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2021年10月26日 (火)

「バイロイトの第九」の新音源!登場(その2)

B センター盤の編集箇所
 前回は EMI 盤の編集箇所について述べたが、今回はセンター盤(Orfeo 盤)の編集箇所について。センター盤は、一般に演奏の内容的には、「「通し演奏」だと思います。(徳岡直樹氏) 」と言われている。が、そのテープに編集箇所がないわけではない。というより、EMI 盤・センター盤を通じ最も分かりやすい「編集痕」は、センター盤の第4楽章にある。ちょうどオーケストラによるレチタティーヴォが終わり、低弦で有名な歓喜の歌の旋律が出る直前で、急に音量が上がり頭の部分がわずかに欠けた形で始まってしまう。ここでは、明らかに2本のテープを編集している。(その1)で紹介したほかにも、EMI 盤のちょっとした音の欠落やひっかかりを元に、ウォルター・レッグらの編集行為をあげつらう言説は多くなされてきた。が、このセンター盤の明らかな「編集痕」については、金子建志氏以外にはまったく問題視しないのはどうしてだろう(「フルトヴェングラー 指揮、バイロイトの《第九》新発見が投げかけた新たな疑問」※)。センター関係者等は、元々複数のテープに分けて録音されていて、それをつないだ時にできたと言っている(その根拠は?)。その当否はともかく、この「編集痕」が重大な意味を持つのは、このことがバイエルン放送協会に残るテープが、放送された生演奏の一発撮りのテープそのものではないということを明らかにしている点だ。少なくとも元テープをハサミで切ってつないでいることは明らかである。これは、この後の BIS 盤の検証にも大きな意味を持ってくる。また第1楽章の冒頭に、金管楽器の管に詰まった唾を「ふー、ふー、ふー」と吹き出しているような音がかなりの大きさで入っている。これが本番の録音だとしたら、放送用の音源としてもかなり大きな問題になるレベルだ(こちらについて関係者は、バイロイト劇場に巣くったコウモリの鳴き声ではないかと言っている。え?※※)。

C BIS 盤の注目箇所
 今回 BIS 盤が発売されるにあたっては、これが本番の演奏の放送記録であることの傍証というか状況証拠がしっかりと取れることを期待したい。僕自身、様々な状況証拠から言って、センター盤が本番の演奏である可能性、つまり BIS 盤と同じ演奏である可能性は、EMI 盤がそうであるより高いとは思っている。が、センター盤の発表時に、本番の放送であることの外的証拠がないのにも関わらず、もっぱら演奏の特徴などから「こちらが本物。EMI 盤は偽物」と言わんばかりの紹介がされたことについては、大いに疑問を持っている。なので、この BIS 盤においては、そのあたりを慎重に取り扱ってほしいと思う立場だ。実際に、この BIS 盤が本番の生中継の録音であると断定するには、いくつかの要点がクリアされねばならない。

 例えば生中継番組の放送時間。当時の放送記録や新聞などから、ぜひ特定してほしい。それを語るには、まず1951年のバイロイトで、何時から「交響曲第9番」の演奏が始まったのかを知らねばならない。が、残念ながら、日本ではこのような基本的なことも、これまでほとんど語られてこなかった。今回、調べてみると、Orfeo 盤のライナーノーツに当時の演奏会のプログラムらしき文書の表紙画像が載っていて、そこに「SONNTAG, 29. JULI 1951, 20 UHR」とあるのが見える。つまり、20時からスタートしたと考えられるのだが、その時間と番組の放送時間とが一致していなければ、「生中継」という前提が崩れる。また生放送だった場合、当時、そういう国際中継放送が技術的に可能だったかの検証も必要だろう。日本の例だが、本邦初の国際ラジオ中継は、昭和5(1930)年1月のロンドン海軍軍縮会議の折だったと、国立国会図書館の憲政資料室のサイトにある>>こちら。なので、国際生中継が可能だったことは間違いないが、音質はひどかったそうだ。ドイツからスウェーデンまでおよそ1千キロメートル以上ある。中波では満足に届かないだろうから、短波で音楽を飛ばしたとしよう。その電波をスウェーデンの放送局がアンテナで受けて、(おそらく中波に変換して)放送するという手順をとったことが考えられそうだ。今回の BIS 盤はそれを放送局の時点で録音したということになるのだろうが、それでCD化できるほどの音質が保てたとしたらなかなかの技術だ(電話回線を使ったという説もあるが)。

 あとBで述べたことだが、もしBIS盤がセンター盤と同じ音源だった場合、その第4楽章にセンター盤に見られる明らかな「編集痕」がないこと。これも大事な要件だ。もし BIS 盤にも「編集痕」があったとしたら、生中継ではなくバイエルン放送協会のテープのコピーを取り寄せ放送したことになるだろう(コピーテープが1本増えただけ)。ちなみにこの辺りの事情は、NHK FM のライヴ演奏の放送番組である「ベスト・オブ・クラシック」の解説をよく務めていた金子建志氏による下記注の記事に詳しい。それによれば、1970〜80年代の日本のFMでも「音楽の生演奏を電波だけでリレーして中継するというのは簡単なことではなかった」という。多くの場合、「マスターテープをもとに、複数のコピーが作られ、放送時になると、全国のキー局から同時にダビング後のテープが回されて放送されるという仕組み」であった。テープの内容が「編集痕」も含め同じなら、かつてのNHK FM と同じことが、ミュンヘンとストックホルムで行われた疑いが生じる。

『レコード芸術』2007年9月号 p.213(音楽之友社)
※※僕自身、1950〜60年代のいわゆる「新バイロイト」時代の音源はほとんど集めているが、このような「泣き声」が入っていたという記憶はない。

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