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2022年2月 3日 (木)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その6・ブラームス4)

 最初にフルトヴェングラーのこのブラームス第4番の戦中ライヴ盤を聴いたときは、驚いた。第1楽章の提示部の途中で、どんどんとアッチェレランドしていく場面は、この巨匠でもこの時期にしか見せなかったまさに大胆な解釈だ。演奏自体も放送録音だったベートーヴェンの第5番あたりとは違い、フルトヴェングラーは思いの丈を曲にぶつけている。その意味では、板起こし盤の評価も少し変わってくるのかもしれない。ただ元々の録音の状態が、これまで聴いてきた曲と比べ少しだけ落ちる。主な点だけ挙げると、まず全体に「ブーン」という低い音が被っている。そのほか、B面の第3・4楽章は最初から終わりまですっと「パラパラパラ・・・」という遠くの空を飛んでいるヘリコプター音のようなパルス雑音が入っている(注1)。この2点はメロディアの初期LPを含む下記のすべての盤で聴くことができるので、マスターテープに由来するものだろう。この点は、あらかじめ断っておく。

 さて、この曲にもいわゆる「プリ・メロディア盤」がある。番号は「D-09867/8」。僕が実際に聴いたのは、レニングラード製の黄色いアコード盤で、盤質はそこそこ(細かな傷は多い)。ベートーヴェンの第5番等と比べても当時からあまり数は出なかったとみえて、オークション等でも余り廉価なものは見かけない(2万円以下では手に入らないだろう)。この盤の場合、レーベル面にハンコや落書きもあったので、そこまではしなかったが。

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 第5番でも触れたが、この時期のアコード盤は「プリ・メロディア盤」の中では盤質が良いものが多い印象だ。曲の印象的な始まりの部分で、弦の上がり下がりにも微妙な抑揚が感じられ、今まさにそこで演奏されているかのような臨場感が味わえる(これに比べると、多くの復刻版はのっぺりとした印象になっている)。先に述べたように、この曲では演奏の勢い・迫力も大事で、その点でもすばらしい。ただアコード盤を使った板起こし盤はまったくないのが実情で、少し残念だ。

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 最も初期の盤のひとつと思われるものとして、この曲には「VSG 盤」がある。メロディア社に統一される前の「ВСГ(VSG)」が出した「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」というレーベル表記を持つ希少盤だが、当然ながら僕は未収集。というか、メロディア盤収集歴の浅い僕などは、まだ一度も売られている現物に出会っていない。ただし、この音は VENEZIA 盤で聴くことができる。VENEZIA レーベルは板起こしとしてはパイオニアの部類だが、あまりデジタル的に音源自体をいじってないのか、素直な好復刻が多い。このブラームスの場合も、針音は割と多い方だが、曲冒頭の暗騒音の部分からメロディア盤の生々しい臨場感を一番よく伝えていると思えるのは、この盤である(V-1023)。邪道かも知れないけれど、僕はこのCDをリビングの 7.1ch システムで聴くのが、結構好きだ。

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 さらに板起こしで人気が高いのは、「トーチ盤」だろう。私自身は所有していないが、こちらにも複数の復刻盤があるので有り難い。このうち MYTHOS 盤は「青トーチ盤」を使用。僕が聴いたのはゴールド盤仕様のCD-R(NR-5016 Gold)で、これは情報量こそ多いものの、使用盤の関係か、第1楽章等の強音部で弦の音色がややザラザラと荒れていて残念だ。ただし、後半は持ち直しているし、演奏自体の荒々しい感じは良く出ている。OPUS蔵盤も「青トーチ盤」の復刻(OPK 7012)という。例によってややこもった音質になっていて、低音部はボーボーと鳴っている。僕はこの一連の項を書くにあたって、音質判定が盤のレーベル名に左右されないように、往年のパイオニア製の6連CDプレーヤーを復活させて、ランダムプレイをかけて追加確認している。OPUS蔵盤はこの簡易ブラインドテストでも、いつも一発で判定できる。無論、派手派手しいテープ音源盤等よりずっとマシだが、想像するに元LPはもっと澄んだ音のはずである。このレーベルはほとんど同じような音作りなので、プリ・メロディア盤を復刻する時に使用するイコライザー・カーブが、他レーベルとは違うのだろう。一度、設定データを聞いてみたい。

 一方、Delta 盤は「紫色大聖火(トーチ)盤」を使用している(DCCA-6008)。いつもながら針音の少ないすっきり系の音で、聴きやすくはある。が、静かな部分でかすかにサーという音が聴こえているし、全体に音楽がやや平板化されている感じがする。さらに、平林直哉氏の手になる Serenade レーベルにも、「たいまつレーベル」(青トーチ盤)からの復刻がある(SEDR-2003)。これは針音は少し残るが、平林レーベルの初期ものだけに、盤の音情報をそのまま伝えるなかなか筋の良い復刻だと思う。上記 VENEZIA 盤に迫っている。例によって DREAMLIFE からは、同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7008)も出ている。パックインレイに記されたレコード番号は「D09867〜8」となっているが、使用盤は非公開。下記で紹介する同じ平林氏のレーベル Grand Slam 盤では、より後期の真正メロディア盤を使っているが、盤表面の針音の感じだと、このSACDはプリ・メロディア系の盤から音を取った可能性が高いように思うが、どうだろう。いずれにせよ Serenade 盤よりやや整音されているが、このシリーズでは成功した方だと思う。

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 GOST61 以降の真正メロディア盤は、例によって各時代で何種類も出ている。このうちイエロー・レーベル GOST61 のレニングラード盤は、「プリ・メロディア盤」と比べほとんど遜色のない盤だと思う(2枚あるうち、下のものは若干パチパチノイズが多い)。とはいえ、海外のショップでは3千円もしなかった。いわゆる「Записано ВСГ / GOST61」表記も付いているが、これはあくまでレニングラード製であって、VSG製ということはありえない。にもかかわらず、これを「プリ・メロディア盤」のVSG盤と同じ種類だとしたり、共産党幹部用の特別仕様盤などと言っているのは、日本の一部の人だけではないかと思うが、どうだろう。

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 こちらはピンク・レーベルの GOST68 と、同 GOST73 の2枚である。ピンク・レーベルの復刻には、平林氏のレーベル Grand Slam 盤(CD)がある。盤の選択について平林氏は

「フルトヴェングラー/ベルリン・フィルの戦時中のライヴ録音の中でも、最も濃厚、強烈と言われる演奏を1枚に収めました。2002年、同内容の CDR(Serenade SEDR-2003)を発売しましたが、今回のGS-2107ではその原盤を流用せず、全く新規に作り直したものです。CDRはたまたま集まったLPから復刻しましたが、今回のマスタリングでは複数のLPを比較試聴し、最上の結果が得られたものを選びました。」

と書いている。実際に、上記「VSG盤」、そして SEDR-2003 の復刻でも使った「青トーチ盤」、さらにフランス協会盤と聴き比べた結果、あえてこのピンク・レーベル盤、しかも GOST73 を選んだという。確かに盤の状態が良いことも幸いしてか、解像度・SN比は高い。相変わらず録音レベルが高いのは玉に瑕だが、ベルリン・フィルの高弦の美しい伸びが良く出ている(僕の GOST73 盤のマトリックスも、「プレ・メロディア盤」から共通の「1-1/1-1」だ)。

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 ほかにホワイト・レーベル(GOST80)も手元にあるが、驚くべきことにこちらもマトリックスは「1-1/1-1」。原理的には初期盤と同じ音が入っていてもおかしくない。実際に聴いた感じも、明確な音の劣化というものは感じられない。

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 さらに日本にも輸入された黒レーベルの方も手に入れやすいが、こちらのマトリックスは、A面3-2、B面1-2と番号が上がっている。A面を聴くと、確かにやや鮮明さがなくなっている感じはある。その意味では、上記メロディア盤の GOST68・73・80は、海外では千円台でも普通に買えると思うので、お買い得と言えるだろう。

(注1)このパラパラ音は、元のLPでは第3楽章と第4楽章の曲間にも入っている(おそらく音源自体も、両楽章で切れずにつながっている)。CD化の際には、この曲間部分に無音部分を入れる関係で、第4楽章の曲頭からパラパラ音が聴こえる盤と、聴こえない盤がある。shin-p氏はこのことから以下のように推察されている。「メロディア盤などでおなじみのブラームス/交響曲4番は42年6月21日録音ではないかという意見がある。メロディアCDでは42/06/21とクレジットされている。shin-pは1,2楽章が43年で3,4楽章が42年録音ではと推察している。録音状態が前半と後半であまりに違うからだ。」(「フルトヴェングラー資料室 WF Archives1942-5」

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