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2016年5月15日 (日)

ウラニア盤のないウラニア盤紹介(その1)

 昨年の話になるが、隣町のまた隣町のBOOKOFF で、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルが演奏したベートーヴェン作曲/交響曲第3番 変ホ長調の中古CD(CE28-5746)を見つけた。特に珍しい演目でもないし、彼の「英雄」ならばすでにいくつも持っている。が、その日、僕が気になったのはそれが懐かしい「ユニコーン・シリーズ」というパッケージだったから。その中身は、いわゆる「ウラニアのエロイカ」である。バジェットプライスだったので購入して、早速、帰りの車中で聴いてみた。マスタリングの関係か、多少、鮮烈さの感じられない録音とはいえ、神秘的な最弱音から荒れ狂う強奏まで、フルトヴェングラーの真骨頂のような演奏を久しぶりに堪能した。

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 「ウラニア」盤と言えば、現在ではそうでもないと思うが、我々の世代にとってはいまだ憧れのような気持ちを引き起こす響きを持っている。正確には、1953年に米ウラニア社が発売したLPレコードで、戦時中・1944年の演奏が収められている。番号は「URLP7095」。無論、正規盤ではなく、戦時中にラジオ放送用に聴衆なしで録音されたものを演奏者に無断で発売したもの。訴訟にもなったというが結局、4〜5年ほど発売された後、廃盤になっていたという。僕がその盤のことを知ったのは、1970年代の中頃から後半にかけてのことだったと思う。今は我が市の市長になっているN君が、フルトヴェングラーの、というか宇野功芳氏のファンであり、その彼から「ウラニアのエロイカ」というまぼろしの盤があると教えてもらって、いっしょに彼の自宅のステレオセットで聴いたように記憶している。

 ところで、ユニコーン・シリーズとは、1968年になって、ソ連のメロディア社が自国内でLP化していたフルトヴェングラーの一連の戦時中録音を、英レコード・ハンター社がユニコーン・レーベルとして西側で発売し始めたものだ。代表的なものに、1942年のベートーヴェンの「第九」や、1943年の同交響曲第5番のライヴなどがある。そのときに1944年のエロイカも、「UNI-104」という番号で出ている。ところが、実は当時出ていたメロディア盤は、1952年盤のスタジオ演奏と同じ録音だったという。つまり音源違い。必然的に、「UNI-104」はメロディア盤の板起こしではなかったというわけである。後年、それはフルトヴェングラー夫人から「出すのであれば、こちらも一緒にどうぞ」と手渡されたテープから作製されたものだったことを、当レーベルの創設者ジョン・ゴールドスミスが証言している。これは平林直哉氏が『フルトヴェングラーを追って』(p.14、青弓社・刊)の中で紹介している話。

 また、オリジナルの「ウラニア」盤は、若干スピードが速く録音されていて、そのせいでピッチが約半音高くなっていたことでも知られている。<ホ長調>の「エロイカ」!。これは当初、オリジナル盤特有のこととされていたが、実はソースの違う上記ユニコーン盤も半音高い。結局、放送局に残されたテープ自体が半音高く、ウラニア社はそれをそのままLP化したことが後に判っている※1。また第1、2楽章をA面に詰め込んでいることも特徴のひとつ(冒頭の2楽章で約33分強かかっていたものが、上記スピード違いの関係で約32分と短めになっている)。ユニコーン盤もこれは同じ扱いで、第2楽章は Side1 で収まっている。

 そのユニコーン盤「UNI-104」が以下のもの。

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 当盤のクレジットには、「(まるP)1959」とあるので、原盤製造は1969年だったろう。ただ当盤のライナーノーツは、Hans-Hubert Schonzeler 名義のもので、その執筆者の名前のあとに「(Copyright 1970)」というクレジットがあるので、これに従えば発売は1970年だったということになる※2。また、この「UNI-104」には、番号は同じでも別の白い文字だけのジャケットもあって、どちらが先だったのかも諸説あるようだ。清水宏氏による「フルトヴェングラー完全ディスコグラフィー」というサイトの「「ウラニアのエロイカ」の話題です」では、上記馬のジャケットを「初版ジャケット」とし、「ウラニア盤以外でウィーン・フィル.の美音が聴ける」盤と認定しておられるが※3。

 ちなみに当時、日本のヤマハが UNIC 記号のユニコーン盤を輸入販売(一部、国内プレス)したのは有名な話だ。他では言われていないことだが、この輸入販売には、「英雄」(UNI-104)は含まれていなかったのではないか。音楽評論家のW氏は「イギリスのユニコーンレーベルが1970年代に発売、契約を結んだヤマハ経由で日本にも入ってきた。」と書いていたそうだが、調べてみても販売されたという記録は出てこない。こちらのサイトに掲載されている発売当時のパンフレットを見ると、ヤマハで輸入販売が予告されたのは以下のとおり(演奏はいずれもフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル)。

UNIC-100/101 ベートーヴェン 交響曲第9番/ブラームス 「ハイドンの主題による変奏曲」
UNIC-102 ブラームス ピアノ協奏曲第2番(フィッシャー)
UNIC-103 ベートーヴェン 交響曲第4番
UNIC-104 シューベルト 交響曲第9番
UNIC-105 ブラームス 交響曲第4番/ベートーヴェン コリオラン序曲
UNIC-106 ベートーヴェン 交響曲第5番/同ピアノ協奏曲第4番(ハンゼン)

 「UNIC-104」はシューベルトの交響曲第9番になっていて、「英雄」は飛ばされている。しかもこの「グレート」はイギリスでも発売中止となっていて、最終的に出なかった。つまり「UNI-104」に対応する「UNIC-104」は存在しないということになる※4。

 実は僕自身オリジナルの「ウラニア」盤を聴いたことがないので比較はできないのだが、この盤の音質は非常にすっきりしているのが特徴。他の1944年の演奏を収めたLPと比べると、やや録音レベルが低い。そのせいか荒々しい迫力には欠けるものの、変にいじられていないという感じの音質である。低音がボンついていないので、ティンパニーの音がそれらしく響く。以前そう推測されていたようなメロディア盤の「板起こし」ではなく、テープ由来だったというのもうなずける。平林直哉氏も、この盤はフルトヴェングラー「夫人所有のテープによる初出盤なのだ。となると、もっと騒がれてもよさそうなものだ」。「もしかするとこのUNI-104は今後中古市場での価格が上がるかもしれない。」と指摘している。

※1 仏ターラから1998年に出た「FURT 1031」というCDに、ORF のマスターテープのタイミングが書かれており、それによると第1楽章から、14'53 / 17'05 / 6'16 / 12'13 となっている。
※2 有名なshin-p氏のサイト「フルトヴェングラー資料室」1942-5 では、(70/05)とある。また日本コロンビア・DXM-101-UC盤の解説では、1968年7月発売のように読めるが(岡俊雄氏)、これは「UNI-100/102」の発売年(1968年6月)に近過ぎるようだ。
※3 このジャケットの絵を、収録曲が「英雄」だけに「ナポレオンの図柄」としている資料もある。だがこの絵は、「UNI-104」のクレジットによれば「Polish Trumpeter」というタイトルで、絵の中の将校は実際、背中にトランペットを背負っている。作者は、フランスの画家テオドール・ジェリコー Jean Louis André Théodore Géricault(1791-1824)。ちなみに、同じような構図の有名な5枚の絵「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト(アルプスを超えるナポレオン)」の作者は、ジャック=ルイ・ダヴィッド Jacques-Louis David(1748 - 1825)。その類似から、LPのジャケットに使われたのだろうか。
※4 イギリスで出た盤の UNI 記号では、「グレート」は「UNI-105」となる予定であった。一方、ヤマハのパンフレットで「UNIC-105」とされたブラームスの交響曲第4番他も、結局、ユニコーンでは出なかったようだ。
 ちなみにヤマハからは、上記パンフレットで予告されたもの以外に、以下の盤が出たようだ。
UNIC107 シベリウス ヴァイオリン協奏曲(クーレンカンプ)
UNIC109-110 ブルックナー 交響曲第8番(こちらはVPO)

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