« 板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その1・ベートーヴェン7) | トップページ | 板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その3・ベートーヴェン6) »

2022年1月23日 (日)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その2・ベートーヴェン7のVSG盤)

 この「第7番」のレコードの青レーベルには、マニアの間で「VSG盤」と言われ、特に珍重されているタイプのものもある。この「VSG盤」については、日本では「全ソ連芸術家養成所で出した一種の教育用レコード〜(共産党員専用盤?)」(浅岡弘和氏『二十世紀の巨匠たち』芸術現代社、注1)、または「共産党幹部向けの特別仕様」(ブログ「西方見聞録」、注2)とか言われている。特にメロディア盤を多数集められているこれらの方が、「音も良い」「初版」のように喧伝されていることが、高い評価につながっているのだろう。

 ところで「ВСГ(VSG)」は「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」が正式表記。直訳の意味は「ALL-UNION RECORDING STUDIO」である。その実は、ロシア盤の製作スタジオ・プレス工場の名前である。一般にメロディア・レーベルが誕生する1964年以前のレコードおよびレーベルを、のちにメロディア・レーベルで再販されるものと区別して「古メロディア」「プリ・メロディア」とも呼ぶ。「リガ」「AKKORD」「33」「灯台」「トーチ(聖火)」などが有名だが、その一つに上記「VSG」もあった(注3)。

Img_3924

Img_3923

20220123-115932

 Discogs の説明では、こうある。

>>「Vsesoyuznaja Studija Gramzapisi」(「All-Unionレコーディングスタジオ」と訳されます)は、1957年11月5日にソ連のモスクワで設立され、レーベルとしてスタートしましたが、レコーディングスタジオであり、時にはレコードプレス工場でもありました。 Мелодия以前の植物のロゴには「ВСГ」(「VSG」)と書かれており、フルタイトルとともにリリースで使用されています。
1964年7月、「VSG」は「All-Union Melodiyaレコード会社」ВФГ「Мелодия」に参加し、メインのレコーディングスタジオになりました。 

 つまり、メロディアに統合される前の「VSG」は、一つの独立したメーカーということになる(少なくとも「全ソ連芸術家養成所」などとは訳せない)。上記レーベルの盤は、その意味で確かに初期盤としての価値は高いかもしれない。また、これらの盤には「GOST」番号もないことは、やはりかなり初期の盤だと思わせるものがある。

 一方、メロディア統合後の「VSG」表記は、単なる「製作スタジオ」あるいは「プレス工場の名前」としか言えないのではないだろうか? 実際、GOST61以降のメロディア盤のレーベル上における「Всесоюзная Студия Грамзаписи」という表記は、「Апрелевский Завод Грампластинок(モスクワ・アプレレフカ工場)」や「Ленинградский Завод Грампластинок(レニングラード工場)」の表記と同じ場所、横罫線の上に書かれている。ジャケット裏でも、通例、プレス工場名が入る左下欄外に、この表記が入っている。例えば、このように。

20220124-200354

20220122-201752

 青レーベルを多く見かけるが、稀にピンク・レーベルもある。「特別盤」というには結構数も出ていて、フルトヴェングラー以外にも、オークション等で普通に見かけるほどだ(注4)。さて、仮に「VSG」が工場名だったとしよう。その場合、プリ・メロディアのリガ盤やモスクワのトーチ盤、さらにメロディアのレニングラード盤にも「VSG」の文字が見られるものがあるのはなぜか?という疑問が残る(下記の画像は、Web上から拝借させていただいた)。

Rigas1

Torch2

Torchi1

Vsg1

 ただこの場合は必ず「VSG」を意味する「ВСГ」「Всесоюзная Студия Грамзаписи」の文字の前に、「Записано」とか「Записано B o」と書かれている。これは「記録」「録音」という意味の語で、おそらくだが「VSG原盤」あるいは「VSG工場での製盤」というような注記ではないかと想像されるのである。

 まとめると、日本のマニア間で「VSG盤」と呼ばれているもののうちには、少なくとも

1)メロディア社が設立される前に存在した「VSG」レーベル盤
2)メロディア社が設立される前に、レーベルに「Записано ВСГ」と記されたリガやモスクワ、レニングラード盤
3)メロディア社に統合された後に、「VSG」工場で製作された真正メロディア盤
4)メロディア社に統合された後に、レーベルに「Записано ВСГ」と記されたレニングラード工場で製作された真正メロディア盤

の4種があるということだ。この時代も製作場所も違う各盤を、一様に「VSG盤」と呼んで何か特別な盤であるとするのは、やはり無理があるのではないだろうか。

 さて肝心の「第7番」だが、上記ブログで「VSG盤」と言われていた盤と同じものが、こちら。

Img_3865

 こちらは3)の青盤。また「VSG盤」については、「厚紙アルバムに封入されたデラックス仕様のセット」とする意見もあるようだが、この第7番(や第6番)は単に薄い白地の簡素なジャケットに入っている(注5)。また「MADE IN USSR」と英語で!記載があることから、基本は輸出用と考えられる。少なくともこの点でも、共産党員専用などとは言えないだろう。音質的にも、(その1)で取り上げた青レーベルと同程度だと思う。

 以上、「VSG盤」について書いてきたが、フルトヴェングラー盤のうち、いわゆるプリ・メロディア盤としての「VSG盤」は、初期盤として貴重だろう。またロシア語の Wikipedia 等を見ると、「VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI」は統合後もメロディアの中心的スタジオ・工場であったことは間違いないようだ。例えば、そこに優先的に良い機材が配備されていたようなこともあっただろう。なので、「VSG」表記が付いた盤が比較的音が良いというようなことも、もしかすると、あり得る話かもしれない。メロディアは謎多いレーベルであり、僕が上に書いたようなことが絶対に正しいなどとは思っていないが、「VSGだから特権的な盤」と大騒ぎすることについては若干留保が必要ではないだろうか。ぜひ皆さんのご意見を求む。

(注1)『二十世紀の巨匠たち』芸術現代社・刊
(注2)occidental 氏のブログ>>「Gost-68で初登場したフルトヴェングラーの2つの音源」
(注3)フルトヴェングラーのプリ・メロディアにおける「VSG盤」は、僕の知る限りベートーヴェンの「第九」、シューベルトの「グレイト」、ブラームスの交響曲第4番がある。さらにベートーヴェンの交響曲第5番について、「MYTHOSのライブラリーにはあるはずのないVSGレーベルが存在していた」とされる。>>(その4)参照
(注4)
フルトヴェングラーの盤など一部以外は、VSG盤といえどもかなり価格は落ちる。
(注5)上記(注2)のブログの主宰者の方も、同じタイプの盤を3枚所有されているらしいが、いずれも白地の BSG 共通ジャケットだったらしい。ちなみにフルトヴェングラー以外にも「Всесоюзная Студия Грамзаписи」という文字が小さく入った白字の共通ジャケットは普通に存在する。

|

« 板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その1・ベートーヴェン7) | トップページ | 板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その3・ベートーヴェン6) »

今、聴いているCD」カテゴリの記事

LP談義」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その1・ベートーヴェン7) | トップページ | 板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その3・ベートーヴェン6) »