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2022年1月30日 (日)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その5・ベートーヴェン5続き)

 前回の続き。無論、この交響曲第5番の1943年録音にも、GOST61 以降のいわゆるメロディア社になってからの諸盤がある。今回はそれらを順次、紹介する。真生のメロディア盤には、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンク・レーベルと、レニングラードでプレスされたイエロー・レーベルがある。

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 これらのイエロー・レーベル2枚は、いわゆる「Записано ВСГ / GOST61」表記の盤。最近、動画サイトで、某ベストセラー作家の方がこの盤をもらったことを興奮気味に紹介されていた。これを「VSG盤」と呼ぶかどうかについて僕の考えは、この項の(その2)に書いたが、これは見てのとおり正真正銘の「アプレレフカ盤」。上の「Записано ВСГ」という表記は、単に「VSG原盤」あるいは「VSG工場での製盤」というだと思う。ちなみにこれらの盤を、ロシアのショップ等で「VSG盤」などとして高く売っているようなことはない。上の盤は、まったくの無傷・ミント盤ながら24ユーロだった。

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 上の写真の盤はともに GOST68 だが、盤質もかなり良く、(その1)で紹介した「プレ・メロディア盤」や GOST61 盤と比べても特に劣化した感じはしない。ちなみにこの2盤は、マトリックスはA面・B面ともに1-1で、以前のままだ。

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 まず最初に取り上げる板起こし盤は、GREENDOOR 盤(GDCL-0017)で、CD自体には元LPの情報は記載されていないが、発売元HPの記載やCD帯には、「本CDは、メロディア盤の中でも音質の一番良い68年プレス盤より復刻を行った。」旨の記載がある(ジャケットのデザインから判断するに、レニングラード盤だろう)。かなり音量レベルが高い復刻で、低音もブーストされている。聴き応えはあるが、メロディア盤の音としてはどうか。(その1)の注にも書いたが、同じ GREENDOOR レーベルのベルリンの「第九」盤等でも、桧山浩介氏によるライナーノーツ「大戦中のフルトヴェングラーの演奏とその録音をめぐって」で、「レベル変動の修正」「コンプレッサー処理の結果生じている全体にわたるダイナミックレンジ幅の補正」「ピッチについても配慮が必要」と書かれている。確かに、古いLP自体が演奏のダイナミクス等を忠実に記録していることはあり得ない。レベルを上げ下げしたり、コンプレッサーをかけたりすることは、ダイナミックレンジが狭いLPでは必ず必要な作業だ。ただしどれだけ処理を加えたかまでは、今となってはどこにも記録されていないはず。「40年代の録音時にエンジニアの行った不自然なレベルの上げ下げを可能な限り修正し、聴きにくかった演奏をもとに戻したテイク(GDCL-0017の帯解説)」と言いながらも、結局は復刻担当エンジニアの胸先三寸で、レベル調整やトーン・コントロール等のスライダーを上げ下げしているとも言える。「自分はフルトヴェングラーの演奏を隅から隅まで知り尽くしている」というような思い込みが強くないと、そういうことはなかなかできないはずだが・・・。むしろ、この GREENDOOR 盤は、冒頭から大音量で始まる。まさにコンプレッサー処理をかけ直したというような音作りだ。

 また平林直哉氏のCD-Rレーベル「Serenade」にも、ピンク・レーベルの復刻とされている盤があった(SEDR-2011)。こちらも、「いかにも」という派手な音が入っている。ただし、GREENDOOR 盤よりは高音寄りの音。GOST 番号の記載はないので、どの時代の盤を原盤に使ったのかは不明だ。だが、ネット上の先達の皆さんによる調査は、非常に素晴らしい。それによれば、この第5番のメロディア盤は、GOST68 の途中でレコード番号が「33HD-05800/1」と新しくなっていて、それを判定できる箇所があるという。

「メロディアの初期の盤以外のLPとCDでは,エコーを加えているほか,第1楽章の443~4小節を編集で別の演奏と入れ替えており,急に音調が変わるので違和感がある。」(加藤幸宏氏のHPサイト「Classical CD Information & Reviews」)(注1)
「ただ最後期の黒レーベル盤は、マトリクス番号も33ND05800 1-3、33ND05801/1-4と変わり、音質が相当劣化したばかりでなく、第1楽章第442-443小節に突然別の演奏が混じり込むなど、大変ひどいことになってしまいました。」(Facebookページ「ウィルヘルム・フルトヴェングラー研究」2021年8月14日における末廣輝男氏の発言

 この情報をもとに Serenade 盤を聴いてみたが、確かにエコー成分はこれまでの盤より多め。また第1楽章の上記の個所に来ると、2小節分だけ急に重々しい音質に変わっているのがわかる(タイム表記だとおよそ7分15秒前後)。が、これを「別の演奏」の差し込みとするかどうかは、異論もあるようだ。

「会議室におけるWF氏清水氏などの書き込みによれば、メロディア盤には「ガスト73」規格以降のLP/CDは1楽章7'07"付近に音の間延び現象があり、コーダに向かっての盛り上がりに「ズッコケて」感興を殺がれる-という。NHKFMで放送された87年返還テープでも「ズッコケ」は確認できる。01年末に日本に輸入されたギリシャdacapo盤と89年DG盤CDはこのテープを使っていることからこの「ズッコケ」が確認できるが、87年返還テープを使ったCD/LPと73年規格以降のメロディア板おこしCD/LP以外は正常。」(shin-p 氏のHPサイト「フルトヴェングラー資料室 WF Archives1942-5」

 こちらでは単に「間延び現象」としていて、別意見。僕も「別の演奏と入れ替えた」という確信は、正直持てなかった。ちなみにこの shin-p 氏の発言にあるように、ソ連から返還されたコピー・テープを元にしたドイツ・グラモフォンのCD等も、上記音の突然変化が認められる。さて話を戻すと、上記の Serenade 盤からは、そうした新盤と同じ特徴を聴き取ることができる。なので、おそらく GOST73 盤(33HD-05800/1)のうちピンク・レーベル盤を復刻に使っていると想像されるわけである。参考までに、僕の所有する GOST73 のピンク・レーベル盤を挙げておく(マトリックスは両面とも「2-1」)。

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 DREAMLIFE からは、同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7006)も出ている。パックインレイに記されたレコード番号は「D05800〜1」となっているが、やはり第442〜443小節は音質が変わっているバージョン(やや補正をかけているようだが)。つまり、上記 Serenade 盤と同じ「33HD-05800/1」からの復刻という可能性が高い。こちらも平林盤の常で音圧レベルがかなり高い。迫力を求める人には良いかもしれないが、第2楽章の始めなど静かな箇所では、音楽のバックに他の盤では聴こえていない低い持続音が聴こえている。

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 ちなみに同じ GOST73 には、ホワイト・レーベルもある。こちらも番号は「HD-05800/1」(上の写真の盤のマトリックスは「A面2-1・B面4-3」)。このホワイト・レーベル盤について、「手持ちのLP,CDの中ではこれが音質ベストだ。高音は少し荒々しい音だが一皮むけたような音だ。」と評価する方もいるが、基本的には上記「HD」番号の音である。

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 また1990年頃に出たいわゆる黒ジャケット・黒レーベル盤にも、もちろんこの演奏はある。ただこれらの新しい盤には、上に報告されているような瑕疵はあるものの、当然ながら針音等は圧倒的に少ない。LPの雑音が苦手な人には良いかもしれない。

 以上、真正メロディアLP盤の板起こしCD盤を見てきたが、個人的には(その4)で紹介した「プリ・メロディア盤」の復刻盤を聴く方が本来のメロディア盤の良さを味わえるように思う。とはいえ、真正メロディアLP盤の GOST68 あたりは、価格も海外からの購入なら千円台からかなりの数が出ている。マトリックス1-1のものが手に入ったなら、気軽にメロディア盤の音を楽しむにはうってつけの盤になるのではないだろうか。

(注1)このサイトには、当該箇所を「第1楽章の443~4小節」とするが、楽譜で確認した限りでは、やはり442〜443小節のようだ。ただこの方のサイトの当該演奏のCD評では、40枚以上の盤でこの箇所の異同を挙げていて大変参考にさせていただいた。感謝したい。 

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