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2018年2月 2日 (金)

リラ・オルガニザータという楽器はどんな音がしたか(その3)

 前回は、厳密な意味でのリラ・オルガニザータではなく、その機構の一部を模したライエルカステンという小型オルガンのような楽器を使った演奏を聴いた。この楽器にはまさに鍵盤がついていて、1人でリラの2つのパートを弾くことができた。ただ1台の鍵盤楽器を使う演奏では、2台の独奏楽器によるかけあいといった趣きは薄くなるのは致し方ない。なので、わざわざ2台の楽器を使った録音もある※1。英国のクラリネット奏者ディーター・クレッカーが率いるコンソルティウム・クラシクムが6つのノットゥルノを演奏した cpo 盤では、2台のポジティヴ・オルガンを使っている。なかなかおもしろい効果をあげているが、それぞれ単音でオルガンを弾いている姿は、一度見てみたい気もする。

 一方、よりアンサンブルの妙を出すため、オルガンの代わりに2本の管楽器を使うという方法もある。実際、ハイドンの「8つのノットゥルノ」の初めての校訂楽譜は、H.C.ロビンズ・ランドンがドブリンガーから出版したものだが、その楽譜の巻末には Karl Trotzmuller による「リコーダー演奏家のための注記」という一葉が挟み込まれていて、そこではリラ ・オルガニザータをリコーダーで置き換えることがサジェストされている。そうした録音としては、古くはパウル・アンゲラー指揮の Amadeo 盤があった(協奏曲全曲)。アンゲラーは、LP初期にブレンデルやグルダ、クリーンなどウィーンで活躍した若手ピアニストの協奏曲録音で伴奏を務めた諸盤が有名だが、ここでは自身がリコーダー1を吹いている。意外にも各パート1名のオリジナル編成での録音であり、ランドンが解説を書いているところから推測するに、彼の監修による企画だったのかもしれない。緩徐楽章で聴けるのびのびとしたリコーダーの音は、リラとは雰囲気が違うとは思うが、いかにも魅力的に響く。

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 また、ナクソスのミュラー=ブリュール盤(Hob.VIIh : 1、VIIh :  5)もある(※1)。こちらは、より現代的でスマートな演奏である。いずれの例も、複数の管で吹いた方がずっとアンサンブルとしてのおもしろみがあることは間違いない。

 ところで以上の録音は、いずれも基本的にリラ・オルガニザータに装着されたパイプの音を模しているだけで、リラ特有の弦の音を反映していない。これに関して、おもしろい録音がある。リコーダー奏者であるブリュッヘンが、ザルツブルク・モーツァルテウム管に指揮者として客演したライヴで Hob.VIIh : 3 の協奏曲を取り上げたときのことである。

「今日聴かれるまれな演奏では、リラは、フルートとオーボエという2つの木管楽器に置き換えられることが普通である。
 しかしながら、フランス・ブリュッヘンは、別の可能性を選んだ。リラ・オルガニザータの音色にできるだけ近づけるために、彼はフルートとガンバにソロ・パートを演奏させたのである。1995年8月21日の『ザルツブルク・ニュース』で、ラースロ・モルナールは次のように書いた。「リラは今日存在していないので、協奏曲は、リラ に代わって、リコーダーとガンバというさらに奇妙な組み合わせによって演奏された。その結果、稀に見る魅力的な音響が生まれ、それをブリュッヘンは、小規模のオーケストラと微妙なアーティキュレーションによってサポートしたのである」。ゴットフリート・クラウス(山本一太・訳)」

 これはなかなか興味深い試みだろう。オルガンの音をリコーダーで、リラのメロディー弦をヴィオラ・ダ・ガンバで置き換えるというのである。しかも奏者4人で! 聴いてみると、確かにリコーダーの音に弦の音が被っている。現代オケの合奏スタイルなのでややリズムが重い感じはあるが、テンポ・ディ・メヌエットののどかな終楽章を聴くとはなし聴いていると、なんとも豊かな気分になってくる。その意味で、リラ・オルガニザータ楽曲特有のゆるい雰囲気を出すことには成功しているのではないか(『ハイドン音盤倉庫』さんの演奏評はこちら>HOS)。

※1 有名なヘルベルト・フォン・カラヤンの実兄で、オルガニストのヴォルフガング・フォン・カラヤンにポジティヴ・オルガンを使ったリラ協奏曲全集がある(Schwann)。クレジットは、「ENSEMBLE WOLFGANG von KARAJAN. / ORGELPOSITIVE」とあり、これはアンサンブル=複数の演奏者がオルガン担当とも読める。こちらの記事でも紹介したが、ヴォルフガング・フォン・カラヤンには「フーガの技法(3台のオルガンによる演奏)ヴォルフガング・フォン・カラヤン合奏団」という一部で有名な盤がある。1台のオルガンでも演奏できる「フーガの技法」をわざわざ3台のオルガンで弾くくらいだから、リラ協奏曲のリラ・パートを2台で弾いている可能性も否定できないのではないか。実際、Hob VIIh: 1 の Andante を聴くと、音色の違う楽器(か、少なくとも2段以上の鍵盤)を駆使して弾いているのがわかる箇所がある。そもそもの演奏は、Berliner Instrumentalsolisten との共演による合奏スタイルの演奏ながら、録音も1979年と新しく、なかなか高水準の出来だ

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※2 アマゾン・ミュージック・ライブラリーでは、BIS のフス盤にも Hob.VIIh : 5 に「2本のリコーダーと管弦楽編」とクレジットがついているが、実際聴いてみたらフルートとオーボエ版であった。

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コメント

初めまして。
音楽には素人のハイドン好きなのですが、たいへん勉強になりました。リラに関する詳しい解説をありがとうございます。
私もこんなブログやってますので、よろしければ。

https://blogs.yahoo.co.jp/runchibi_0808/14102650.html>

投稿: Haydn2009 | 2018年2月 3日 (土) 08時26分

Haydn2009 さま、初めまして。
今回は当方の記事をお読みいただきありがとうございます。またコメントもいただき感謝申し上げます。
『ハイドン作品辞典』のサイトも拝見させていただきましたが、大変な労力をかけられており、心から感服させられました。
こちらは質・量ともに及びもつかない内容ですが、また時折ハイドンについても書き込みをすると思いますので、お気がむいたときにでもご覧いただければ幸いです。今回はありがとうございました。

投稿: cherubino | 2018年2月 3日 (土) 17時34分

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