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2019年6月18日 (火)

モーツァルト、ホルン協奏曲第4番の長さは?(その2)

 この項の(その1)を書いたところ、話題のきっかけをくださった Zauberfloete さん(ブログ :Zauberfloete通信)から早速コメントをいただいた。貴重な追加情報ありがとうございます!。

「私がこの問題を初めて知ったのは、ペーター・ダム/ブロムシュテット=SKDの協奏曲集に載っていたダム自身による解説です。
その後eurodiscのCDに買換えて、LPは処分してしまったので解説書は手元にないのですが、ダム自身が校訂して再構成したようなことが書いてあったと思います。」

 僕が取り寄せたダム盤CDの解説は、別の方(家里和夫氏)が書いていて、「このディスクに収められた以下の4曲の協奏曲もダムによって校閲の手が加えられている。」とだけ触れられている(KICC 3603)。ネット上で探してみたところ、Zauberfloete さんが以前持っておられたのと同じものと思われるLPがネットショップに出品されていて、幸い商品画像から前半部分のライナーノーツが読みとれた(画像が不鮮明な部分があり、一部、引用者の推定であることをお断りしておく)。

「 この録音(と計画中の新版)のため、ホルン協奏曲のすべては私の入手し得る文献に基づいて本格的に校正された。ブライトコップ・ウント・ヘルテル社にあるヘンリ・クリング版は全般にわたって多くの改訂が必要なことが明らかになった。常にその原曲として置かれたものは、エルンスト・ルドルフ監修のモーツァルト全集(1881年)であった。そのほか参考としたものは、しばしば誤りはあるが、モーツァルトの死後初めて、オッフェンバック<マイン河畔(かはん)の地名>のアンドレの手によるものとして出版された貴重な初刷本と、アロイス・フックスの遺品の中にある写本などであった。(ETERNA ET3029)」

 これでダム版CDの楽譜の由来が、かなり明らかになってきた。ダムがK.495において基本資料としたのは、(旧)モーツァルト全集で、しかもそれは僕が(その1)の記事で指摘した「1881年版」の方であった。この版の第1楽章は、175小節しかない。しかも、次いであげられているアンドレの初版も同じく短いバージョン。それにフックスの遺品であったという写本(野口秀夫氏のいう「プラハ版」)を参照し、自身の演奏譜を作っているという。ダムが自身の初録音にあたり文献を集めた際に見つけた旧全集が、たまたま?「1881年版」であったことが、どうもことの発端にあるようだ。ちなみに野口氏も上記LPの解説を読んでいて、この短縮バージョンの説明に「(AMA:ダム、ブロムシュテット、ドレスデン国立歌劇場O.、NMA付録)」(>>「《伸縮自在な》ホルン協奏曲 変ホ長調 K.495」)と付記したのではないだろうか。

 参考までに、このあたりの流れを、時系列順に追ってみよう。
1)1974年 ダムの「モーツァルト:ホルン協奏曲集」(旧盤、ブロムシュテット指揮)の録音(K.495 は、175小節版)
2)1987年 新モーツァルト全集のホルン協奏曲の巻発刊:Werkgruppe 14/Band 5(校訂報告の発刊は、翌1988年)
3)1988年 ダムの「モーツァルト:ホルン協奏曲集」(新盤、マリナー指揮)の録音(K.495 は、通常の218小節版)
4)1993年 ペーター・ダム編の「モーツァルト:ホルン協奏曲 K.495」のピアノ・リダクション版発刊(Nr.7435、通常の218小節版)※

 ということで、1)の録音のあと、ダムは「ホルン協奏曲集」を再録音しているが、その時までには新全集等も出そろい、基礎とする資料を「ウィーン版」に乗り換えたと思われる。なんとなれば、4)の脚注で、(厳密には、ホルンパートのアーティキュレーションについての言及だが)自筆譜を参照できない部分は、1803年刊行のウィーンのパート譜を取り入れた旨を明らかにしている。

 以上、ペーター・ダムのCD(旧盤)の使用楽譜について考えてきたが、実際の演奏については触れずじまいであった。この盤の演奏は、現代楽器での演奏としては理想的なもののひとつだ。特にダムの柔らかく暖かいホルンの音色は、他の奏者では聴くことができない。本来のナチュラル・ホルンを使った演奏のような野性味はまったく期待できないが、弱音の美しさは際立っている。ドレスデンのシュターツカペレの弦も、ひときわ輝きを放っている。
(2019/6/20の追記 ありがたいことに、Zauberfloete さんが、ペーター・ダムのCD(新旧盤)の視聴記を書いてくださった。>>「モーツァルト:ホルン協奏曲第4番/ペーター・ダム新旧録音」

※このホルン&ピアノ版の楽譜(表紙裏)に、「Available for sale:/Score PB 4460/Orchestral parts OB 4460」と記載がある。オーケストラ版もあったのだと思うが、現在のカタログからは確認できなかった。

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コメント

cherubinoさま
ダムの使用楽譜に関する経緯など、今回も興味深く読ませていただきました。
刺激されて、2種類のダムの録音を聴き直してみました。私のブログをご参照ください。

投稿: Zauberfloete | 2019年6月19日 (水) 21時46分

Zauberfloete 様、拙稿をお読みいただきありがとうございます。ダムの2つの録音、ブロムシュテッド盤、マリナー盤についての視聴記事、朝一番に読ませていただきました!
「K412とK371の2曲に限って、わざわざ使用楽譜:ブライトコプフ&ヘルテル版と書かれている。」という点についても、また調べたいことが増えました。
ダムの使用ホルンのこだわりなどもおもしろかったです。またいろいろと教えてください。ありがとうございました。

投稿: cherubino | 2019年6月20日 (木) 21時32分

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