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2022年1月29日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その4・ベートーヴェン5のプリ・メロディア盤)

 今回取り上げるのは、ベートーヴェンの交響曲第5番。フルトヴェングラーのベートーヴェン演奏の中でも本命中の本命である。1947年5月の戦後復帰演奏会における同曲の演奏は、そのドキュメント性もさることながら、演奏の劇的拍力の面でもまさに究極の記録である。この「メロディア盤」に聴ける演奏は、その3年前、1943年6月の放送録音でまさに戦時中。そこに聴くことのできる緊張感あふれる響きは、前者に勝るとも劣らないものがある。特に後半2楽章の溌剌としたリズム感覚は、後年のフルトヴェングラーからは失われたものだ。

 元LP、復刻CDともに、かなりの数が出ている。レコード番号は「D-05800/1」。メロディア社が誕生する前から出されていた、いわゆる「プリ・メロディア盤」が初出と言われている。このうちで、板起こしによく使われるモスクワ製の盤に「灯台盤」がある。GOST番号は、当然「56」と古い。こちらはかなり珍しく、高価。残念ながらこのLPは僕は未所有なのだが、VENEZIA 盤(V-1021)および Delta 盤(DCCA-0006)に使用されているので、間接的ながらその音を聴くことができる。

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 前者は非常にバランスが良い復刻で、決して派手ではないが楽器の音が良く聴こえ、力強さにも欠けていない。もちろん元LPの力かもしれないが、この音源のベストの一つと言える板起こし盤だと思う。一方、後者はこのレーベルの常でやや高音寄りの音作り。力任せではないところは良いし、高弦の伸びもきれいだ。

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 あと会員制のショップだが、アリアCDのオリジナル板起こし「アリア・レーベル」にも、「灯台盤」の復刻があった(AR 0011)。入っている音自体はさすが「灯台盤」だが、バックの雑音はやや多い。また「ラストのラストではLP特有の音割れが起きる。」と店主の方が書いている。「しかしここをきれいにしすぎると、せっかくの勢いが全て殺がれてしまう。「音質」を取るか「勢い」を取るか、そのギリギリのところで落着させた。/というか全編「音割れ」と「勢い」の戦い。これほどまでに厳しく辛い作業になるとは。」とのことだが、先の2盤では音割れしていない箇所でも、音が割れている箇所がある。おそらく使用した盤の問題だろう。ほかにも「MYTHOS」レーベルには、以前から「灯台盤」から復刻したCD-R盤が何種類か出ていた(注1)。

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 同じモスクワ製の盤の中に、水色のレーベルに「聖火」のマークをつけた「(大)トーチ盤」がある。これはかなり数が出たものと思われ、中古レコード店やオークションでも比較的良く見かける。ミント盤にこだわらなければの話だが、価格も1万円前後から買えるようだ。「OPUS蔵」盤(OPK 7001)は、これを復刻している。元LPに比べると、いつものようにやや低音が強調されているが、音色はよく再現されている。これはこのレーベルの復刻としては、成功しているのではないか。

 この「(大)トーチ盤」の次によく見かけるのは、イエロー・レーベルに両手にラッパを持ち吹いている人型のマークがついた通称「アコード盤」ではないか。こちらは、レニングラード製。上記「トーチ盤」より、やや価格は高めか。

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 音楽評論家の浅岡弘和氏は「残念ながらモスクワプレスに比べ音質はだいぶ落ちる」とあちらこちらに書いているが、同じく多数のメロディア盤を収集されているこちらのブログ主の方は以下のように言っている。「LPでアコードと聖火を聞き比べたとき、アコードの明るくて分離の良い音を支持する人は多いのではないだろうか。」。基本的には、盤質の違い、それを聴く側の好みの違いとしか言えないだろう。が、僕の視聴環境でも鏡のようにきれいな製盤のアコード盤を聴くと、どの板起こしCDよりも雑音が少ないように感じる。ただし残念ながら、このアコード盤の復刻盤はまだ見たことがない。

 また同じレニングラード製の盤に、「33」という数字がレーベルに書かれた盤がある。

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 これはかなり珍しい盤だ。なぜ僕がそれを持っているかと言えば、この写真のLPはA面に1箇所だけ傷があり音飛びするから、安かっただけである(それでも1万円近くした)。実際に聴いてみると、非常に迫力のある音で鳴る。ちなみにこの業界では?、この盤を「大33盤」と呼び、別にレーベル面が黄色いバージョンもあった。さらに小さめの白抜きの書体で「33」と書かれた「小33盤」というものもあるらしい。

 ほかに珍しい盤として、「リガ盤」がある。リガは、現ラトビア共和国の首都。バルト海に面しているせいか、ブルーの波とカモメが描かれたレーベルが美しい。僕は所有していないが、早い時期から WING が板起こし盤を出していた(WCD-203)。このCDの表紙で代用させていただこう。

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 復刻盤で聴く範囲では、一聴して「トーチ盤」「アコード盤」と比べて「やや鈍いかな」と感じるが、あえて手を加えず派手さを押さえたと思える。

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 さて、ここで「VSG盤」について触れて置く必要があるだろう。(その2)の注にも書いたが、「MYTHOS」の板起こしCD盤(MPCD9019、別にCD-R盤も出ている)のメーカー・インフォによれば「あるはずのないVSGレーベル」として宣伝されている。以下はその全文。

「旧ソヴィエト時代の謎に包まれた音源リストにあって、その最高峰とされているVSGレーベル。そして、この5番の音源には青松明や灯台レーベルしか存在しないと信じられていたいままでの常識がついに打ち崩されます。ミソスのライブラリーにはあるはずのないVSGレーベルが存在していたのです。
 旧ソヴィエトの放送関係者から入手したというこの盤は、もちろん世界で初めてここに復刻されるのです。いままで最高と言われていた青松明や灯台レーベルの音をさらにクリアーにして、奥行きと凄みを増した音楽が間違いなくここに刻まれています。いままで極々限られた一部の人間しか聴くことのかなわなかった幻の音源が、ついに光を当てられることとなった音楽史に刻まれるべき1枚なのです。(ミソス) 」

 この盤のCDケースに入っている紙表紙には、このレーベルの通例に従って、復刻に使用したLPのレーベルが記載されているが、これが若干怪しい(注3)。というのも、曲目や演奏者が書かれている場所には、非常に簡単に「L. ベートーヴェン/第5番 交響曲/V. フルトヴェングラー」 としか書かれていない。通常なら楽章表記や表情記号が書かれているはずで、上のような簡素なデザインは珍しいからだ。ただし、清水宏氏編の有名な『フルトヴェングラー完全ディスコグラフィー(2008年改訂版)』の「Label and Jacket Gallery」にも同じ「VSG盤」のレーベル写真が載っていて、こちらも同じような簡素な表記だ(ただしこちらはA面の写真で、表記の一番下に「コンサート会場での録音」というような文字の記載がある)。音的にも大きめの音量で、これまで聴いた中では一番きらびやかな音がする。音質的には、やはり「プリ・メロディア盤」からの復刻であることは間違いないと思うが。

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 これまで聴いてきた盤は、概ね GOST56 時代、1950年代末から60年までの間に出たものと推測されているが、メロディア社の設立は1964年と言われているので、それまで、GOST61 時代に入っても1963年頃までは「プリ・メロディア盤」が出ていたことになる。そのうちの一つがこれ。上に写真を載せた「青トーチ」と比べると聖火のマークがやや小さくなっている。いわゆる「ピンク小トーチ盤」と言われるタイプで、おそらくこの時期にのみ出されたものだろう。音的にも、上の諸盤と比べてまったく遜色がない。

 以上、「プリ・メロディア盤」でフルトヴェングラー、1943年の第5番を聴いてきた。全体として音楽的で、時に美しく明るい楽音が特徴。逆に力感は、「フルトヴェングラーの戦時録音」というイメージほどではない印象だ(注2)。テープ音源を復刻した廉価CD等では迫力重視で荒れた音場のものも多く、それがかえって緊迫感を増していた。が、戦時中といえども、当時の会場では歪みの少ないハイファイの楽音が流れていたはず。その意味では、「プリ・メロディア盤」を聴き直すことが、演奏自体の印象の見直しにつながる可能性もあるではないだろうか。

(注1)10年ほど前に MYTHOS が D5800/5801(青灯台レーベル)を使って、「仕様:200グラム重量盤、オリジナルジャケット仕様、オリジナルレーベル仕様。」という板起こしCDならぬ板起こしLPを出したことがあった(MPLP004)。これは正直、期待以上の高音質で、特にバックグラウンドのノイズは、他の復刻CDより少ないくらいであった。参考までに。

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(注2)今回、紹介した所有盤のマトリックスは、いずれもA面1-1、B面1-1であった。ただし、この項の(その1)の注にも書いたように、レコードの再生においてはイコライジング・カーブの問題がある。時期的に見ても「プリ・メロディア盤」が RIAA カーブ以外を採用していた可能性もある。ただこれについても定説はないようなので、僕の感想もとりあえずの考察にならざるを得ない事情はある。
(注3)上の(注1)で触れたベートーヴェン交響曲第5番の MYTHOS の 復刻LPだが、その同じシリーズに交響曲第7番の復刻LPが出ていた(MPLP-006)。これはこの項の(その1)でも紹介した「MELODIYA ダブルレター 33D-027779/80」を元に復刻したものだが、なぜかそのレーベル面は上にも写真を載せた「プリメロディア スモールピンク松明」仕様というものだった。こちらにも書いたように「第7番」のプリ・メロディア盤は存在しないので、これは公然の「レーベル創作」だった。

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