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2021年5月22日 (土)

ウラニア盤のないウラニア盤紹介(その5)

 ちょうど5年前の5月、「ウラニア盤のないウラニア盤紹介」というシリーズ記事を4回にわたって書いた。これはフルトヴェングラーの1944年の放送録音、通称「ウラニアのエロイカ」について、1970年以降に相次いで出されたユニコーン系列のLP等についてまとめたもの>>(その1)。その当時も、オリジナルの「ウラニア盤」の板起こしCDや、放送局に残されたテープからの復刻CDがそれこそ雨後のタケノコのように出されていて、どの盤が高音質かという議論は確かにあった。僕もひと通り集めてはいたものの、過剰なイコライジングやノイズ・リダクションにより、その音質・音場は刺激的かつ荒れたものが多く、どれも満足できなかった。一方、上記ユニコーン系の初期LPを聴くと、意外にこれが良いのである。解像度こそ低いかもしれないが、それらしい雰囲気がある。少なくとも、ちゃんと楽器の音がしている。にも関わらず、これらはフルトヴェングラーのファンの間でもほとんど忘れられた存在になっており、そのことが僕に一連の記事を書かせたのだった。

 ところで昨年、Youtube で指揮者の徳岡直樹氏が「『ウラニアのエロイカ』フルトヴェングラー:ベートーヴェン「英雄」1944年(追跡リニューアル#2)」という解説動画を出された>>こちら。これを最近になって閲覧したが、そこには僕がブログに取り上げたような諸盤のピッチ情報について詳しく触れられていて、僕が調べきれていなかった新たな情報も付け加わっている。詳しくは「フルトヴェングラー・センター」の会報・第58号をご覧くださいとのことなので、早速、同会への入会申し込みをして、当該会報の「1944年エロイカのユニコーン音源の系譜」(会員 田井竜一氏、末廣輝男氏・執筆)という記事を閲覧することができた。

 さすがによく調べられた記事で、参考になる。また、巻末の参考文献には、上記記事「ウラニア盤のないウラニア盤紹介」についても、(その1)から(その4)までのURLがきちんと紹介されていた(ありがとうございます!)。内容的にも僕の書いたブログ記事の情報と概ね一致しているのだが、本会報には下記のような新たな情報が記されているのでここで紹介しておく。

1) Turnabout 「TV 4343 (VM 3293)」
 まずは(その2)で触れたTurnabout盤について。これについては、僕はビッチ未修正のものと修正済みのものがあると書いていた。が、会報ではこの盤には、ビッチ未修正のもの、表面のみピッチ修正済みのもの(会報では「ハイブリッド」と表記)、両面ともピッチ修正済みのもの、の3種があると書かれている。ちなみにこのうち僕が持っていたのは、このうち最初と3番目のもの。会報には、ベルリン表記(未修正)、ウィーン表記(ハイブリッド)、ウィーン表記(修正済み)が紹介されているが、うちにあったのはウィーン表記の未修正なので、少なくとも4種あることになる(注)。

2) Turnabout 「THS-65020」
 この再発盤については、僕はピッチ修正済みと書いていた(>>(その2))。が、どうもこちらの盤にも、表面のみピッチ修正済みのもの(ハイブリッド)、両面ともピッチ修正済みのもの、の2種があるらしい。

3)日本コロンビアのLP「DXM-101-UC」

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 この日本初の「ウラニア盤」については、僕は自身の2枚の所有盤に基づき、「ピッチは未修正だった」と書いていた(>>(その3))。 会報の筆者のお一人でもある末廣輝男氏が、オリジナルの「ウラニア」盤を板起こししたCDのひとつ、「Opus蔵」盤の解説にこのように書いておられた。

「1970年前後のほぼ同時期に、フランスのPathe(2C051-63332M)、アメリカのVOX(TV-4343)、イギリスのUnicorn(UNI-104)から、この「ウラニアのエロイカ」と細部まで全く同じ演奏がフルトヴェングラー夫人の正式なライセンスを得て発売されたのである。まもなく我が国でも日本コロンビア社からDXM-101として正式発売され、再び大きな反響を巻き起こした。」
「これまでに発売されたLPのうち、このピッチの異常に気が付いて初めて修正をしたのは、海賊盤を別にすれば日コロンビアのDXM-101であった。」
(ともに、「Opus蔵」OPK7-26盤の末廣輝男氏による解説「ウラニア「エロイカ」とメロディア「コリオラン」」から)

 これらの記述に対して、(その4)では、「直接的な情報ではな」く、こちらのネット記事=「kubo yoshikazu のホームページ」由来の記述なのでは?と僕は推測していた。が、本会報を読むと、この末廣氏も「DXM-101-UC」を所収されていて、こちらはなんと本当に「ピッチ修正済み」であるとのこと(これについては、末廣氏に対しお詫び・訂正しなければならない。kubo氏にも)。一方、会報のもう一人の筆者、田井竜一氏の所有盤は、僕のものと同じ「ピッチ未修正」盤であったという。つまり、この「DXM-101-UC」にも、やはりピッチ未修正のものと、修正済みのものの2種があったということになる。ただ、念のために書いておくと、上の解説で「1970年前後」とされていた「フランスのPathe(2C051-63332M)」の発売年については、会報ではユニコーンやヴォックス盤のような1970年前後の発売ではなく、「1980?年発売」と修正されている。

 以上、本会報によって、ユニコーン系列のLPについて、新たな情報が紹介されたのはありがたい。ただ僕としては、末廣氏(およびkubo氏)が所有するというピッチ修正後のDXM-101-UCを手に入れて確認したいと思うのだが、これはかなりの難関ではないかと思う。本盤はオークションなどでも時折見かけることあるが、それがピッチ修正盤であることを確かめるのはなかなか困難を極める(というより、ピッチ修正盤にたどり着くまで何枚も同じ盤を買うはめになるだろう)。現在のところ、「フルトヴェングラー・センター」の会報・第58号からの情報ということでご理解いただければと思う※※。

※(注)ただ、この3種の盤を比較した記述での「タイミング」表記は、最初の未修正のもの「14:51 17:02 6:11 12:11」、ハイブリッド盤「15:36 11:05+6:27 6:12 12:11」、両面修正済みのもの「15:32 17:43 6:28 12:38」となっている。これだと最初のものと3番目のものは、第2楽章が2つに分かれていないように見える。が、実際は3種とも第2楽章は2つに分かれている。想像では、2番目の「ハイブリッド」盤の場合、表面の第2楽章前半はピッチ修正済み、裏面の第2楽章後半はピッチ未修正、ということになるので、「11:05+6:27」とあえて分けて書いたのではないかと思うが、ちょっと紛らわしい。
※※(2021/8の追記)以上のような議論に精通された方だと思うが、オークションでわざわざこのLPを「日コロムビア盤(ピッチ修正済) フルトヴェングラー/ウィーンPO ベートーヴェン 交響曲 第3番 英雄 」というタイトルをつけて出品された方がいらっしゃった。ピッチ不明のものより少し高額だったが、もう出会えないかもと思い落札してみた。確かに、これはピッチ修正済みで、目で見ても両盤とも中央の無音部分が極端に狭くなっていた。また、上の2)で触れたTurnabout 「THS-65020」の表面のみピッチ修正済みのもの(ハイブリッド)も、その後、実物を手に入れて存在を確認した。以上、追加でご報告まで。

>>(その1)へ、(その2)へ、(その3)へ、(その4)

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2021年5月 1日 (土)

リパッティの『ワルツ集』は1947年に録音されたか?(その2)

 前回の(その1)の続き、である。ひょんなことから、音楽評論家の竹内貴久雄氏が唱えられているリパッティの「ワルツ集(全14曲)」の録音年が、1950年ジュネーブ録音(最後のスタジオ録音の一つ)ではなく、1947年録音だったのではという「ねつ造」説を検証している。とにかく、実際に音盤を聴かないことには話にならない(これは、この「毎日クラシック」の根本理念でもある)。

1)「グリーグのピアノ協奏曲SPの余白」LX1032(1947年9月24日、アービーロード・スタジオ(ロンドン)録音)
※これは、竹内氏がこちらのブログ記事で「SP盤、探してみましょうか? 何年かかるでしょう?」と書いているものだが、正直それほど希少な盤でもない。元々、リパッティ・ファンの僕も、たまたま Clunbia 盤のSPを持っている。もちろんグリーグ目当てだったが。復刻CDで有名な DUTTON盤や OPUS蔵盤でも、まさにこのSPからの板起こしの音を聴くことができる(注1)。

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これは、いわゆるスタジオ録音盤「ワルツ集」に含まれる演奏とは、全体の演奏時間、弾かれている音符等はよく似ているが、はっきり別物。一番わかりやすい相違点は、冒頭3、4小節目、7、8小節目に現れるそれぞれ4つの和音の連打部分。SP版はインテンポで弾かれるのだが、ワルツ集版はタメが入ってわずかに遅くなる。また、こちら1)の演奏のバックにはSP録音特有の針音が入っている。

2)「スタジオ収録版「ワルツ集」33CX 1032(1950年7月3〜12日、ラジオ・ジュネーヴ、スタジオ2(ジュネーブ)録音)
※こちらは「ワルツ集(全14曲)」の最後に置かれた演奏で、一般的にリパッティの名演の一つとして広く知られているもの。上記で触れたように、1)のSP録音とは別録音。1953年発売で、今、中古店などで買えるのはだいたいLP1枚のバージョンだが、SP数枚組みでも出たという。たしかグッディーズからSPバージョンの復刻CDが出ている。

3)「スイス製「ブザンソン告別リサイタル」LPの付録」1950年(?)
※これは竹内氏のこちらの文章に出てくるものだが、今回の調査では残念ながら確認できなかった。ブザンソンのライヴ全曲は、アメリカのエンジェル・レコードや仏コロンビアが1957年に出した2枚組LPが初出だろう。ただし、そこにはワルツ第2番は含まれていない。その時点で2)のスタジオ録音版もSP、LPですでに出ていたので、普通に考えればこのスタジオ録音から取られた思われるが、詳細は不明(注2)。

4)「東芝製「小品集」LP」1950年7月、ジュネーブ録音
※竹内氏が『クラシック名盤・裏名盤ガイド』(洋泉社ムック)の記事に記載したCD番号は、小品集「来たれ、異教徒の救い主よ」(TOCE-8353)なので、そのLPバージョンとしては「ディヌ・リパッティ Dinu Lipatti - ピアノ・リサイタル2」(EAC-60113)が挙げられる(注3)。これらはCD、LPともに、1)と同じSP録音が収録されている。ちなみに、他の収録内容は異なるが、リパッティの芸術4「ショパン/ワルツ集(全14曲)・ピアノ作品集」(TOCE-3157)に付録的に収められた最終トラックも同じ録音。

5)「2008年現在のスタジオ録音の「ワルツ全14曲」を収めたCDの付録」1950年7月3〜12日、ラジオ・ジュネーヴ、スタジオ2(ジュネーブ)録音
※これは『クラシック幻盤 偏執譜』(ヤマハミュージックメディア) に掲載された画像から、「TOCE-14026」だということがわかる。この2007年発売のCDには、ワルツ集14番目と最後のトラックにワルツ第2番が2トラック分収録されていて、その曲配列は上記4)の最後に紹介した「TOCE-3157」とまったく同じ。竹内氏は、「TOCE-14026」について、「(2008年現在のスタジオ録音の「ワルツ全14曲」を収めたCDでは、余白にこの「第2番」も加えて収められている。)」とし、3)4)と同じ演奏のように紹介しているが、これはどうか。というのも、僕が聴いた限りでは、「ワルツ集(全14曲)」の14番目のトラックと、最後の付録トラックは、まったく同じものだからである。なぜ同じものが2つ収録されたのかは不明だ。だが、この「TOCE-14026」は2003年発売の「TOCE-59178」の再発売盤。実は、この「TOCE-59178」から、トラック1〜14の「ワルツ集」(および最終トラック)のクレジットが「1950・7・3〜12、ジュネーブ」と改められている。その際に、従前の諸盤に収録されていた4)の方が「1950年7月」録音とされていたので、最終トラックの方が1950年録音の音源=2)に差し替えられたのかもしれない。ただそのことで、結果、同じ曲の同じ演奏が1つのCDに収録されてしまったのであり、これはこれで、東芝さんはまた別の問題を起こしている。

 ということで、竹内氏の文章中にある「新発見の別テイク」と敢えて断わり1950年7月録音だと言っているもの」の実音源は、残念ながら見つからなかった(未確認のスイス製LPと言われるものは除く)。これは竹内氏が、「私はこの「ワルツ第2番」だけが、リパッティの遺言に背き世界中の音楽ファンを欺いてまで、世に出すには相応しくないとレッグが判断した「50年7月ジュネーブ録音」のショパンのワルツ演奏なのだと信じている。(中略)レッグはジュネーブ録音の方を破棄したのだと思う。ジュネーブ録音は、現地の放送局のスタジオと人手を臨時に借りて行われたようだが、その時の関係者が持ち出していた音源なのではないかと思う。」と想定したものなのだが、もし「新発見の別テイク」があれば、「3つ目のワルツ第2番」としてもっと大騒ぎされていてもおかしくない。東芝EMI からLPやCDで出た『リパッティの芸術』という集成盤や、近年、既出の録音を集めて話題になった『ディヌ・リパッティ・コレクション 生誕100年記念エディション(12CD)』(Profil)でも、リパッティのワルツ第2番は上で聴いてきた2種しか収録がない。

 では竹内氏らが聴いてこられた「新発見の別テイク」とは、何だったのか?という疑問が同時に残る。この演奏のことを氏は、「この「ワルツ第2番」は、「全曲録音」の中の同曲演奏とは、かなり異なったものだ。そして録音場所も、明らかに異なっている。単なる別テイクではない。」、また「軽やかで輝きに満ちた「1947年(?)の全曲録音」と違って、どこか生き急いでいる人の、とても悲しい演奏」との印象を記している。が、それはどちらかと言えば上記1)4)のSP録音の方に当てはまる。少なくとも氏は、上の1)の説明で書いたようにSP録音自体を確認していない。一方、上記4)の「小品集」LP 、CDを耳にされておられることは確かなので、このSP録音の方を「新発見の別テイク」と思った可能性があるのではないか。

 以上、これまで見てきた検証自体も、「ねつ造」説を直接否定することになっていない。が、東芝の録音データや音源自体の扱いは、非常に場当たり的であることだけはわかる。少なくとも、その東芝の過去の「1947年録音」というクレジットを根拠に、リパッティのスタジオ録音版「ワルツ集」を「1947年録音」と言うのは無理があるのではないだろうか。少なくとも、1947年にワルツ集(全14曲)が録音されていて、その一部がグリーグのSPの余白で、残り13曲がスタジオ録音版「ワルツ集」で出たという仮説は、事実に反するだろう。

(注1)音源自体は、上記『リパッティの芸術』という集成盤や、『生誕100年記念BOX リパッティ・コレクション』(Profil)、『リパッティ~コロンビア録音集1947-1948』(archiphon)にも収録されている。
(注2)ブザンソンで演奏できなかったワルツ第2番を別録音から補完することを考える人は他にもいて、ナクソス・ヒストリカルから出た「The Last Recital」(8111366)も、「当盤では彼の意思を引き継ぎ、その2か月前に録音されたOp.34-1を添えて、「幻のコンサート」として完結させています。もしこれが不要であるならば、トラック27は永遠に封印してください。」という扱いになっている。
(注3)LPには、CD版に含まれるエチュード2曲はない。ちなみに、CDのパック・イン・レイに「この音源はディスクよりダビングしたもの」との注記がある。

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