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2022年3月 2日 (水)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その9・シューベルト9)

 シューベルトの交響曲第9番(第7番)『グレイト』も、フルトヴェングラーの得意な曲の一つで、後年、一段と円熟したスタジオ録音も残している(ドイツ・グラモフォン)。こちらの戦時録音は1942年5、6月、あるいは12月のライヴで、より若々しい、動きの大きい表現を見せている。第4楽章の推進力は、まったく見事なものだ。ところで、この音源には以下の問題がある。一つは、第2楽章が途中、第250小節の全休止の部分で盤の切り替えがあること。つまり、このLPを元に復刻する限り、休止部分の間合いが再現できない。また、第3楽章の最後の和音が短く切れている点も、割と目立つ瑕疵だ。前者については、復刻盤CDによって休止の長さはまちまち。しかしどの盤が正しいかは不明なので、以下の文章では特に触れていない。後者については、特に断らない限り、短く切れていると思っていただきたい。

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 レコード番号は、33D010033/4 。「プリ・メロディア盤」としてはアコード盤が出ているが、これについては MYTHOS から復刻盤が出ている(NR-9006 GH Gold)。アコード盤の板起こしは珍しい。やや高域寄りの明るく鮮烈な音質は、そのアコード盤由来だろう。迫力も十分だが、強音部を中心にやや「ガサガサ」と荒れ気味ではある。針音(元LPの傷も含む)も盛大だ。ただこのCD-Rは、面白いことに原レコード盤のままトラックが切ってあるので、第2楽章は2つに分かれている(結果、全5トラックになっている)。これはこれで、ある意味、「正しい」処置だ。

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 さらに Grand Slam も、うれしいことにアコード盤を元盤に使っている(GS-2101、2013)。製作者の平林直哉氏のコメントは、「メロディア盤からの復刻はすでにいくつかのレーベルで出ているので、当レーベルでは制作にあまり力を入れてきませんでした。しかし、ファンからのご希望が多いので、今後は順次発売していく予定です。まず、シューベルトは1960年前後に製造されたアコードと呼ばれるレーベル面のLPを復刻の素材としました。これは最初期ではありませんが、盤質が安定していて音も明瞭と言われているものです。」。同じアコード盤を復刻に使ったとはいえ、こちらは低音寄りの音作り。まったく針音なしとはいかないが、この盤はスクラッチ・ノイズの少ないことで評判である下記の Delta 盤よりも静かなくらいだ。「ラ・ヴォーチェ京都」の永井琢也氏所蔵の盤だというが、余程状態の良い盤だったのだろう。

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 この『グレイト』にはいわゆる「VSG盤」もあって、同じ MYTHOS から復刻盤が出ていた(NR-5006 Gold)。音出しが強いのは上の NR-9006 GH と同じだが、こちらの方が復刻に使った盤の状態が良く、針音も少ない。このレーベルとしては音自体ややおとなしめで、音楽に余裕がある。

 一方、Delta 盤の使用盤は「青色大聖火盤ガスト56」との記載がある。「サー」という継続ノイズはあるが、いつもどおり余計な色はつけず、真面目かつ清潔な復刻。また同じ「青トーチ盤」からの復刻に、OPUS 蔵盤がある(OPK-7010)。毎回指摘しているように、低域を上げ高域を下げるというイコライザーをかけたかのような音質ではあるが、少なくともスピーカーで聴く限りいつもの OPUS 蔵盤ほどこもった音になっていない(元盤の音質自体が、ややハイ上がり気味なのかもしれない)。スクラッチ・ノイズも非常に少なく、MYTHOS 盤等がやりすぎと思う人にはぴったりくるだろう(注1)。

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 真正メロディア盤には、いつものようにピンク・レーベル(モスクワ・アプレレフカ製)がある。こちらは、そのうちの GOST61 盤。マトリックスは両面が「1-1」で、「プリ・メロディア盤」と同じである。

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 アリア・レーベルからこのピンク・レーベルの GOST61 からの板起こし盤が出ている(AR-0016)。「ARDMOREの復刻は秀逸。今回は5回目のリマスタリングで満足行く結果が出た。この重量感、この存在感。すごい。」。コメントどおりの音。最初、ブラインド・テストをしたときに、かなり低音が強かったので、こちらが OPUS 蔵盤かと思ったくらいだ(失礼!)。これは、メーカー側の説明にはないが、元盤よりピッチ・速度を落としている関係だろう(注2)。この処置は、どうだったか。確かに1951年の同曲のセッション録音と比べると、このメロディア音源のピッチは若干高めである。しかし、このアリア・レーベル盤は、そのDG盤よりもさらにピッチを下げている。「第3楽章の最後の余韻はオリジナル盤(初期メロディア盤)ではカットされているのですが、今回の復刻では修正が施されています。」とのこと(注3)。

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 こちらの写真は、やはりアプレレフカ製の GOST68。こちらもマトリックスは両面とも「1-1」で、盤質が上がっているのか、聴いてみるとスクラッチ・ノイズもかなり少ない。

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 こちらの写真のイエロー・レーベル(レニングラード製)は、GOST73 である。なんとこちらも両面「1-1」のままである。

 さて、Serenade レーベルの板起こし盤(SEDR-2010)については、製作者の平林直哉氏がこう注釈している。

「このCDRはメロディアのホワイト・レーベル(シューベルト)、ピンク・レーベル(R.シュトラウス)から復刻したものである。ホワイト・レーベル、イエロー・レーベル、たいまつレーベルは1950年代後半から1960年頃に製造されたもののようだが、それぞれについての詳細は明かではない。一方、ピンク・レーベルは1960年代から1970年代初頭にかけて製造されたようである。いつ頃製造されたものが、あるいは何色のレーベルのフルトヴェングラー盤が最上の音質かについては諸説あるが、少なくともこの復刻盤では現時点で望みうる最上の音質で楽しめるように心がけている。  【平林直哉】」

 ここで平林氏が述べている「ホワイト・レーベル」が何かということだが、「1950年代後半から1960年頃に製造された」とし「イエロー・レーベル」(=おそらくアコード盤)、「たいまつレーベル」と並べているところを見る限り、「プリ・メロディア盤」の中の白いラベルの盤を指してそう呼んでいるように思える。が、この項の(その3)で取り上げた同じ Serenade レーベルの第6番《田園》(SEDR-2009)では、GOST73 以降の盤を「ホワイト・レーベル」と呼んでいる。また、ベートーヴェンの第4番の Serenade 盤(SEDR-2008)についても「ホワイト・レーベル」を復刻に使い、さらに「全楽章ともに聴衆入りのライヴ演奏」と説明しているので、これは明らかに GOST73 以降の盤のことを指してそう呼んでいる。なので、こちらも真正メロディア盤の可能性が高いと言える。その傍証として、最初に触れた第3楽章の最後の箇所が挙げられる。というのも、この「33D010033/4」の場合、GOST73 の途中で上記第3楽章最後の終結和音の切れが<修復>されている(この部分、後付けのような響きが若干しないでもないが、これ以下の盤にすべて共通)。

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 こちらがその「ホワイト・レーベル」盤の実例。上が、レニングラード製の GOST73。下が、モスクワ製の GOST80 で、マトリックスはともに、A面が「1-2」B面が「4-2」と変わっている(注4)。マトリックスが両面「1-1」の盤と比べると、ごくわずか背景音等がマスクされた感じがするか。これらのうちのどれかを復刻した Serenade 盤は、あいかわらず出音レベルが高く、バックグラウンドには低いブーンという音が入っているためか、音がやや重く感じる。なお、平林氏が監修している DREAMLIFE 盤も、第3楽章最後の終結和音の切れが<修復>されているので、同じ盤を使った可能性が高いだろう。音の傾向もほぼ同じ。

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 この曲にも、日本に輸入された黒レーベル盤が出ている(M10-10033)。写真の盤のマトリックスは、A面が「1-3」B面が「1-3」。同シリーズの他盤と同じで、スクラッチ・ノイズは実用上、皆無に近い。一部の黒レーベル盤にあるデジタル臭さも抑えられていて、非常に聴きやすい盤だ(注5)。第3楽章の最後は、修正済み。

(注1)一般に広く販売されたものではないが、日本フルトヴェングラー協会の会員頒布資料として、青トーチ盤を使った板起こし盤を出していた(WFJ-23 『大戦下のフルトヴェングラーとベルリン・フィル』、2003)。こちらは浅岡弘和氏の所有盤からの復刻とのこと。状態の良いLPをそのままストレートに復刻したようで、バックの雑音も極めて少ない。音質的には、Gland Slam 盤と似た感じ。もし中古で安く買える機会があれば、手に入れても損はないと思う。

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(注2)アリア・レーベルからの復刻盤で、これまで聴いたベートーヴェンの第5番交響曲、「第九」では、そうした明確なピッチ下げは行われていなかった。ちなみに僕が聴いた限りでは、Turnabout から出たLP盤(TV4364)は、このアリア・レーベル盤以上にピッチを下げている。
(注3)この GOST61 のピンク・レーベル盤を復刻した盤としては、以前、OTAKEN RECORDS からCD-Rによる復刻が出ていたようだ。
(注4)この原盤変更を GOST80 からとしているサイトもあるが、実際の変更時期は GOST73 の途中からのようだ。
(注5)こちら黒レーベル盤についても、(注3)同様 OTAKEN RECORDS から、CD-Rによる復刻が出ていたようだ。

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