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2018年4月 4日 (水)

2台のピアノのための協奏曲(バレンボイム/ショルティ)

 寝室のベッド脇に置いてあるサイドテーブルには、寝る前に聴くためいつも数枚のCDが常置してある。今回はその中の一枚から。

 それは、モーツァルトの「3台のピアノのための協奏曲へ長調 K.242」「2台のピアノのための協奏曲変ホ長調 K.365」ほかを収めたもので、 シフ(p)、バレンボイム(p)、ショルティ(pと指揮)、イギリス室内管が演奏している(Decca)。豪華メンバーだけに録音用の特別セッションかと思っていたが、今回調べてみたらどうやらそうではないらしい。1989年6月18日にジャクリーヌ・デュ・プレの追悼コンサート「ジャクリーヌ・デュ・プレ アピール・コンサート」がロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行われ、このコンサートに出演したショルティ、バレンボイム、シフの3人が、同じ曲目をスタジオで録音したのがこのCDとのことである。僕の買ったCD(UCCD-90034 ※)の解説ではそのような事情は書かれていないが、せめてクレジットでは触れておいて欲しかったところ。ここで僕は、音楽には直接関係のないようなことを書いているようだが、これらのことはこのあと関係してくる。

 まずは1曲めの3台のピアノ用の協奏曲だが、上記の3人がそのままの順で、第1、第2、第3ピアノを弾いている。これはある意味、当然のキャスティングだ。次いで曲が2台のピアノ用の協奏曲の第1楽章まで進んだとき、僕は当然、前曲で第1、第2ピアノを担当しているシフ、バレンボイムが弾いているものと思いながら聴いていた。が、どうも第1ピアノの粒の揃った冴えわたった音色に比べると、第2ピアノはより重厚な響きを持ち、速いパッセージなどでややぎこちなさが残る。シフとバレンボイムでは「ピアノ専門のシフの方がやはりうまいのか」などと考えていたが、念のためもう一度、CDのクレジットを確かめてみると、第1ピアノがバレンボイム、第2ピアノがショルティとなっていたので、驚くやら、納得するやら(?)、ということがあったのが、まず一つめの話。

 二つめの話は楽器配置に関することなのだが、このCDを聴いたことがある方は、右側から第1ピアノが、左側から第2ピアノが聴こえてくるという点に疑問を持たなかったでしょうか? 楽譜をお持ちでない方のために念のため書いておくと、2分弱のオーケストラだけの前奏が終わり、2台のピアノが3度の音程差で同じパッセージを同時に弾いたあと、まずテーマを弾くのが第1ピアノ。同CDではこのパートが右側から聴こえ、続いて左側から第2ピアノが同じ旋律を弾いて加わってくる(このあとも、第1ピアノが高いパートを弾くことが多いため、両パートの聴き分けは、割と容易だ)。一般にピアノを使ったコンサートでは、ピアノは楽器の長辺がステージに並行になるように置かれる。2台のピアノが使われる場合は、第1ピアノは左側となり、奏者は向かって右向きに座る。一方、第2ピアノはその右前に向かい合うように置かれ、奏者は左向きに座ることになる。 そして、左側に座った奏者が、第1パートを弾くのが普通だろう。念のため自宅にある同曲のCDを聴いてみたが、「第1ピアノが左」という盤ばかりで「第2ピアノが右」というものは見つけられなかった。なぜこういうことが起こるのだろう?

 実はこのCDの実演版、つまり上記の「ジャクリーヌ・デュ・プレ アピール・コンサート」には、映像記録が残されている。かつてLDで出ていたし、数年前に出たバレンボイムがベルリン・フィルを弾き振りした「モーツァルト:ピアノ協奏曲全集」(Teldec)にボーナス・ディスクとして付いていたDVDにも収められている。ということで、この映像を見てみよう。まず左側に置かれたピアノは鍵盤が客席側を向き、弦の入った胴はステージ奥に延びている。そのすぐ右側に、楽器の曲線を合わせるようにもう一台のピアノが置かれ、こちらはステージ奥に鍵盤が、客席側に胴が延びている。映像では、その左側のピアノの前に立つのは、客席に完全に背を向けたショルティ。つまり、指揮をしながら第2ピアノ・パートを弾くために、上記のような配置がとられていた、というわけである※※。バレンボイムが座るのは右側のピアノであり、そこで第1ピアノ・パートを弾いている。セッション録音ではコンサートより楽器配置は自由にできたと思われるが、全体の位置関係についてはほぼ同様の形がとられたのだろう。これで、上記CDにおける第1ピアノが右という楽器配置の疑問が、ようやく氷塊した。

 ちなみに、3台ピアノ用の協奏曲のコンサート映像も残っており、この場合、ピアノはすべて客席に背を向けて配置されている。左からショルティ、バレンボイム、シフの順であるが、「さてCDではどうだろう?」というような観点で聴いてみるのもおもしろいのではないだろうか。

※このCDは、上記 K.242 と K.365 のほかに、シフの弾くコンサート・ロンド2曲が組み合わさっている。が、オリジナル盤には、コンサート時と同じで、ショルティが弾く K.466 が収められていた。
※※ YouTube に1966年にアシュケナージとバレンボイムが K.365 を弾いたコンサート映像(モノクロ)がアップされている。実はここでもバレンボイム/ショルティ盤のようなピアノ配置が見られる。ただしバレンボイムが弾き振り役で客席に背を向けて座っていて、アシュケナージが右側で第1ピアノを弾いている。

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