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2016年6月 5日 (日)

ウラニア盤のないウラニア盤紹介(その4)

 この記事の(その1)(その2)では、「ウラニア」盤の復刻LPのうち、最初期に出たユニコーン盤、ターンナバウト盤を紹介した。ところで先日、オリジナルの「ウラニア」盤を板起こししたCDのひとつ、「Opus蔵」盤の解説を読んでいたらこのように書かれてあった。

「1970年前後のほぼ同時期に、フランスのPathe(2C051-63332M)、アメリカのVOX(TV-4343)、イギリスのUnicorn(UNI-104)から、この「ウラニアのエロイカ」と細部まで全く同じ演奏がフルトヴェングラー夫人の正式なライセンスを得て発売されたのである。」(末廣輝男氏「ウラニア「エロイカ」とメロディア「コリオラン」」)

 ここで言われているのは、仏 Patheの「References」シリーズで出たLPのこと(2C 051-63.332)。この盤のレーベル面に、確かに「(マルP)1969」という表示がある。

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 おそらくこの表記を元に1969年発売としているサイトもある(例えば、こちら)。ただ、この末廣氏の解説では、(その3)で紹介した日本コロンビアの「DXM-101-UN」を(おそらく誤って)ピッチ修正盤であるとしていて、この点も前記のサイトに記されていることを考えると、直接的な情報ではなくこのサイトの情報を元に、「1970年前後」の発売と書いているという可能性もあるのではないか。また平林氏の『フルトヴェングラーを追って』(青弓社・刊)によれば、ユニコーン・レーベルが EMI の傘下に入ったのは1975年。なので、1969年という早い時期に1944年の演奏を出せたのだろうか。そもそも1969年前後に EMI が「ユニコーン音源」を手にしていてLP化していたのなら、英ハンター社(ユニコーン)や米 VOX 社(ターンナバウト)が同じ音源から採った盤を発売できただろうか。つまり仏 Pathe 盤の発売はもう少し後であり、上記「(マルP)1969」は、原盤、つまりユニコーン盤がこの年に作られたことを示しているのだけなのではないだろうか(2016/7/1の追記 絶対確実な情報とは言えないが、6月に手に入れたフルトヴェングラーのディスコグラフィー『The Furtwangler Sound; Third eition 1990』には各盤の発売年が記されており、この仏 Pathe 盤については「1980」との記述があった)。実際にこの仏 Pathe 盤の音は軽めの音作りで、ピッチ未修整、第2楽章の分割なしという点でも、ユニコーン盤に近いものがある(ホルンの高音などは、こちらの方がずっと良く響くが)。無論、僕のこの推論も直接的な情報は何もないので、末廣氏の情報を否定できるものではないが。

 さらに同じフランス盤だが、仏フルトヴェングラー協会から5枚組の限定LPセット(SWF7001-5)が出ていて、これにも1944年の演奏は含まれている。

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 当盤の解説書には、「février 1970」のクレジットがある。つまり、この盤もかなり早い時期の復刻と言える。協会盤ということで、ユニコーン盤と同じくフルトヴェングラーのエリザベート夫人あたりから原テープが出ているのかと想像していた。ただこちらはピッチ未修整ながら、第2楽章の分割ありのタイプ。その分割箇所は、(その2)(その3)で紹介した米ターンナバウト盤、日コロンビア盤等(第157小節終わり)と違う箇所、冒頭から約「7:25」あたり=第104小節前半まで、で分けられている。やはりユニコーン盤とは由来が違うのだろう。某巨大掲示板では、オリジナルのウラニア盤「URLP-7095の盤起こし」とも言われているが、少なくとも僕の所有盤を聴く限り、低音はかなりぼんやりしていて、板起こしCDで聴く URLP-7095 ほどハイ上がりな感じはしない。またこれまで聴いてきた復刻LPより少し音の鮮度は落ちていて、高音、特にホルンがしゃりついた感じの音になっているのが気になる。

 ところで、「ウラニア」盤の復刻LPとしては、新しいメロディア盤も忘れてはならないだろう。ソ連のメロディア社が自国内でLP化していた「英雄」の戦時中録音は、クレジットに反して1952年盤のスタジオ録音だったという話は(その1)にも書いた。大戦後、ソ連が持ち帰った録音テープの中に、1944年の「英雄」はなかったと思われていた。しかし1990年になって、我が国の新世界レコード社がメロディア社の再プレスLPを全23巻分輸入販売した。その折に、なぜか「ウラニアのエロイカ」がそこに含まれていた(第1巻、M10-06443)。

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 この音源をどこで調達したかは不明で、西側の音源からのコピーとも言われるが、こちらはピッチ修正済み。第2楽章の分割は、上記仏フルトヴェングラー協会と同じ箇所、ただしピッチ修正の関係で冒頭から約「7:35」あたり=第104小節前半まで、で分けられている。冒頭の和音は、第2回目のものを2度くりかえしていると言われていて、確かに第1回目がこれまで聴いてきたLPと比べてやや短く聴こえる。ただしその割には、非常に聴きやすい音質である。第1楽章では「ブーン」というハム音が目立つが、それを除けば少なくとも私の家のステレオでは、最も歪みの少ない音で鳴る。第2楽章のSN比の良さも驚異的だ。メロディアはなぜ1990年の時点で、このような良質な音源を手に入れることができたのだろうか。いずれにせよ、EMI のスタジオ録音を収録した旧メロディア盤が数万円するのに比べて、その10分の1くらいの値段で買えることを考えると、この新メロディア盤は非常にお買い得ではないだろうか※1。

※1 露メロディアからは、1993年(MEL CD 10 00710)と、2006年(MEL CD 10 01106)という2種のCDが出ている。当然ながら音の傾向は似ているが、LPの方がやや解像度は高い。

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コメント

フランスのPathe(2C051-63332M)は1980年代の発売です。
私はこのLPを1982年に新品で購入しました。
PatheのReferencesシリーズそのものの初発売が1980年以降なのですから「Opus蔵」盤の解説は完全に間違いです。
おそらく解説を書いた方は1980年頃当時の事をリアル体験していない人なのではないでしょうか。

投稿: マッキー | 2017年1月25日 (水) 11時07分

マッキー様、コメントありがとうございます。

>PatheのReferencesシリーズそのものの初発売が1980年以降

また、貴重な情報ありがとうございました。

>私はこのLPを1982年に新品で購入しました。

実際に、体験された方の言葉が一番信頼できます。ある方が推測で書かれたことが一人歩きして、間違った定説になることはよくあります。私もごくごくたまにですが、Yahoo!知恵袋などで、他の方に自分のブログ記事を引用されているときがあって、間違いを増殖させていないか心配になることもあります(苦笑)。今回のように、先達の方々にフォローいただけると、安心です。今回は本当にありがとうございました。

投稿: cherubino | 2017年1月25日 (水) 12時25分

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