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2018年1月29日 (月)

リラ・オルガニザータという楽器はどんな音がしたか(その2)

 前回は「リラ・オルガニザータ」という楽器の概要をお伝えした。早速、表題どおり「どんな音がしたか」をハイドンのリラ楽曲の音源等で聴いていきたいと思うのだが、正直、それはかなり少ない。世界中のハイドン音楽を集めている『ハイドン音楽倉庫』Daisy さんのサイトでも、リラ・オルガニザータを使用したとされる盤は、協奏曲で2枚、協奏曲(2曲)とノットゥルノ(3曲)で2枚、という2つのシリーズしか見つからなかった。

 まずは協奏曲で、ヒューゴ・ルフ(Hugo Ruf)のリラ・オルガニザータ、シュツットガルト・ソロイスツの演奏(『ハイドン音楽倉庫』さんの紹介記事はこちら>HOS)。ハイドンのリラ・オルガニザータ協奏曲2曲(Hob.VIIh:2、VIIh:4)が収録されている。こちらは、LP時代にパイオニアから2枚の国内版LPで出されていた全曲集からのCD化(※1)。日本盤LPのシリーズ名も「ヴォックス楽器博物館」であ理、元々は Vox 原盤であったと思われる。海外では、Vox 系のTurnabout レーベルでも出ていた。

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 ただ、このハイドンの協奏曲は2台のリラ用であるにも関わらず、リラの演奏者としてはフーゴ・ルーフ(LPの表記)しかクレジットされていない。(その1)にも書いたように、リラ(・オルガニザータ)は、メロディとしては単音しか出せない楽器である。もしかしてルーフ一人で多重録音したのかと考えていたが、実物のLPを手に入れてみると、そこに答えがあった。

「●このレコードの使用楽器について
 18世紀以降、小型の手廻しオルガンが、クランクを廻すというメカニックの類似からドレーライエルにちなんでライエルカステンと呼ばれた。英語のハーディ・ガーディの用語法にも同じ変化がみられる。このレコードでは、ヴィオラ・ダ・ガンバを受け持っているヨハネス・コッホが復元したライエルカステンが演奏に用いられている(写真2)。したがって、リラ・オルガニザータの擦弦楽器としての機能はこの楽器には含まれていない。また、送風装置が電気化されているので、一人の奏者によって演奏されている。リラ・オルガニザータは、弦かパイプのどちらかがだけでも演奏されることができたので、このレコードは、パイプだけで演奏した音色を再現しているということになろう。(解説=大久保一)」

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(パイオニアLP、H-5023V から。上の写真1が、オルゲルライエル=リラ・オルガニザータ、下の写真2が演奏に使われたライエルカステン)

 ということで、基本的にフーゴ・ルーフ/シュツットガルト・ソロイスツ盤の演奏では、箱形の電動小型オルガンの一種が使われていたことがわかった(カステンとは箱の意味)。演奏・音については、Daisy さんの「冒頭からリラ・オルガニザータのサーカスの手回しオルガンのような音色とそれにマッチしたコミカルなメロディが独特の雰囲気にいきなり引き込みます。」との評にもあるように、ストリート・オルガンのような素朴な音が聴こえている。上記LPにおける大久保一氏の解説では、「リラ・オルガニザータは、弦かパイプのどちらかがだけでも演奏されることができたので、このレコードは、パイプだけで演奏した音色を再現している」とある(※2)。さて、これはどうだろう。

 (その1)で調べたとき、この楽器には、
1)メロディー弦
2)ボルドゥン(ドローン)弦
3)2段のオルガン・パイプ
という3種の発音部があると書いた。このうち2)については、ボルドゥン(ドローン)弦をホイールに触れないように離すため、楽器の側面に 引っかけておく止め具があった。また、3)についても1段と2段のオクターヴ違いの音、もしくは1オクターブ上の音だけを出すこともできたという(※3) 。さらに「一種のストップによって、弦とパイプとの接合を遮断して、弦だけを鳴らせることもできた(大宮真琴氏『ハイドン全集の現場から 新しい音楽学の視点(音楽之友社・刊) 』)」という。しかしこれは素人考えだが、1)のメロディー弦だけ鳴らすのは上記ストップでできたとして、3)のオルガンだけ鳴らすのはできただろうか。1)のメロディー弦にも、2)のボルドゥン(ドローン)弦のようにホイールと接触しないように外す機能があったのだろうか。この点については、上記、大宮氏の浩瀚な本にも記載がなく、僕は正直、半信半疑であった。ただ、もう一種のリラ(・オルガニザータ)使用音源である「コワン&アンサンブル・バロック・ド・リモージュ」盤の解説にもヒントがあったので、この盤を紹介したときにもう一度、この話題に帰ってこよう。

 最後に参考までに、フーゴ・ルーフ/シュツットガルト・ソロイスツ盤に記載された楽器編成を記しておく。リラ(ライエルカステン)1、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1、ヴィオラ・ダ・ガンバ1、ホルン2。独奏楽器対オーケストラという形でなく、ハイドンが書いたオリジナルとほぼ同じ編成で録音していることには、その録音年代も考えると頭が下がる思いだ。ソロ・アルバムも多いスザーネ・ラウテンバッハー率いる弦も、さすがに伸びやかで気持ちがいい。

※1 LPとCDでは演奏者等は同じだが、なぜか録音年が違う。LPは「1965年10月」、CDは「1970」。ちなみに僕の耳には両者は同じ演奏に聴こえるので、再録音ではないと思う。ちなみに全5曲のCDは、格安全集セットで有名な Brilliant Classics から出ている「ハイドン・エディション」(全150枚組)に収められていた。>>現在は全160枚組になって再発売されており、これにはありがたいことに新たに8つの「ノットゥルノ」というリラ楽曲も含まれた。Disc143-144「ナポリ王のための8つのノットゥルノ」ウィーン・コンツェルト・フェライン(orfeo原盤)。ただし、こちらはリラは使われていないフルート&オーボエ版の演奏。
※2 これについては、CBS/SONYから出ているランパル&ピエルロがソロを務めた『ハイドン フルートとオーボエのためのコンチェルト集』(リラ協奏曲の別バージョン)のCD解説にも、「従って演奏者は弦かパイプのいずれかを奏することも、両方を鳴らすことも出来た。(高橋昭氏)」とある。
※3 ただし、オルガン・パイプからの音については、弦より2オクターヴ高いとする文献(ド・ブリュクヴィユ《ヴィエルに関する記述》)もある。

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