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2019年6月24日 (月)

過去記事あれこれ

 長くブログなど書いていて、たまに過去記事を読み直してみたりすると、気になる記述が出てくることがある。その都度、付記という形で直してもいるが、今回、特に気になっていた箇所について書いておきたい。

1)2012/2/1 「『フィガロ』序曲はアラ・ブレーヴェか?(その1)」
 この記事のテーマは、モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』序曲の拍子記号が、一般に「縦線付きC=2分の2拍子」(テンポはプレスト)になっているものが多いが、新旧モーツァルト全集では「C=4分の4拍子」になっているというもの。モーツァルトの自筆譜も「4分の4拍子」なので、楽譜校訂上は後者が正しいと思われるが、なんと「わが国で一般的に買える3種のスタディー・スコア、全音(オイレンブルク)、音楽之友社、日本楽譜出版社を手に入れてみたら、なんとすべてアラ・ブレーヴェになっている」。「つまり4分の4拍子になっているバージョンのスコアは、我が国では皆無」という状況であった。これでは、各種の解説書や一般の方の文章において、「2分の2拍子」説が有力になっているのも不思議ではない。
 実は音楽之友社が2015年3月に新しく「ダ・ポンテ・オペラ」の序曲集のミニュチュア・スコアを出していて、こちらでは「4分の4拍子」に直されている。数年前から新版が出ていることには気づいてはいたのだが、最近、やっと本スコアを手に入れてあらためてこの事実を確認した。校訂者(楽曲解説)は松田聡氏。表書きの最後には「本スコアは,定評ある実用版をもとに,自筆譜を含む諸版を参照して作成した,音楽之友社オリジナル版である。」との出版社側の記述がある。ちなみにこの新版の解説では、珍しいことに同序曲の自筆譜において、提示部のあとアンダンテ・コン・モート、ニ短調、8分の6拍子の中間部のスケッチが書かれていたことに触れている。松田氏が自筆譜を参照したのはこれで明らかである。
 検索サイトで「フィガロ 序曲 拍子」等と検索すると、ありがたいことに当方の元記事が1番上に掲載されることもあり、コンスタントにアクセスがある記事でもある。そのときの問題提起が新版での直しにつながったわけでは無論ないだろうが、新版も出たことで『フィガロの結婚』序曲の「4分の4拍子」説がより広まることを期待したい。

2)2014/8/8 「高いホルン、低いホルン(その22・ハイドン編 no.48)」
 こちらの記事は、ハイドンの交響曲第48番「マリア・テレジア」のホルン・パートについて考察したものだが、それに関し楽器編成についても触れている。トランペットとティンパニのパートを含まない録音も、含む録音もあるわけだが、これらのパートについて、古い録音ではあまりハイドンらしからぬ派手な楽器法が聴けるものがある。有名なところでは、リステンパルトやシェルヘンが、それ。記事中では、追記として「さらに調べてみたが、Imslpにオイレンブルクのプレトリウス校訂版(Ernst Eulenburg, Ed.517, n.d.(ca.1925). Plate E.E. 3687.)が掲載されており、これと同じパートのようである」と僕は書いている。さらに、「ただし、現在Imslpにアップされている楽譜には、肝心のティンパニのパートに手書きで書き込み・修正があるので注意」という但し書きをつけていた。あらためてこの楽譜の画像を見直してみたが、ティンパニ・パートには休符も付加されていて、これは2台目のティンパニ・パートとして手書きで音符の書き込みがなされているように見える。

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 ちなみに、野口秀夫氏が神戸モーツァルト研究会第244回例会(2015年10月4日)において「クラヴィーア・ソナタ《トルコ行進曲付き》K.331 の自筆譜発見」という報告をされていて、その中にも同じような<手書き修正箇所>を持つ印刷譜が紹介されている。具体的にはK.331/300i の「アルタリア初版 第1楽章95,96小節」(ハーヴァード大学蔵)がそうであり、そこには以下のようなコメントがついている。

「鳥代:おや、これも購入者による修正ですが、6 拍目もきれいに修正されていますね。ファクシミリで資料を研究する場合には気をつけないと書き込みだと気付かないで騙されてしまいそうです。でも誰が 32 分音符に修正するように助言したのでしょうか。」

 これを読んでいたので、この「マリア・テレジア」の旧版も同じような「購入者による修正」だと思い続けていた。実はこののちこのオイレンブルク版が国立音楽大学の付属図書館に収蔵されていたことを知り、念のためと思い訪問時に閲覧させていただいた。すると、それにもまったく同じ修正が入っていたので、びっくり! 実際は、修正が手書きで行われていることは事実なのだが、それをそのまま印刷原版に使っていたわけである。つまり、imslp にアップされている楽譜も同じ印刷版だった可能性が高いのである※。
 となると、上で触れた K.331/300i の「アルタリア初版」はどうなんだろう。実は、imslp にアップされている楽譜にも手書き修正があるのだが・・・

※実際の演奏実践では、これら派手なトランペット、ティンパニ・パートを持つ録音が、主に古い時代のものに見られる(元記事の注参照)。ただし、ここで見るダブルのティンパニ・パートを持つものは見つけられなかった。

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2019年6月20日 (木)

モーツァルト、ホルン協奏曲第4番の長さは?(その3)

 この項の(その1)、(その2)では、モーツァルトの「ホルン協奏曲:第4番 変ホ長調 K.495」の第1楽章のバージョン違いについて考えてきた。この楽章には、大きく分けると、以下の3つの長さを持つ可能性がある。

1)174小節:アンドレ初版(1802年)、旧全集(1881年)、新全集付録(1987年)
2)218小節:ウィーンのパート譜(1803年)年、旧全集改版(1886年)、新全集本編(1987年)
3)229小節:プラハの手書き総譜(1800年代初め)

 このうち最も長いプラハの手書き総譜(「プラハ版」)については、演奏譜にあたるような楽譜は出ていないようだ。新全集の校訂報告によれば、以下のような追加小節がある。以下、2)のウィーンのパート譜(「ウィーン版」)への追加として示す(Tの後の数字は小節数)。

a)(オーケストラによる提示部の結尾)T42とT43の間に、1小節追加
b)(ソロによる提示部の結尾)T92とT93の間に、9小節追加
c)(再現部のカデンツァにいたる結尾)T187とT188の間に、1小節追加

 以上、計11小節の追加となり、全体の小節数も218から229に増える計算になる。実はこの「プラハ版」を演奏しているCDがある。Naxos のマイケル・トンプソン&ボーンマス・シンフォニエッタ盤がそれである。これを聴くかぎり、1小節挿入のa) は別として、b)はかなり違和感があるフレーズである(トンプソンは、c)の挿入は採用していないようだ)。この盤は、NML でも聴くことができるので、ぜひご自分の耳で聴いていただきたいが、新全集においても最新の「ホルン協奏曲集」の「序文」の中で、この箇所について「明らかにそれらのコンテキストに動機的な関連性がない」と指摘している。

 (その1)の注で紹介したアントニー・ハルステッド&ホグウッド盤の解説を書いているジョン・ハンフリーズも同じような意見※2。

「その後1803年に世に出たより完全なウィーン版は、通常スタンダード版と考えられているが、そのアーティキュレーションは、音符自体よりも信憑性に乏しい。アロイス・フックス(1799-1853)がかつて所有していた19世紀初頭の写譜には、よりスタイリッシュなフレージングが残されているが、中にはモーツァルトらしくないオーケストラの総奏部分も含まれている。私のヴァ—ジョンはこのスコアに基づいているものの、モーツァルトが本来作曲したものかどうか疑わしい小節は除いた。」

 実際にハルステッド盤を聴いてみると、小節数としては「ウィーン版」と同じであり、上記a) b)c)の部分はすべて除いて演奏している。ただし、「ウィーン版(=新全集)」を演奏しているわけではないようだ。わかりやすいところでは、展開部の冒頭:独奏ホルンパートにおける110小節目後半の4分音符2つを、同小節の前半と揃えて付点4分音符と8分音符にしているなど、「プラハ版」の特徴も無論、聴くことができる(この部分の変更は、トンプソン盤では採用されていない)※3。

 以上、3回にわたって K.495 の小節数の異同について見てきたが、第1楽章の自筆譜が見つかってないのでいずれの版も100%正しいとは言えない。残っている自筆譜部分でも、モーツァルト自身が青・赤・緑・黒のインクで各フレーズを書き分けていて、これもその意図が完全には解明されていないなど、我々にとっていろいろ探求しがいのある曲のひとつであることは間違いない。

※1 『Die Hornkonzerte / The Horn Concertos』(Barenreiter)の「序文」。フランツ・ギーグリングの元文を、2011年にグドゥーラ・シュルツが改訂。
※2 ちなみに、トンプソン盤「モーツァルト:ホルンと管弦楽のための作品全集」で、断片作品等の復元を担当しているのもハンフリーズである。
※3 第1楽章の再現部でカデンツァにいたる終結部:182小節後半から183小節にかけて2分音符での音の跳躍が3つ続くが、ここをハルステッドは装飾音でつないでいる。これは奏者のアドリブだろう。

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2019年6月18日 (火)

モーツァルト、ホルン協奏曲第4番の長さは?(その2)

 この項の(その1)を書いたところ、話題のきっかけをくださった Zauberfloete さん(ブログ :Zauberfloete通信)から早速コメントをいただいた。貴重な追加情報ありがとうございます!。

「私がこの問題を初めて知ったのは、ペーター・ダム/ブロムシュテット=SKDの協奏曲集に載っていたダム自身による解説です。
その後eurodiscのCDに買換えて、LPは処分してしまったので解説書は手元にないのですが、ダム自身が校訂して再構成したようなことが書いてあったと思います。」

 僕が取り寄せたダム盤CDの解説は、別の方(家里和夫氏)が書いていて、「このディスクに収められた以下の4曲の協奏曲もダムによって校閲の手が加えられている。」とだけ触れられている(KICC 3603)。ネット上で探してみたところ、Zauberfloete さんが以前持っておられたのと同じものと思われるLPがネットショップに出品されていて、幸い商品画像から前半部分のライナーノーツが読みとれた(画像が不鮮明な部分があり、一部、引用者の推定であることをお断りしておく)。

「 この録音(と計画中の新版)のため、ホルン協奏曲のすべては私の入手し得る文献に基づいて本格的に校正された。ブライトコップ・ウント・ヘルテル社にあるヘンリ・クリング版は全般にわたって多くの改訂が必要なことが明らかになった。常にその原曲として置かれたものは、エルンスト・ルドルフ監修のモーツァルト全集(1881年)であった。そのほか参考としたものは、しばしば誤りはあるが、モーツァルトの死後初めて、オッフェンバック<マイン河畔(かはん)の地名>のアンドレの手によるものとして出版された貴重な初刷本と、アロイス・フックスの遺品の中にある写本などであった。(ETERNA ET3029)」

 これでダム版CDの楽譜の由来が、かなり明らかになってきた。ダムがK.495において基本資料としたのは、(旧)モーツァルト全集で、しかもそれは僕が(その1)の記事で指摘した「1881年版」の方であった。この版の第1楽章は、175小節しかない。しかも、次いであげられているアンドレの初版も同じく短いバージョン。それにフックスの遺品であったという写本(野口秀夫氏のいう「プラハ版」)を参照し、自身の演奏譜を作っているという。ダムが自身の初録音にあたり文献を集めた際に見つけた旧全集が、たまたま?「1881年版」であったことが、どうもことの発端にあるようだ。ちなみに野口氏も上記LPの解説を読んでいて、この短縮バージョンの説明に「(AMA:ダム、ブロムシュテット、ドレスデン国立歌劇場O.、NMA付録)」(>>「《伸縮自在な》ホルン協奏曲 変ホ長調 K.495」)と付記したのではないだろうか。

 参考までに、このあたりの流れを、時系列順に追ってみよう。
1)1974年 ダムの「モーツァルト:ホルン協奏曲集」(旧盤、ブロムシュテット指揮)の録音(K.495 は、175小節版)
2)1987年 新モーツァルト全集のホルン協奏曲の巻発刊:Werkgruppe 14/Band 5(校訂報告の発刊は、翌1988年)
3)1988年 ダムの「モーツァルト:ホルン協奏曲集」(新盤、マリナー指揮)の録音(K.495 は、通常の218小節版)
4)1993年 ペーター・ダム編の「モーツァルト:ホルン協奏曲 K.495」のピアノ・リダクション版発刊(Nr.7435、通常の218小節版)※

 ということで、1)の録音のあと、ダムは「ホルン協奏曲集」を再録音しているが、その時までには新全集等も出そろい、基礎とする資料を「ウィーン版」に乗り換えたと思われる。なんとなれば、4)の脚注で、(厳密には、ホルンパートのアーティキュレーションについての言及だが)自筆譜を参照できない部分は、1803年刊行のウィーンのパート譜を取り入れた旨を明らかにしている。

 以上、ペーター・ダムのCD(旧盤)の使用楽譜について考えてきたが、実際の演奏については触れずじまいであった。この盤の演奏は、現代楽器での演奏としては理想的なもののひとつだ。特にダムの柔らかく暖かいホルンの音色は、他の奏者では聴くことができない。本来のナチュラル・ホルンを使った演奏のような野性味はまったく期待できないが、弱音の美しさは際立っている。ドレスデンのシュターツカペレの弦も、ひときわ輝きを放っている。
(2019/6/20の追記 ありがたいことに、Zauberfloete さんが、ペーター・ダムのCD(新旧盤)の視聴記を書いてくださった。>>「モーツァルト:ホルン協奏曲第4番/ペーター・ダム新旧録音」

※このホルン&ピアノ版の楽譜(表紙裏)に、「Available for sale:/Score PB 4460/Orchestral parts OB 4460」と記載がある。オーケストラ版もあったのだと思うが、現在のカタログからは確認できなかった。

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2019年6月16日 (日)

モーツァルト、ホルン協奏曲第4番の長さは?(その1)

 Zauberflete さんのブログ「Zauberfloete通信」で、モーツァルトのホルン協奏曲第4番 K.495 等の発想標語「Allegro maestoso」について、いつもながら興味深い考察がなされている。>>「モーツァルトの「アレグロ マエストーソ」」。詳細は上記記事を見ていただくとして、僕が気になったのは、この曲の第1楽章には発想標語の異同のほかに、長さ=<小節数>の異同もあるという点だ。後者の問題については、野口秀夫氏の優れた論考がある>>「《伸縮自在な》ホルン協奏曲 変ホ長調 K.495」。この論文には、いくつかあるバージョンと野口氏が再構成したバージョンを一覧表にしていて、それぞれがどのフレーズを採用、あるいは削除したかが一目でわかるようになっている。これは、いつもながら野口氏ならではの優れたお仕事だ(MID 音源で、実際に音で確認することもできる!)。

 あらかじめ断っておくが、この曲の自筆譜は第2楽章と第3楽章の一部が残されているだけである。野口氏の論文では、以下の資料が検討されている(以下、太字は引用)。

  • プラハ大学図書館蔵アーロイス・フックス・コレクションの総譜筆写譜(1800年直後):229小節(NMA校訂報告:録音なし)
  • アンドレ刊初版(1802年):175小節(AMA:ダム、ブロムシュテット、ドレスデン国立歌劇場O.、NMA付録)
  • ヴィーンの美術工芸社刊パート譜(1803年):218小節(NMA:録音多数)

 このうち一番最初に記された(野口氏のいわゆる)「プラハ版」の標語記号は「Allegro」、2番目の「アンドレ版(初版)」は「Allegro moderato」 、最後の「ウィーン版」は「Allegro maestoso」(ただし、第一ヴァイオリンには「Allegro moderato」と書かれている)ということが、新全集の校訂報告に記載されている(Giegling, 1988)※1。その異同が、この曲の発想標語において解説やCDの表記などでばらばらになっていることの原因になっているわけである。一方、野口氏が主に扱っているそれら3版の小節数の違いは、あまり話題にならないのはなぜだろう※2。それぞれの版は、野口氏の指摘のようにかなり長さに違いがある。モーツァルト作品の演奏実践の場では、新全集(NMA)が出るまでは(いや、新全集が出てもかなりの期間)、旧全集(AMA)やそのリプリントが使われていたことが多い。なので、この論文を読む限り、AMA(=175小節という短いバージョン?)を我々は聴いてきた想定になってしまう・・・

 Zauberfloete さんは先の記事で、「カラヤンが録音に使った譜面には「アレグロ モデラート」と書いてあった確率の方が高いとも思える。」と書かれているが、カラヤンやベーム、バーンスタインなどの大物指揮者は、基本的に新全集は使わない。というか、新全集が出る前に録音された有名なカラヤン&デニス・ブレインの録音は、僕もLP時代から何十回も聴いているが、現代の録音と曲の長さが違うという話は聞いた覚えがない。先週、実際にカラヤン&ブレイン盤を聴き直してみたが、新全集と変わらない218小節であった。一方で、屋根裏部屋に保管してあった初期LP(英COLUMBIA:33CX 1140)の表記も確認してみたが、K.495 の第1楽章は「Allegro moderato」、k.417 の第1楽章は「Allegro maestoso」と、やはり旧全集の表記(アンドレの初版と同じ)を採用している。これはどういうことか?

Sl1600 Sl1600-2 Sl1600-1


 結論から言えば、旧全集(AMA)に、2つのバージョンがあるらしいことがわかってきた。古い楽譜を参照する場合、imslp が便利だが、ここに Leipzig: Breitkopf & Härtel から出された旧全集「Wolfgang Amadeus Mozarts Werke」として、2つの楽譜がアップロードされていた(Serie XII:Concerte für ein Blasinstrument mit Orchester, Bd.2, No.19、「Ernst Rudorff」編)。これは、複数の人がデータを送る imslp ではそれほど珍しいことではない(一般的には、スキャンする解像度などの差がある)。このうち野口氏が参照したものと同じ楽譜と思われる方は、1881年に出版されたもの。こちらは、上記アンドレの初版を元資料にしたらしく、確かに175小節しかない。録音として、ペーター・ダム(Hr)、ブロムシュテット指揮ドレスデン国立歌劇場O. の旧録音盤(DEUTSCHE SCHALLPLATTEN)が挙げられている。週末に Amazon で取り寄せて聴いてみたが、確かに提示部の構成はアンドレ版(旧全集)と同じでやや短い。ただし、ダムは展開部の途中から再現部の入りにかけてウィーン版に移行しているほか、再現部終わりの部分で同じ音型(2小節分)をくりかえすなど、楽譜を変えている。旧全集を使って録音したというより、おそらく独自の校訂作業を行なっているのだろう※2。

 そして、もうひとつが、旧全集の「1886」年版。同じ「Ernst Rudorff」編で、「Rudorf's revision of the 1881 edition.」と注記されている。全体で2ページ分増えていて、第1楽章は、218小節ある。どのような事情かは不明だが、1881年版が出てわずか5年後に、同じ Plate 番号「W.A.M. 495」のままで改訂がなされたのは珍しいことだろう。1881年版が短いバージョンであったことに対し、当時の研究者から指摘があったのかもしれない。Breitkopf und Härtel からは、19世紀後半に Henri Kling 編で同曲の楽譜が出ていて、こちらも旧全集同様よく使われたのではないかと想像される。ホルン&ピアノ用のリダクション(Nr.2564)が imslp に上がっていて、これを見るかぎりこちらも218小節ある。これら218小節の版の方が、新全集が普及する20世紀後半くらいまで、各指揮者、オーケストラで使われていたのだろう。

※1 モーツァルトの自筆作品目録には、「Allegro」とのみ記載。

※2 残念ながら、こうした情報は日本の音楽学者、評論家が書いた解説等ではほとんど触れられていない。僕が見つけた中では、唯一、ONTOMO MOOK『モーツァルト名盤大全』(音楽之友社)の佐伯茂樹氏の解説(おそらく上記、野口氏の論文等も参照し、独自に研究されたもの)があるのみだ。あと、翻訳ものでは、アントニー・ハルステッド&ホグウッド盤(オワゾリール)のジョン・ハンフリーズの解説が非常に詳しいだけでなく、正確だ。

※3 ペーター・ダムは、Breitkopf & Härtel から、上記 Henri Kling 版の後継版を出している(Nr.7435)。こちらは、スタンダードな218小節版である。また、同社は最新の Henrik Wiese 編による Urtext edition(P.B.15131)も出していて、こちらもサイトで概要を閲覧するかぎり、218小節版である。>>こちら

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