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2022年1月30日 (日)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その5・ベートーヴェン5続き)

 前回の続き。無論、この交響曲第5番の1943年録音にも、GOST61 以降のいわゆるメロディア社になってからの諸盤がある。今回はそれらを順次、紹介する。真生のメロディア盤には、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンク・レーベルと、レニングラードでプレスされたイエロー・レーベルがある。

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 これらのイエロー・レーベル2枚は、いわゆる「Записано ВСГ / GOST61」表記の盤。最近、動画サイトで、某ベストセラー作家の方がこの盤をもらったことを興奮気味に紹介されていた。これを「VSG盤」と呼ぶかどうかについて僕の考えは、この項の(その2)に書いたが、これは見てのとおり正真正銘の「アプレレフカ盤」。上の「Записано ВСГ」という表記は、単に「VSG原盤」あるいは「VSG工場での製盤」というだと思う。ちなみにこれらの盤を、ロシアのショップ等で「VSG盤」などとして高く売っているようなことはない。上の盤は、まったくの無傷・ミント盤ながら24ユーロだった。

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 上の写真の盤はともに GOST68 だが、盤質もかなり良く、(その1)で紹介した「プレ・メロディア盤」や GOST61 盤と比べても特に劣化した感じはしない。ちなみにこの2盤は、マトリックスはA面・B面ともに1-1で、以前のままだ。

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 まず最初に取り上げる板起こし盤は、GREENDOOR 盤(GDCL-0017)で、CD自体には元LPの情報は記載されていないが、発売元HPの記載やCD帯には、「本CDは、メロディア盤の中でも音質の一番良い68年プレス盤より復刻を行った。」旨の記載がある(ジャケットのデザインから判断するに、レニングラード盤だろう)。かなり音量レベルが高い復刻で、低音もブーストされている。聴き応えはあるが、メロディア盤の音としてはどうか。(その1)の注にも書いたが、同じ GREENDOOR レーベルのベルリンの「第九」盤等でも、桧山浩介氏によるライナーノーツ「大戦中のフルトヴェングラーの演奏とその録音をめぐって」で、「レベル変動の修正」「コンプレッサー処理の結果生じている全体にわたるダイナミックレンジ幅の補正」「ピッチについても配慮が必要」と書かれている。確かに、古いLP自体が演奏のダイナミクス等を忠実に記録していることはあり得ない。レベルを上げ下げしたり、コンプレッサーをかけたりすることは、ダイナミックレンジが狭いLPでは必ず必要な作業だ。ただしどれだけ処理を加えたかまでは、今となってはどこにも記録されていないはず。「40年代の録音時にエンジニアの行った不自然なレベルの上げ下げを可能な限り修正し、聴きにくかった演奏をもとに戻したテイク(GDCL-0017の帯解説)」と言いながらも、結局は復刻担当エンジニアの胸先三寸で、レベル調整やトーン・コントロール等のスライダーを上げ下げしているとも言える。「自分はフルトヴェングラーの演奏を隅から隅まで知り尽くしている」というような思い込みが強くないと、そういうことはなかなかできないはずだが・・・。むしろ、この GREENDOOR 盤は、冒頭から大音量で始まる。まさにコンプレッサー処理をかけ直したというような音作りだ。

 また平林直哉氏のCD-Rレーベル「Serenade」にも、ピンク・レーベルの復刻とされている盤があった(SEDR-2011)。こちらも、「いかにも」という派手な音が入っている。ただし、GREENDOOR 盤よりは高音寄りの音。GOST 番号の記載はないので、どの時代の盤を原盤に使ったのかは不明だ。だが、ネット上の先達の皆さんによる調査は、非常に素晴らしい。それによれば、この第5番のメロディア盤は、GOST68 の途中でレコード番号が「33HD-05800/1」と新しくなっていて、それを判定できる箇所があるという。

「メロディアの初期の盤以外のLPとCDでは,エコーを加えているほか,第1楽章の443~4小節を編集で別の演奏と入れ替えており,急に音調が変わるので違和感がある。」(加藤幸宏氏のHPサイト「Classical CD Information & Reviews」)(注1)
「ただ最後期の黒レーベル盤は、マトリクス番号も33ND05800 1-3、33ND05801/1-4と変わり、音質が相当劣化したばかりでなく、第1楽章第442-443小節に突然別の演奏が混じり込むなど、大変ひどいことになってしまいました。」(Facebookページ「ウィルヘルム・フルトヴェングラー研究」2021年8月14日における末廣輝男氏の発言

 この情報をもとに Serenade 盤を聴いてみたが、確かにエコー成分はこれまでの盤より多め。また第1楽章の上記の個所に来ると、2小節分だけ急に重々しい音質に変わっているのがわかる(タイム表記だとおよそ7分15秒前後)。が、これを「別の演奏」の差し込みとするかどうかは、異論もあるようだ。

「会議室におけるWF氏清水氏などの書き込みによれば、メロディア盤には「ガスト73」規格以降のLP/CDは1楽章7'07"付近に音の間延び現象があり、コーダに向かっての盛り上がりに「ズッコケて」感興を殺がれる-という。NHKFMで放送された87年返還テープでも「ズッコケ」は確認できる。01年末に日本に輸入されたギリシャdacapo盤と89年DG盤CDはこのテープを使っていることからこの「ズッコケ」が確認できるが、87年返還テープを使ったCD/LPと73年規格以降のメロディア板おこしCD/LP以外は正常。」(shin-p 氏のHPサイト「フルトヴェングラー資料室 WF Archives1942-5」

 こちらでは単に「間延び現象」としていて、別意見。僕も「別の演奏と入れ替えた」という確信は、正直持てなかった。ちなみにこの shin-p 氏の発言にあるように、ソ連から返還されたコピー・テープを元にしたドイツ・グラモフォンのCD等も、上記音の突然変化が認められる。さて話を戻すと、上記の Serenade 盤からは、そうした新盤と同じ特徴を聴き取ることができる。なので、おそらく GOST73 盤(33HD-05800/1)のうちピンク・レーベル盤を復刻に使っていると想像されるわけである。参考までに、僕の所有する GOST73 のピンク・レーベル盤を挙げておく(マトリックスは両面とも「2-1」)。

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 DREAMLIFE からは、同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7006)も出ている。パックインレイに記されたレコード番号は「D05800〜1」となっているが、やはり第442〜443小節は音質が変わっているバージョン(やや補正をかけているようだが)。つまり、上記 Serenade 盤と同じ「33HD-05800/1」からの復刻という可能性が高い。こちらも平林盤の常で音圧レベルがかなり高い。迫力を求める人には良いかもしれないが、第2楽章の始めなど静かな箇所では、音楽のバックに他の盤では聴こえていない低い持続音が聴こえている。

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 ちなみに同じ GOST73 には、ホワイト・レーベルもある。こちらも番号は「HD-05800/1」(上の写真の盤のマトリックスは「A面2-1・B面4-3」)。このホワイト・レーベル盤について、「手持ちのLP,CDの中ではこれが音質ベストだ。高音は少し荒々しい音だが一皮むけたような音だ。」と評価する方もいるが、基本的には上記「HD」番号の音である。

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 また1990年頃に出たいわゆる黒ジャケット・黒レーベル盤にも、もちろんこの演奏はある。ただこれらの新しい盤には、上に報告されているような瑕疵はあるものの、当然ながら針音等は圧倒的に少ない。LPの雑音が苦手な人には良いかもしれない。

 以上、真正メロディアLP盤の板起こしCD盤を見てきたが、個人的には(その4)で紹介した「プリ・メロディア盤」の復刻盤を聴く方が本来のメロディア盤の良さを味わえるように思う。とはいえ、真正メロディアLP盤の GOST68 あたりは、価格も海外からの購入なら千円台からかなりの数が出ている。マトリックス1-1のものが手に入ったなら、気軽にメロディア盤の音を楽しむにはうってつけの盤になるのではないだろうか。

(注1)このサイトには、当該箇所を「第1楽章の443~4小節」とするが、楽譜で確認した限りでは、やはり442〜443小節のようだ。ただこの方のサイトの当該演奏のCD評では、40枚以上の盤でこの箇所の異同を挙げていて大変参考にさせていただいた。感謝したい。 

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2022年1月29日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その4・ベートーヴェン5のプリ・メロディア盤)

 今回取り上げるのは、ベートーヴェンの交響曲第5番。フルトヴェングラーのベートーヴェン演奏の中でも本命中の本命である。1947年5月の戦後復帰演奏会における同曲の演奏は、そのドキュメント性もさることながら、演奏の劇的拍力の面でもまさに究極の記録である。この「メロディア盤」に聴ける演奏は、その3年前、1943年6月の放送録音でまさに戦時中。そこに聴くことのできる緊張感あふれる響きは、前者に勝るとも劣らないものがある。特に後半2楽章の溌剌としたリズム感覚は、後年のフルトヴェングラーからは失われたものだ。

 元LP、復刻CDともに、かなりの数が出ている。レコード番号は「D-05800/1」。メロディア社が誕生する前から出されていた、いわゆる「プリ・メロディア盤」が初出と言われている。このうちで、板起こしによく使われるモスクワ製の盤に「灯台盤」がある。GOST番号は、当然「56」と古い。こちらはかなり珍しく、高価。残念ながらこのLPは僕は未所有なのだが、VENEZIA 盤(V-1021)および Delta 盤(DCCA-0006)に使用されているので、間接的ながらその音を聴くことができる。

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 前者は非常にバランスが良い復刻で、決して派手ではないが楽器の音が良く聴こえ、力強さにも欠けていない。もちろん元LPの力かもしれないが、この音源のベストの一つと言える板起こし盤だと思う。一方、後者はこのレーベルの常でやや高音寄りの音作り。力任せではないところは良いし、高弦の伸びもきれいだ。

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 あと会員制のショップだが、アリアCDのオリジナル板起こし「アリア・レーベル」にも、「灯台盤」の復刻があった(AR 0011)。入っている音自体はさすが「灯台盤」だが、バックの雑音はやや多い。また「ラストのラストではLP特有の音割れが起きる。」と店主の方が書いている。「しかしここをきれいにしすぎると、せっかくの勢いが全て殺がれてしまう。「音質」を取るか「勢い」を取るか、そのギリギリのところで落着させた。/というか全編「音割れ」と「勢い」の戦い。これほどまでに厳しく辛い作業になるとは。」とのことだが、先の2盤では音割れしていない箇所でも、音が割れている箇所がある。おそらく使用した盤の問題だろう。ほかにも「MYTHOS」レーベルには、以前から「灯台盤」から復刻したCD-R盤が何種類か出ていた(注1)。

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 同じモスクワ製の盤の中に、水色のレーベルに「聖火」のマークをつけた「(大)トーチ盤」がある。これはかなり数が出たものと思われ、中古レコード店やオークションでも比較的良く見かける。ミント盤にこだわらなければの話だが、価格も1万円前後から買えるようだ。「OPUS蔵」盤(OPK 7001)は、これを復刻している。元LPに比べると、いつものようにやや低音が強調されているが、音色はよく再現されている。これはこのレーベルの復刻としては、成功しているのではないか。

 この「(大)トーチ盤」の次によく見かけるのは、イエロー・レーベルに両手にラッパを持ち吹いている人型のマークがついた通称「アコード盤」ではないか。こちらは、レニングラード製。上記「トーチ盤」より、やや価格は高めか。

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 音楽評論家の浅岡弘和氏は「残念ながらモスクワプレスに比べ音質はだいぶ落ちる」とあちらこちらに書いているが、同じく多数のメロディア盤を収集されているこちらのブログ主の方は以下のように言っている。「LPでアコードと聖火を聞き比べたとき、アコードの明るくて分離の良い音を支持する人は多いのではないだろうか。」。基本的には、盤質の違い、それを聴く側の好みの違いとしか言えないだろう。が、僕の視聴環境でも鏡のようにきれいな製盤のアコード盤を聴くと、どの板起こしCDよりも雑音が少ないように感じる。ただし残念ながら、このアコード盤の復刻盤はまだ見たことがない。

 また同じレニングラード製の盤に、「33」という数字がレーベルに書かれた盤がある。

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 これはかなり珍しい盤だ。なぜ僕がそれを持っているかと言えば、この写真のLPはA面に1箇所だけ傷があり音飛びするから、安かっただけである(それでも1万円近くした)。実際に聴いてみると、非常に迫力のある音で鳴る。ちなみにこの業界では?、この盤を「大33盤」と呼び、別にレーベル面が黄色いバージョンもあった。さらに小さめの白抜きの書体で「33」と書かれた「小33盤」というものもあるらしい。

 ほかに珍しい盤として、「リガ盤」がある。リガは、現ラトビア共和国の首都。バルト海に面しているせいか、ブルーの波とカモメが描かれたレーベルが美しい。僕は所有していないが、早い時期から WING が板起こし盤を出していた(WCD-203)。このCDの表紙で代用させていただこう。

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 復刻盤で聴く範囲では、一聴して「トーチ盤」「アコード盤」と比べて「やや鈍いかな」と感じるが、あえて手を加えず派手さを押さえたと思える。

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 さて、ここで「VSG盤」について触れて置く必要があるだろう。(その2)の注にも書いたが、「MYTHOS」の板起こしCD盤(MPCD9019、別にCD-R盤も出ている)のメーカー・インフォによれば「あるはずのないVSGレーベル」として宣伝されている。以下はその全文。

「旧ソヴィエト時代の謎に包まれた音源リストにあって、その最高峰とされているVSGレーベル。そして、この5番の音源には青松明や灯台レーベルしか存在しないと信じられていたいままでの常識がついに打ち崩されます。ミソスのライブラリーにはあるはずのないVSGレーベルが存在していたのです。
 旧ソヴィエトの放送関係者から入手したというこの盤は、もちろん世界で初めてここに復刻されるのです。いままで最高と言われていた青松明や灯台レーベルの音をさらにクリアーにして、奥行きと凄みを増した音楽が間違いなくここに刻まれています。いままで極々限られた一部の人間しか聴くことのかなわなかった幻の音源が、ついに光を当てられることとなった音楽史に刻まれるべき1枚なのです。(ミソス) 」

 この盤のCDケースに入っている紙表紙には、このレーベルの通例に従って、復刻に使用したLPのレーベルが記載されているが、これが若干怪しい(注3)。というのも、曲目や演奏者が書かれている場所には、非常に簡単に「L. ベートーヴェン/第5番 交響曲/V. フルトヴェングラー」 としか書かれていない。通常なら楽章表記や表情記号が書かれているはずで、上のような簡素なデザインは珍しいからだ。ただし、清水宏氏編の有名な『フルトヴェングラー完全ディスコグラフィー(2008年改訂版)』の「Label and Jacket Gallery」にも同じ「VSG盤」のレーベル写真が載っていて、こちらも同じような簡素な表記だ(ただしこちらはA面の写真で、表記の一番下に「コンサート会場での録音」というような文字の記載がある)。音的にも大きめの音量で、これまで聴いた中では一番きらびやかな音がする。音質的には、やはり「プリ・メロディア盤」からの復刻であることは間違いないと思うが。

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 これまで聴いてきた盤は、概ね GOST56 時代、1950年代末から60年までの間に出たものと推測されているが、メロディア社の設立は1964年と言われているので、それまで、GOST61 時代に入っても1963年頃までは「プリ・メロディア盤」が出ていたことになる。そのうちの一つがこれ。上に写真を載せた「青トーチ」と比べると聖火のマークがやや小さくなっている。いわゆる「ピンク小トーチ盤」と言われるタイプで、おそらくこの時期にのみ出されたものだろう。音的にも、上の諸盤と比べてまったく遜色がない。

 以上、「プリ・メロディア盤」でフルトヴェングラー、1943年の第5番を聴いてきた。全体として音楽的で、時に美しく明るい楽音が特徴。逆に力感は、「フルトヴェングラーの戦時録音」というイメージほどではない印象だ(注2)。テープ音源を復刻した廉価CD等では迫力重視で荒れた音場のものも多く、それがかえって緊迫感を増していた。が、戦時中といえども、当時の会場では歪みの少ないハイファイの楽音が流れていたはず。その意味では、「プリ・メロディア盤」を聴き直すことが、演奏自体の印象の見直しにつながる可能性もあるではないだろうか。

(注1)10年ほど前に MYTHOS が D5800/5801(青灯台レーベル)を使って、「仕様:200グラム重量盤、オリジナルジャケット仕様、オリジナルレーベル仕様。」という板起こしCDならぬ板起こしLPを出したことがあった(MPLP004)。これは正直、期待以上の高音質で、特にバックグラウンドのノイズは、他の復刻CDより少ないくらいであった。参考までに。

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(注2)今回、紹介した所有盤のマトリックスは、いずれもA面1-1、B面1-1であった。ただし、この項の(その1)の注にも書いたように、レコードの再生においてはイコライジング・カーブの問題がある。時期的に見ても「プリ・メロディア盤」が RIAA カーブ以外を採用していた可能性もある。ただこれについても定説はないようなので、僕の感想もとりあえずの考察にならざるを得ない事情はある。
(注3)上の(注1)で触れたベートーヴェン交響曲第5番の MYTHOS の 復刻LPだが、その同じシリーズに交響曲第7番の復刻LPが出ていた(MPLP-006)。これはこの項の(その1)でも紹介した「MELODIYA ダブルレター 33D-027779/80」を元に復刻したものだが、なぜかそのレーベル面は上にも写真を載せた「プリメロディア スモールピンク松明」仕様というものだった。こちらにも書いたように「第7番」のプリ・メロディア盤は存在しないので、これは公然の「レーベル創作」だった。

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2022年1月26日 (水)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その3・ベートーヴェン6)

 前回のベートーヴェン交響曲第7番に続き、第6番『田園』を取り上げる。フルトヴェングラーのベートーヴェンと言えば、3、5、7、9といった奇数番の交響曲が有名で、そのあおりを受けてかこの曲はそれほど話題にならない。数多い彼の録音の中でも、非常に特徴的な演奏ではあるのだが・・・。実際、復刻盤の数も多くない。

 レコード番号は「33D-02777/78」なので、(その1)の注に書いたように「33D-027779/80」という番号を持つ第7番と連番になっている。こちらもレコード番号の上に「GOST 5289-68」という数字がついたものが初出であるという。レーベルの色も第7番と同じく、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンクと、レニングラードでプレスされた黄色が基本。上半分に記された「MELODIYA」という文字が、中白抜きの書体と、普通のベタ塗りの書体の2種があるところも同じ。マトリックスは「A面3-2・B面3-2」。僕が最初に聴いたメロディア盤は、実はこの『田園』で、第1楽章の冒頭部分の弦の響きを聴いた時には、その穏やかな表情と豊穣な響きにうっとりさせられたことを、よく憶えている。これはベルリンの国立歌劇場で行われた定期演奏の録音だというが、若干エコーがかけられている可能性もあるだろう。美しいことは美しいが。

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 残念ながらこの第6番には、ピンク・イエロー両盤とも、はっきりそれと明記された板起こし盤はない。ただ別にホワイト・レーベルの盤があり、平林直哉氏が主宰する板起こし盤レーベル「Grand Slam」の前身のCD-Rレーベル「Serenade」に、その復刻とされている盤があった(SEDR-2009)。以下はそのメーカーによる紹介文(注1)。

「メロディアLPからの復刻盤であるブラームス第4(SEDR2003)、ベートーヴェン第9(SEDR2004)を発売して以降、幸いにもフルトヴェングラーのメロディア盤LPを十数枚入手した。それらを過去のLP、CD等と比較試聴し、復刻に値する結果が得られると判断したものだけを、今回、 SEDR2008、2009、2010、2011の4枚として発表することになった。このCDRでは「田園」がホワイト・レーベル、それ以外はピンク・レーベルから復刻したものである。これらのLPが、過去に発売されたメロディアのLPの中でも最高の音質かどうかは判断できないが、現時点では望みうる最上の音質であると考えている。とにかく、このCDRはその昔出ていた伝説のメロディア盤がどのような音であったか、それを知るひとつの手がかりとして世に問うたもので、各方面からのご意見、ご批判をいただければ幸いである。 【平林直哉】 」

 メロディアのホワイト・レーベルと言えば、プリ・メロディア時代の白トーチ盤等があるにはあるが、第6番(および第7番)にはプリ・メロディア盤は存在しない。では、何を使ったか。

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 実は GOST73 には、ホワイト・レーベル(レニングラード製)があった。この盤あたり候補になる。もしそうだったなら、「これらのLPが、過去に発売されたメロディアのLPの中でも最高の音質かどうかは判断できないが」という平林氏の留保も、ある意味理解できる。このSerenade 盤は、音圧レベルが非常に高く、アンプのボリュームを8時くらいにすると、もう普通にうるさい(笑)。強音部でビビリが出るし、残響成分は抑えられていないので、低音がボン付き気味ではある。が、実はこれは他の板起こし盤も、多かれ少なかれ似たような傾向にある。

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 こちらはモスクワ・アプレレフカ製の GOST73。これらやや後期の盤については、「音が鈍く聞こえる」という方もいらっしゃる。が、実際 GOST73 盤を聞いたが、初出の GOST68 盤と比べてもそれほど遜色はない。ちなみにこのピンク・レーベル盤のマトリックスは両面「3-2」のまま。「交響曲第6番『田園』のマトリックスが、初期プレスも後のプレスもA面3-2・B面3-2で変わらない」とする人もいるが、僕の所有する上記 GOST73 のホワイト・レーベルのマトリックスは「A面4-3・B面3-2」で、A面のみ番号が上がっていることは事実だ。DREAMLIFE から同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7009)も出ていて、パックインレイに記されたレコード番号は「D027777〜8」。これまでの通例から、上記 Serenade 盤と同じLPからの復刻という可能性もある。Serenade 盤同様、音圧レベルがやや高めで暗騒音が耳につくし、針音も多めである。それを除けば、音自体は決して悪くない。

 さて、この曲にも青レーベル盤があって、こちらも新世界レコード社が日本語の帯をつけて直輸入販売している(「33D-027777/79(a))。裏ジャケットの解説は英語になっており、演奏者はやはり「ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル」名義。上に修正シールが貼られている。

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 「OPUS蔵」盤(OPK7001)は、この輸出用・青レーベルを復刻している。このレーベルにしてはあまり低音は強調していない方だと思うが、この曲のトラックには音量の増加とともに「ジジジ」という雑音が混じる。板起こしに使った盤の状態が悪いのか、レコード針との相性なのか、かなり耳障りだ。このレーベルは正式なメーカーではないのかもしれないが、この点、製作者側はどう考えているのだろう。無論、原LP盤はそういうことはない。

 一方、Delta 盤(DCCA-0007)の使用LPは、「ブルーメロディア盤(ガスト68相当)」との表記。上記輸入盤青レーベルか、あるいはこちらの「Записано ВСГ」表記盤を使ったと考えられる。ちなみに後者の盤を「VSG盤」と呼び珍重するべきか否かについては、この項の(その2)に詳解した。第7番と同じく薄い白地の簡素なジャケットに入っている。「MADE IN USSR」の表記入り。Img_3887

 Delta 盤の方はスクラッチ・ノイズはほぼないし、さすがにきれいな『田園』が聴ける。が、こちらには、テープ録音のヒスノイズのような音が少し入っている点が気になる人もいるかもしれない。ちなみに解説には「ここでは一つの試みとして自然さを失わない程度に音質を調整することにした。」とある。そのために入ったノイズだろうか。また曲冒頭の低弦の音が、ほんの一瞬だがフェードイン気味に始まる。元LPでは少し前から録音が始まっているのだが、板起こしの際に楽音ギリギリで始めようとした結果、このようなことになったのだと思うが、これはかなり残念だ。

 1990年頃にソビエトから日本に直輸入された黒レーベル盤にも、この『田園』はある(M10-27777 004)。ちなみに僕の所有盤のうち一枚は、ジャケットがワーグナーやラヴェル等の盤のものになっていて、わざわざ「ジャケット違い」というメーカー側のメモが入っている。写真下段は、正しいジャケット。盤質も非常に良く、何の問題もなく良い音で鳴る。

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 今回、3枚の復刻盤を紹介したが、これらの視聴時にあらためてLPを聴いてみたところ、スクラッチ・ノイズを除けば元LPの音は非常に優秀で、あらためてこのフォーマットの素晴らしさを再認識した。この交響曲第6番のメロディア盤は、冒頭に書いたように他の奇数交響曲ほど人気がないためか、海外の中古市場なら千円台で買える。手軽にメロディア盤に親しむには最適だと思うので、気になる人はチャレンジしてみてほしい。

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2022年1月23日 (日)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その2・ベートーヴェン7のVSG盤)

 この「第7番」のレコードの青レーベルには、マニアの間で「VSG盤」と言われ、特に珍重されているタイプのものもある。この「VSG盤」については、日本では「全ソ連芸術家養成所で出した一種の教育用レコード〜(共産党員専用盤?)」(浅岡弘和氏『二十世紀の巨匠たち』芸術現代社、注1)、または「共産党幹部向けの特別仕様」(ブログ「西方見聞録」、注2)とか言われている。特にメロディア盤を多数集められているこれらの方が、「音も良い」「初版」のように喧伝されていることが、高い評価につながっているのだろう。

 ところで「ВСГ(VSG)」は「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」が正式表記。直訳の意味は「ALL-UNION RECORDING STUDIO」である。その実は、ロシア盤の製作スタジオ・プレス工場の名前である。一般にメロディア・レーベルが誕生する1964年以前のレコードおよびレーベルを、のちにメロディア・レーベルで再販されるものと区別して「古メロディア」「プリ・メロディア」とも呼ぶ。「リガ」「AKKORD」「33」「灯台」「トーチ(聖火)」などが有名だが、その一つに上記「VSG」もあった(注3)。

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 Discogs の説明では、こうある。

>>「Vsesoyuznaja Studija Gramzapisi」(「All-Unionレコーディングスタジオ」と訳されます)は、1957年11月5日にソ連のモスクワで設立され、レーベルとしてスタートしましたが、レコーディングスタジオであり、時にはレコードプレス工場でもありました。 Мелодия以前の植物のロゴには「ВСГ」(「VSG」)と書かれており、フルタイトルとともにリリースで使用されています。
1964年7月、「VSG」は「All-Union Melodiyaレコード会社」ВФГ「Мелодия」に参加し、メインのレコーディングスタジオになりました。 

 つまり、メロディアに統合される前の「VSG」は、一つの独立したメーカーということになる(少なくとも「全ソ連芸術家養成所」などとは訳せない)。上記レーベルの盤は、その意味で確かに初期盤としての価値は高いかもしれない。また、これらの盤には「GOST」番号もないことは、やはりかなり初期の盤だと思わせるものがある。

 一方、メロディア統合後の「VSG」表記は、単なる「製作スタジオ」あるいは「プレス工場の名前」としか言えないのではないだろうか? 実際、GOST61以降のメロディア盤のレーベル上における「Всесоюзная Студия Грамзаписи」という表記は、「Апрелевский Завод Грампластинок(モスクワ・アプレレフカ工場)」や「Ленинградский Завод Грампластинок(レニングラード工場)」の表記と同じ場所、横罫線の上に書かれている。ジャケット裏でも、通例、プレス工場名が入る左下欄外に、この表記が入っている。例えば、このように。

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 青レーベルを多く見かけるが、稀にピンク・レーベルもある。「特別盤」というには結構数も出ていて、フルトヴェングラー以外にも、オークション等で普通に見かけるほどだ(注4)。さて、仮に「VSG」が工場名だったとしよう。その場合、プリ・メロディアのリガ盤やモスクワのトーチ盤、さらにメロディアのレニングラード盤にも「VSG」の文字が見られるものがあるのはなぜか?という疑問が残る(下記の画像は、Web上から拝借させていただいた)。

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Torch2

Torchi1

Vsg1

 ただこの場合は必ず「VSG」を意味する「ВСГ」「Всесоюзная Студия Грамзаписи」の文字の前に、「Записано」とか「Записано B o」と書かれている。これは「記録」「録音」という意味の語で、おそらくだが「VSG原盤」あるいは「VSG工場での製盤」というような注記ではないかと想像されるのである。

 まとめると、日本のマニア間で「VSG盤」と呼ばれているもののうちには、少なくとも

1)メロディア社が設立される前に存在した「VSG」レーベル盤
2)メロディア社が設立される前に、レーベルに「Записано ВСГ」と記されたリガやモスクワ、レニングラード盤
3)メロディア社に統合された後に、「VSG」工場で製作された真正メロディア盤
4)メロディア社に統合された後に、レーベルに「Записано ВСГ」と記されたレニングラード工場で製作された真正メロディア盤

の4種があるということだ。この時代も製作場所も違う各盤を、一様に「VSG盤」と呼んで何か特別な盤であるとするのは、やはり無理があるのではないだろうか。

 さて肝心の「第7番」だが、上記ブログで「VSG盤」と言われていた盤と同じものが、こちら。

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 こちらは3)の青盤。また「VSG盤」については、「厚紙アルバムに封入されたデラックス仕様のセット」とする意見もあるようだが、この第7番(や第6番)は単に薄い白地の簡素なジャケットに入っている(注5)。また「MADE IN USSR」と英語で!記載があることから、基本は輸出用と考えられる。少なくともこの点でも、共産党員専用などとは言えないだろう。音質的にも、(その1)で取り上げた青レーベルと同程度だと思う。

 以上、「VSG盤」について書いてきたが、フルトヴェングラー盤のうち、いわゆるプリ・メロディア盤としての「VSG盤」は、初期盤として貴重だろう。またロシア語の Wikipedia 等を見ると、「VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI」は統合後もメロディアの中心的スタジオ・工場であったことは間違いないようだ。例えば、そこに優先的に良い機材が配備されていたようなこともあっただろう。なので、「VSG」表記が付いた盤が比較的音が良いというようなことも、もしかすると、あり得る話かもしれない。メロディアは謎多いレーベルであり、僕が上に書いたようなことが絶対に正しいなどとは思っていないが、「VSGだから特権的な盤」と大騒ぎすることについては若干留保が必要ではないだろうか。ぜひ皆さんのご意見を求む。

(注1)『二十世紀の巨匠たち』芸術現代社・刊
(注2)occidental 氏のブログ>>「Gost-68で初登場したフルトヴェングラーの2つの音源」
(注3)フルトヴェングラーのプリ・メロディアにおける「VSG盤」は、僕の知る限りベートーヴェンの「第九」、シューベルトの「グレイト」、ブラームスの交響曲第4番がある。さらにベートーヴェンの交響曲第5番について、「MYTHOSのライブラリーにはあるはずのないVSGレーベルが存在していた」とされる。>>(その4)参照
(注4)
フルトヴェングラーの盤など一部以外は、VSG盤といえどもかなり価格は落ちる。
(注5)上記(注2)のブログの主宰者の方も、同じタイプの盤を3枚所有されているらしいが、いずれも白地の BSG 共通ジャケットだったらしい。ちなみにフルトヴェングラー以外にも「Всесоюзная Студия Грамзаписи」という文字が小さく入った白字の共通ジャケットは普通に存在する。

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2022年1月15日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その1・ベートーヴェン7)

 フルトヴェングラーの数多い録音の中でも、第二次世界大戦中の一連の録音の中に、最も彼らしい本領を見る人は多いだろう。今では、安い廉価盤CDでも聴ける音源である。だが、元はと言えばソ連が戦利品として持ち去った放送用録音テープ(マグネットフォン録音)から作られた、いわゆる「メロディア盤」というLPレコードが初出であった。当時は、ソ連という鉄のカーテンの向こう側で出ていた、いわばまぼろしの盤。自由に売買できるようになった今でも、我が国の輸入レコード専門店などでは、1950年代後半から60年代にかけて出たような古いオリジナル盤には、数万円から十数万円の値がつけられている。実は昨日もオークションサイトで、1942年のベルリン・フィルとの「第九」(アコード盤)が、十万円弱で落札されていた。まあ、こうなると「メロディア盤とはどのような音が入ってるのだろう」と興味を持ったとしても、余程のマニアでないと手が出ないだろう。ただしよくしたもので、今世紀に入ってからはこれらの古いLPを「板起こし」という形で音盤化したものも多数出るようになっていて、だいたいの音はわかるようになってきた。今回はそうした板起こし盤を中心に、メロディア盤音源を聴いていくことにしたい。まずは比較的新しいメロディア盤の一つである、ベートーヴェンの交響曲第7番イ長調から。

 レコード番号は「33D-027779/80」(注1)。その上に「GOST  5289-68」という数字がついたものが初出だそうで、この最後の「68」というのが製造年代(1968年以降)を表すというのが通説になっている(「GOST」の文字等はキリル文字で「ГОСТ」と書かれている)。1956年以降を示すという「56」というのが一番古く、次いでに「61」「68」「73」「80」と続く。つまりこの「交響曲第7番」の場合、最初にソ連でフルトヴェングラーの音源が出たのは1960年代の末か1970年初め頃だと推定され、その頃からするとすでに10年ちょっとが過ぎていたことになる。上に見たような何万円もするような希少価値はないので、僕のようなメロディア盤ビギナーにはかえって都合が良い。

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 レーベルの色は、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンクと、レニングラードでプレスされた黄色、この2種が一般的(注2)。プレス工場の名前は、レーベルの真ん中に引かれた太い罫線の上に表記されている。また、同じようなデザインだが上半分を占める「MELODIYA」という文字が、中白抜きの書体と、普通のベタ塗りの書体の2種がある。またアプレレフカ盤とレニングラード盤のうち、どちらが音が良いかについては、諸説ある(注3)。上記のように比較的新しいタイトルなので、製盤技術的にもコンディション的にもひどい品質のものは少ない印象だ。ただ、モスクワ盤の一部には、少しザラついた盤質のものがあると言われていて、僕の所有する2枚の中白抜き文字のピンク・レーベル盤(GOST68)のうち、1枚は入っている音自体は悪くないものの、SP盤のようなザワザワというごく小さな針音が絶えず入る。ちなみに、黒ベタ文字のピンク・レーベル盤(GOST68)やイエロー・レーベル盤(GOST73)は、そうしたことはない。

 音楽評論家の平林直哉氏が主宰する板起こし盤レーベル「Grand Slam」の前身のCD-Rレーベル「Serenade」に、イエロー・レーベルの復刻とされている盤がある(SEDR-2008、2002年)。盤のノイズは割と多い方。でも曲の冒頭から、元LP以上に凄絶な音響が聴ける。DG 版などのテープ系のCDと比べても、もともと音源自体エコー成分が多めなので聴き応えはあるが。第4楽章の冒頭は欠落のままで、解説には「今や伝説と化した事故を音で確かめられる復刻盤が、世の中にひとつくらいはあってもよいのではないかと思っている。」とある。ただし、テープ復刻盤とは違い、板起こし盤では、後述の GREENDOOR 盤、OTAKEN 盤以外はすべて欠落したままである。ちなみに、2004年末に DREAMLIFE から同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7007)も出た。使用盤の情報はないが、盤の雑音の状態等からおそらく同じ盤からの復刻と思われる。針音等は軽減されている。ただ平林盤の常でもあるのだが、低音を中心に音圧レベルが少し高過ぎる点はどうか。第2楽章の始まりも、LPよりかなり大きめの音になっている。

 その点ではピンク・レーベルの GOST68 を復刻した Delta 盤が注目される(DCCA-0023)。いわゆるスクラッチ・ノイズはほぼなし。実にすっきりした音づくりで、会場の微細な物音も良く聴き取れる。高域にサーという音が微かに入り、終楽章などでは高弦がややキンキンするところもある。が、エコーの具合等、音自体は GOST68 のLP盤の音に近い。第1楽章の冒頭も Serenade 盤ほど、盛大に始まらない。実はベートーヴェンの書いたスコアでは曲の始まりは単に「f=フォルテ」、あるいは「fp=フォルテピアノ」だ。序奏部分がやや進んで14小節目でクレッシェンド。17小節目に至り、序奏主題がホ長調で出ることころで初めて「ff=フォルテッシモ」が来る。フルトヴェングラーの演奏でも原レコード盤では基本的にそうなっているので、Serenade 盤等の冒頭部分では、復刻時に音量を上げている可能性もあるだろう(第2楽章の始め等も)。

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 同じピンク・レーベルの GOST68 を復刻したものに MYTHOS 盤がある。特定のショップでしか扱ってないレーベルだと思うが、板起こし専門の代表的なレーベルの一つだ(松竹梅の3種があるが、竹の NR-ZERO 6 Gold で聴いた)。針音もやや多めながら、その分、目の覚めるような鮮烈な音である。迫力も十分なのだが、決して低音は強調されていない。この GOST68 から最大限、音情報を引き出すことに成功した板起こしではある。こちらも若干、音量は大きめだが。

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 さて、この曲には青レーベルもあって、このうちには新世界レコード社が日本語の帯をつけて直輸入販売した盤もある。「33D-027779/80(a)」という番号がついている。ジャケットには上記アプレレフカ盤と同じベートーヴェンの彫像をあしらった白いジャケット・デザインが使われているが、文字の配置が若干違う。また裏ジャケットの解説は英語になっており、演奏者は「ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル」になっていて、上にシールが貼られている。これは結構売れたようで、今でも日本のオークションでも意外に安価で出ることがある。上記ソ連盤とは時期的には同じ頃に出たと思われるが、盤の状態も非常に良く、上記ピンク&イエロー盤より出音のレベルも若干高いので、板起こしの原盤にもよく使われる。

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 「Grand Slam」では、2010年に出したCD盤(GS-2046、2010)では、こちらを復刻している。押し出しの良い音は、いつもの平林流。わずかにブーンという音が入るが、針音は少なく比較的丁寧に仕上がっている。余談だが、このCDは併録された世界初出音源の「レオノーレ序曲第3番」が売りなのだが、「恐ろしく売れ行きが悪い」と平林さんはエッセイでこぼしていた(笑)。さらに、板起こしメーカーとして有名な「OPUS 蔵」からも、この「33D-027779/80(a)」を使ったCDが出ている(OPK 7002)。こちらはこのレーベルの常として、良く言えば低音の効いた、悪く言えばぼーっとした音場になっている(ヘッドフォンで聴くと、ジジジ・・・という雑音が絶えず入っている)。ネットなどでは絶賛する人も多いが、まったく受け付けない人もいる。元LPが出た頃のオーディオ機器ではこのような音がしたのかもしれないが。

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 またクレジットにはないが、ライナーノーツの表紙&パックインレイのデザインから、GREENDOOR 盤も同じ番号の盤を使っていることがわかる(GOWF-2001)。こちらも低音寄りにイコライジングしたようで、音楽のバックにハム音のような暗騒音が入っている。ある意味、緊張感を高めてはいて、この盤だけ聴いている上では、この音が好きという人もいるだろう。ただ「OPUS蔵」とともに、元LPに刻まれた音の状況を正確に写しているとは言えないだろう(注4)。

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 さらに新世界レコード社が輸入販売した全23巻のうちの一枚で、黒ジャケット・黒レーベル盤がある(M10 49727/8)。こちらも多くの板起こし盤を出している「OTAKEN RECORDS」は、音楽評論家の小石忠男氏が所蔵していた「M10用原盤」の「手動プレス盤」からの復刻盤を出している(TKC-322)。こちらは、バックノイズのないデジタル的な軽い音作り。聴きやすいとは言えるものの、上記の板起こし盤を聴き慣れた耳には、「高音寄り」「きれいすぎ」に聴こえるかもしれない。

 さらに青レーベルには、マニアの間で「VSG盤」と言われて珍重されているタイプのものもある。これについては、最初なので別稿で詳しく考えてみたい。

(注1)同じ作曲家の交響曲第6番『田園』の番号は「33D-027777/78」なので、連番になっている。
(注2)GOST73 の白レーベルも家にはある。他に僕は所有していないが、黒レーベル&金文字の GOST68 もあるようだ。

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(注3)ちなみにLP盤のマトリクスは、中白抜き文字のピンク・レーベル盤(GOST68)および青レーベル盤が「3-2/3-1」、黒ベタ文字のピンク・レーベル盤(GOST68)は「3-2/1-2」であった。ちなみにこちらの記事だと、前者の方が「初版」とのこと。マトリクス番号が逆転するというのはある意味不思議だが、GOST73 の黒ベタ文字のイエローレーベルは「1-3/1-2」なので、確かに番号が若返っている。
(注4)この GREENDOOR盤「第7番」のCDには書かれていないが、同じ GREENDOOR レーベルのベルリンの「第九」盤等では、桧山浩介氏によるライナー「大戦中のフルトヴェングラーの演奏とその録音をめぐって」で、「レベル変動の修正」「コンプレッサー処理の結果生じている全体にわたるダイナミックレンジ幅の補正」「ピッチについても配慮が必要」と書かれている。だとすると、レーベルとして復刻時に音を補正している可能性が高い。また当然ながら、レコードの再生においてはイコライジング・カーブの問題は確かにある。これらのレーベルでは、カーブを変えているなら、上記のような音になる可能性もある。ただし、GOST68 盤の時点では、すでに RIAA に近いカーブであったと思うが。 

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