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2022年2月12日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その7・ベートーヴェン9のプリ・メロディア盤)

 フルトヴェングラーと言えば、「第九」。「第九」と言えば、フルトヴェングラー。という具合で、この巨匠の数ある同曲演奏はある意味、神格化されている。戦後の雄大なスケールを誇る諸演奏と比べ、こちらの戦時演奏(1942年3月録音)は、迫力と緊迫感に満ちたドキュメントとして、極めて聞き応えがある。ただし、この「ベルリンの第九」のような演奏を好んで何度もくりかえし聴くというようなことは、あまり相応しい行為とは言えないのかもしれないが・・・

 この項では、フルトヴェングラーといえども海外のサイトで買えるメロディア盤は、それほど高価ではないようなことを書いていたが、さすがに「第九」は別格。「プレ・メロディア盤」ともなると、大概10万円コースとなる。申し訳ないが今回は紹介できるLPを僕も持っていなくて、「そういう曲こそ板起こし盤の出番!」、と悔し紛れに言ってみるほかない。レコード番号は、「33D-10851/4」で、2枚組。最後の4面めには、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」(1943年12月録音)が入っている。さて、この曲にもメロディア社に統一される前の「ВСГ(VSG)」が出した「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」、いわゆる「VSG盤」がある。非常に希少な盤だが、VENEZIA、Delta、MYTHOS、そして Grand Slum といった有力メーカーがそろって復刻盤を出している。

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 このうち VENEZIA 盤(V-1019)は、「復刻には、音楽評論家の浅岡弘和氏の所蔵する盤が用いられ、音量調節やフィルター等のマスタリングは一切行わず、オリジナル性と鮮度を保った復刻となっている。」とのこと。その言葉を丸ごと信じたくなるほど、自然な音だ。針音は多いが、盤に刻まれた音がいかにすばらしいかを想像させてくれる。一方、Delta盤(DCCA-0004/5)も評判の高い復刻で、バックグラウンドにわずかに(針音とは別の)サーというノイズが入るものの、音の解像度は非常に高い。

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 一方、MYTHOS 盤(NR-ZERO1&2 Gold)は、音量レベルが高く、臨場感・迫力は一番高い。針音、バックの暗騒音は極めて大きいし、最強音では歪みも出るが、まさにその場に立ち会っているような感覚が味わえる。こうした華のある復刻が好きな人もいるだろう。

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 また、Grand Slam 盤は、製作者の平林直哉氏が「ラ・ヴォーチェ京都の永井さんからお借りした。」という盤を使っている(GS-2090、2012年)。復刻時にはかなり苦労されたことが、平林氏の著書『フルトヴェングラーを追って』(青弓社・刊)に書かれている。特に「問題は第四楽章である。外周はほぼ問題ないが、内周にいくにしたがってレベルは少しずつ下がってくるし、音像は甘くなり、ダイナミック・レンジも狭くなってくる。」という。またCDのライナーノーツでは、メロディア盤LPのイコライジングについて次のように述べている(注1)。

「 メロディアの初期LPがどの周波数特性を使用していたか、これに関する情報は全くない。このディスクに使用したVSGレーベル盤は1950年代終わりから1960年代初頭のプレスと思われるが(メロディアのフルトヴェングラー・シリーズは1959年が最初と言われる)、再生してみると、RIAAでもそれほど違和感はない。しかし、乏しい情報を整理し、実際に試してみたところ、オールド・コロンビアが最も近いと思われた。従って、このディスクではオールド・コロンビアを基準にリマスタリングしている。」

 ここで言われている「オールド・コロンビア」を「Columbia LP(Old-LP)」カーブとするならば、そのカーブは RIAA より低域の補正、高域の補正とも浅い(特に低域)のはず。つまり再生にあたっては、低域を多めに下げ高域もやや下げるという方向性になる。個人的には、それではより軽いすっきりした響きになると思うが、この Grand Slam 盤は先に挙げた3盤より心持ち低域寄りに聴こえる。逆に言えば、この Grand Slam シリーズの中では、比較的落ち着いた音調で好感が持てるが(注2)。

 アコード(レニングラード)盤にも GOST56 はあるが、例によって復刻盤はない。またリガ盤は GOST61 だけで、GOST56 はないと言われている。他の曲でよく復刻に使われる GOST56 の「(青)トーチ盤」は、この「第九」では OPUS 蔵盤があるのみである(OPK 7003)。ただしこの OPUS 蔵盤の復刻に使われた第4楽章、つまり2枚め以降は、GOST61 のラベルになっているという(注3)。かなりこもった音で復刻されており、低弦はボンついている。前回にも書いたが、おそらくイコライジング・カーブが他の盤とは違うのだろう。僕もメロディア盤のイコライジングの方向性としては、上記のコロンビア・カーブとは逆、つまり低音域をやや持ち上げる補正を考える人もいても不思議ではないが、この「OPK 7003」盤はいかにもやり過ぎのように思える。ちなみにこちらも、復刻したLP自体は、坊田信吾氏の提供とクレジットがある。このあたり希少かつ高価な盤だけに、メーカー側も盤の調達をコレクターに頼っているのがわかって、なんだかちょっとホッとした気分だ(笑)。

 最後に、一点だけ。このメロディア音源には、第2楽章の初め、1分52、53秒あたりに音飛びがある。今回聞いた中では、Delta 盤、OPUS 蔵は修正し、それ以外の盤では修正していない。

(注1)ちなみに、平林氏はのちに38センチのオープンリール・テープで同じ「ベルリンの第九」を復刻している(GS-2146、2016)。「当シリーズでは同一演奏をメロディアLP(VSGレーベル)から復刻したCD(GS 2090廃盤)を一度発売しています。LP復刻も独特の味わいがあり、どちらが良いかは簡単には言えないのですが、LPはカッティングの際にマスターの音をある程度加工しているので、このテープ復刻の方がより原音に近いと言えます。」との認識だった。
(注2)「プリ・メロディア」LP盤のイコライジング・カーブの関係だが、アメリカのレコード協会が RIAA カーブを正式に採用したのが1954年と言われている。すぐには各社に広まらなったという説もあり、ましてや冷戦時代のソ連がそんなに素直にこれに従ったとも思えない。では、RIAA カーブではなかったかと言えば、この項でも見てきたように GOST61 や GOST68 以降の真正メロディア盤にも「プリ・メロディア盤」と同じマトリックスを持つ盤が結構ある(ベートーヴェンの第5番、ブラームスの第4番、そして次回に紹介する「第九」の真正メロディア盤しかり)。マトリックスが同じで、イコライジングが違うなどということは、一般的には考えられない。これは僕には大いなる疑問だが、いずれ項を改めて考えてみたいと思う。
(注3)多くのプリ・メロディア盤、メロディア盤を所有されているこちらの方のブログにも、GOST56 と GOST61 とが混在する盤の存在について記述がある。また、OPUS 蔵盤のラーナーノーツによれば、使用盤のマトリックスは「A面2-1・B面2-1・C面2-3・D面2-2」とのこと。第3面までは、おそらく他の「プレ・メロディア盤」も同じ。また、第4面のマトリックスには「2-1」となっている初期盤もあるらしいが、この面は全編、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」が入っている。

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