーが輸入して国内流通仕様で出ている『天国を想うイタリア・バロック』は、今回の放送といくつか収録曲が被っている。その意味で、放送を聴き逃した方にはお薦め。だが、今日、僕が聴いているのは同じマーキュリーが出しているスペインのバロック歌曲集『くるおしきスペイン17世紀の歌』の方だ(昨年末、第2集も出た)。ルネサンス期のスペイン音楽としては、音楽史的にはビクトリアを始めとする教会音楽や、器楽曲の方が有名だろう。ルネサンス期に「ビリャンシーコ」というスペイン語による世俗歌曲が盛んに歌われていたこともあったというが、その後1600年代以降の歌曲は、レパートリーとしてもめったに聴くことがない。まとまったものとしては以前、スペインの古楽レーベル Glossa が出していた『ベラスケスの時代の音楽 -- 17世紀スペインの歌曲と器楽作品集』くらいしか僕も聴いたことがない。

 アンドゥエサの歌うバロック歌曲集は、自国の歌だけによりインティメーナな歌いぶりだ。ホセ・マリーン(1619-1699)作曲の「もう考えないでおくれメンギーリャよ」は、上記 Glossa のCDにもあり、我が国の波多野睦美さんも時折リサイタルで歌っている比較的有名な曲だが、アンドゥエサの透明かつ軽快な声で聴くと、本当に気分が晴れるというもの。バックのテオルボ、バロック・ギターも自在な弾きぶりだ。ほかに、こちらはフランスの作曲家の手になるものだが、リュリの有名なコメディ・バレ『町人貴族』の「諸国民のバレ」第3アントレで歌われる「わかっている、私が死にかかっているのは」は出色。声の澄み切った美しさだけでなく、究極の愛を歌う表現者としても、ここで彼女は一段高みに上っている。

 アレグロミュージックによれば、アンドゥエサは今年6月に初来日するそうだ(倉敷、西宮、名古屋、東京)。同じ古楽畑から出たソプラノ歌手としては、サンドリーヌ・ピオーが近年の来日で大いに話題になったが、アンドゥエサも一気にブレイクしそうな予感がする。聴きに行こうかな。

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※以下、当日の放送曲を書いておく。いずれNHKのサイトからも消えてしまうと思われるので。

-古楽特集-(1) 解説:濱田芳通(2016年1月18日放送)
「むなしさのベルガマスカ“すべてのむなしさは神を愛するほかには”」作曲者不詳(2分38秒)
「“アリアンナの嘆き”による“マグダラのマリアの嘆き”」モンテヴェルディ作曲(9分20秒)
「私が世を去るのなら」マッツォッキ作曲(3分55秒)
「お母さん…私を修道女にさせないで」作曲者不詳(3分05秒)
「子守歌の調べによる宗教的カンツォネッタ」メールラ作曲(8分14秒)
「トッカータ・アルペッジャータ」カプスベルガー作曲(3分31秒)
「あなたの最後の思い出」作曲者不詳(1分33秒)
「スターバト・マーテル(悲しみの聖母)」サンチェス作曲(10分45秒)
「名誉を傷つけられたスパニョレット」作者曲不詳(2分01秒)
「神ゆえに、神を愛す」マッツォッキ作曲(2分35秒)
「宗教的カンタータ“この鋭いとげは”」フェラーリ作曲(7分41秒)
「そう信じるなんてばかなこと」メールラ作曲(3分17秒)
「私の恋人」作曲者不詳(2分15秒)
(ソプラノ)ラケル・アンドゥエサ
(テオルボ)ヘスス・フェルナンデス・バエナ
~スイス・フリブール 聖ミシェル学院付属教会で収録~
(2014年7月9日)
(スイス放送協会提供)

 放送の最後は、解説の濱田氏による既発売のCDからの紹介。
「もう考えないでおくれ、メンギーリャよ」ホセ・マリン作曲(4分07秒)
「瞳よ、私を蔑んでいるからには」ホセ・マリン作曲(4分24秒)
「アモールよ、とどのつまりは」ホセ・マリン作曲(2分31秒)
(ソプラノ)ラケル・アンドゥエサ
(アンサンブル)ラ・ガラニア
<Anima e Cotpo  AEC001>
「太陽に続く2つの星」マチャド作曲(2分52秒)
(ソプラノ)ラケル・アンドゥエサ
(アンサンブル)アカデミア・デル・ピアチェーレ
<Glossa Platinum  GCDP33201>

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