« 2020年12月 | トップページ | 2021年3月 »

2021年2月28日 (日)

2020年まとめ

 かなり以前の話で恐縮だが、『モーストリー・クラシック』誌の2012年1月号の特集記事は、「ベートーヴェン格付け! 第九・交響曲ベスト10」というものだった。これは、9曲の交響曲の「好きな曲」ランキング(音楽評論家&ジャーナリスト等20人による投票。各自ベスト3までを選ぶ)なのだが、この結果を見てびっくりしたことがあった。以下はその結果。

第1位 第3番《英雄》
第2位 第9番《合唱》
第3位 第6番《田園》
第4位 第7番
第5位 第4番
第6位 第8番
第7位 第1番
第7位 第5番《運命》
第9位 第2番

 あのハ短調交響曲が、第1番と同点7位。しかも20人のうち第5番を選んだ人は3人だけ! これは衝撃的な結果であった、少なくとも僕には。僕が子どもの頃、クラシックの一番人気のLPと言えば《運命》《未完成》の組み合わせだった。また、この曲の冒頭は、クラシック好き以外にも広く知られていたはずである。そのことを考えると、時代は変わったと思わざるを得なかった。それから約9年・・・。2020年は言わずと知れた「ベートーヴェン・イヤー」であった。TVやFMラジオなどでは、いくつかベートーヴェンの曲の人気投票があって、そこでも第7番イ長調や第9番《合唱》がトップになっていた。もはや「運命」などという重苦しいあだ名の曲が、幅広い人気を得ることはないというのが大方の見方なのだろう。

 ところがである。CD界では、2020年はなんと《運命》イヤーであった。ハーゼルベック&ウィーン・アカデミーO.やマンゼ&ハーノファー北ドイツ放送po.などの注目盤もあったが、やはりクルレンツィス&ムジカエテルナとロト&レ・シエルクのハルモニア・ムンディ盤が双璧。これはそのままの順番で『レコード芸術』誌2月号の読者投票「リーダーズ・チョイス」の第1位・第2位を占めることとなった。上記に書いたような近年の事情から言えば、これはある意味、快挙とも言えるだろう。前者の過激なまでの追い込み、後者のしなやかなフレージングの妙・・・好対照な《運命》は、ともに多分に時代錯誤的なニックネームを一気に振り払う契機となったのではないか。いや、この曲のLPでクラシックに親しんだ僕としては、そうなっていってほしいと願うばかりだ。

 ところで、海外盤ではサバール&ル・コンセール・デ・ナシオンも第1番〜第5番のセットを出していて、これもなかなか面白い演奏だった。毎年この欄で書いていることで恐縮だが、ネット時代にあって「国内盤」「海外盤」という括りは、とっくの昔に意味を失っている。このサバールのセットもそうだが、同じベートーヴェンで言えば最近評判の良いエベーヌ・カルテットの「Beethoven around the World」(弦楽四重奏曲全集)も、今のところ国内盤は出ていないと思う。『レコード芸術』誌などは毎年1月号で前の年に出た「国内盤」を総覧するイヤーブックを付録として出しているが、年々薄くなっている。それでは上記のような有力盤が抜けてしまうからだろう。昨年度からは2月号で「海外盤イヤーブック」を追加で出す羽目になっている。

 その「海外盤イヤーブック」の掲載盤を見れば、今の時代のクラッシック事情がわかると思い、巻末のレーベル索引をあらためて眺めてみた。断トツに採用が多いのは、大方の予想どおりNaxos。次いで、廉価ボックスの雄であるBrillant Classicsが続く。この2社を別格とすれば、上記のロトや今年の「レコード・アカデミー大賞」を受賞したパブロ・エラス=カサドを有するHarmonia Mundiは、やはり目立っている。他には、Alpha、Bis、Chandos、Hyperion、Pentatone、Signumあたりが多く選ばれている。なるほど、と思われる方が多いのではないだろうか。無論、メジャー・レーベルは比較的「国内盤」化される率が高いので、こちらには掲載されていない盤が増えるのは当たり前。なので一概には言えないだろうが、これらのレーベルが近年のクラシック界を引っ張っているのは大方で間違いない。

 CDの注目盤としては、タリス・スコラーズによる「ジョスカン・デ・プレ/ミサ曲全集」が9巻・全18曲で完成した年として記録に残すべきだろう。1986年に録音した「ミサ曲『パンジェ・リングァ』、『ラ・ソ・ファ・レ・ミ』」で「レコード・アカデミー賞」を受賞。古楽の声楽アンサンブルのあり方を一新した彼らが、なんと30数年かけて完成させた全集である。質・量ともに空前の仕事と言える。ちなみに今年・2021年はジョスカン・デ・プレの没後500年。我が国のヴォーカル・アンサンブル カペラによるジョスカンの「ミサ曲全集」も、来月に第8巻が無事に出るようだ。「2021年のジョスカン没後500年を記念する企画。残り1枚となりました(今秋発売予定)」との「メーカー資料」も出されているようなので大いに期待しよう。

 コロナ禍で始まりコロナ禍で終わった2020年・・・コンサートは激減、国内新譜も相変わらず少ないが、今ではオーケストラ曲やオペラは多くがライヴ録音だということを考えると、もしかして新譜が減るのは今年・21年の方かもしれない(実際、『レコード芸術』誌2月号の新譜月評は、オペラがゼロ、交響曲はたった4枚であった)。一方、海外に比べて10年以上遅かったとはいえ、国内の各劇場もようやく重い腰を上げて、オンライン配信に取り組み出したのは、不幸中の幸いだったろう。僕ごときがいうのもおかしいだろうが、あえてこの未曾有の1年を記念して書いておく。「もう後には戻れない。前進あるのみ」。

| | コメント (0)

« 2020年12月 | トップページ | 2021年3月 »