2020年2月11日 (火)

2019年まとめ

 すでに2月に入っているが、今回は昨年のまとめ記事。

 2019年に一番記憶に残った録音(CD)は、ジョージア(グルジア)出身のピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリのシューベルト集。新進演奏家が作曲家デビューのアルバムで、いきなり変ロ長調ソナタ D.960 をぶつけてくることくらいではもう驚かないつもりだが、この演奏は、正直すごい。自分の感性を信じ切った没入ぶりといい、極限まで大きく幅をとった緩急・音量の対比といい、こんなシューベルトは聴いたことがない。冒頭楽章の提示部をじっくり6分ぎりぎりまでかけて弾き、そのあと堂々と同じテンションで提示部のリピートに入るあたりは、まさに圧巻と言える。言い換えれば、彼女の演奏で聴くと、もはや古典派のソナタ(形式)の曲の常套手段である繰り返しが、このソナタが書かれた時点ですでに形骸化の道を歩んでいたことがわかるというものだ。ソナタのアンダンテ・ソステヌートは超絶的な遅さで始まるが、一方で変ホ長調の即興曲では極めて速い自在な音の流れを際立たせるなど、意外性たっぷりのアルバムになっている。僕がシューベルトのピアノ・ソナタで、最近よく聴くのは高橋アキさんのシリーズ(カメラータ)だが、ニュートラルなアキさんのシューベルトとはまた違った魅力にあふれている。加えて、アーティスト自身が名画のオフィーリアに扮したジャケットのアートワークも圧倒的に見事。クルレンツィスといい、このブニアティシヴィリといい、大手レコード会社がのきなみ影響力を落としている中で、ソニー・クラシカルは近年非常に良い仕事をしている。

 今年、20年以上続けてきたポータブルCDプレーヤー(CDウォークマン D-E01)とイヤフォンという就寝時の音楽視聴のスタイルが、ついに変わった。というのも、Amazon の AI スピーカー、Echo を導入したから。「Alexa(アレクサ)、バッハのピアノ曲を聞かせて」「ダウランドの曲を聞かせて」などと呼びかけるだけで、好きな音楽を流してくれる便利さは、一度経験するとちょっとあとには戻れない。なにしろ「少し、小さくして」「次の曲」「20分たったら、消して」という感じで、その後の操作もベッドに入ったまま自由自在にできる。AI 自体はまだまだ発展途上で、特定の曲の特定の楽章を「聴く」というようなマニアックな要求には応えてくれないのだが、就寝前に漫然と聞き流すというシチュエーションにはこれで十分、というか最適だろう。なにしろ「パレストリーナの曲を聞かせて」「フィリップ・グラスの曲を聞かせて」というようなお願いにも応えてくれるのだから(ちなみに年末あたりから Echo で一番よく再生したのは、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」だったりする・・・)。

 ちなみに僕が Echo と連動させている音楽配信サービスは、標準の Amazon Music。ここではブニアティシヴィリの各盤も聴ける。上記のシューベルトは、さすがに CD で買ったが、彼女の他の盤はこのストリーミング配信で聴いている。NML ナクソス・ミュージック・ライブラリーもかなり初期から加入しているので、遅きに失した感もあるのだが、ここに至ってやっと僕も「 CD(メディア)で持っていないと安心できない病」から快癒することができそうな気もしている。そんな事情も手伝って、各社から出る激安セット物にも、今年はあまりやられなかった。意識して続けて買ったのは、カラヤンの一連の来日ライヴ集と、ロトのマーラー(第1、第3)くらいか。

 昨年の「2018年まとめ」という記事で、「レコード・アカデミー賞」について以下のようなことを書いた。

「ちなみに「レコード・アカデミー賞」は、「各年度(1年間)に、日本のレコード会社から発売されたクラシック・レコード」、いわゆる国内盤を対象にしているとある。(中略)正直、この時代にあって、国内盤などというくくりに意味があるとは思えない。この際、「レコード・アカデミー賞」も、たまたま!国内盤で出たディスク内で競うのではなく、日本人演奏家部門(確か、かつてあった)や、日本のレコード会社の企画盤部門、あるいは日本での録音部門とかのレギュレーションで競う方がずっと良いのではないだろうか。」

 その記事を審査委員が読んで反省した、などということはまずないが(笑)、今年の「レコード・アカデミー賞」大賞は、古典四重奏団のショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲全集というからびっくりした(『レコード芸術』2020年1月号、音楽之友社・刊)。それだけにとどまらず、日本人演奏家の作品が、特別部門を除く(交響曲から現代曲までの)主要9部門中4部門で受賞するという快挙を成し遂げた。これは、実に歓迎すべき傾向だろう。一方で、いわゆるメジャー・レーベルは影が薄い(「グラモフォン」2部門)、「ソニー・レコーズ」1部門のみ)。大賞盤を出している「クレアシオン」というレーベルは、同四重奏団のチェリストで、タブラチューラという(擬似)ルネッサンス楽団のフィーデル担当でも有名な田崎瑞博さんが立ち上げたレーベルである。また大賞銀賞の佐藤俊介氏によるバッハ/無伴奏バイオリンソナタ&パルティータは、「アコースティックリバイブ」というレーベル名だが、こちらは何と超高級オーディオ用のケーブルやアクセサリーを出している会社である。そのほかは、「アルファ」や「アパルテ」「TRITO」といった知る人ぞ知るといったマイナー・レーベルから選ばれている。デジタル時代にあって、業界の流動化がますます進む一方で、主要オーケストラやオペラハウスの配信事業と合わせ、新たな時代の到来を考えさせられる今年の「レコード・アカデミー賞」であった。ちなみにブニアティシヴィリのシューベルトは、器楽曲部門でノミネート盤には入ったが、残念ながら受賞は逃した。しかし、翌月の『レコード芸術』誌で発表された読者投票による「クリティカル・チョイス2019」では、堂々3位に入っている。満足。

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2019年11月30日 (土)

リコーダー 蘇る名器(その2)

 前回、ピーター・ブレッサンの木製リコーダーを、ABS樹脂で復刻した全音楽譜出版社の楽器を紹介した。この全音、そしておなじみの YAMAHA と並ぶ日本のリコーダーメーカー、トヤマ楽器製作株式会社が、「アウロス」というブランド名でリコーダーを発売していて、その中に「ハーカ」という受注生産モデル(ソプラノ 703B、アルト 709B)がある※。これはその名のとおり、オランダの製作家ハーカ(Richard Haka, c. 1646-1705)の楽器を元に設計されたもの。ハーカはブレッサンやステンズビー父子ほど有名ではないし、録音でもブリュッヘンがダス・アルテ・ヴェルクの録音で使ったもの以外、あまり見かけない。ただ、このアウロス版ハーカはとても評判がいい楽器で、学校現場でもよく採用されていたようだ(ソプラノには、いわゆるジャーマン・フィンガリングを採用したモデルもある。702G)。

 調べてみたら、このハーカにも複数のモデルがあって、リコーダー奏者の江本礼さんのブログにはこうある。

がしかし、実は、このハーカの初代があまりにも素晴らしかったという話を10年近く前から聞いていたのです」(>>こちら。

 ということで、オークション等で探してみたところ、それぞれ703〜703A、709〜709A という2つのタイプが見つかった※。709A 以外は実際に手に入れてみたが、初期モデルは中部管がやや細めの上、足部管の形状・長さも違っている。江本さんの感想にもあるが、鳴りの良さは断然、初期モデルが優っていて、ハーカ・ファンならぜひ手に入れてみると良いだろう(といっても非常に古いものなので、少し苦労がいると思うが)。

 ちなみに、アウロスにはハーカの弟子であったステンベルゲン(Jan Steenbergen, 1676-c.1730)のモデルを模した「ベルカント」というモデルも出している。ただ、これは外部の形状のみを写しているようだ。同じような例では、日本の三大リコーダー・メーカの一つ YAMAHA にも、ベルギーのロッテンブルク(Jean-Hyacinth-Joseph Rottenburgh, 1672-1756)の外部形状を模した複数のモデルがある。

 もう一社、日本の鈴木楽器製作所からは、(その1)の注で紹介した全音の 150BN 同様、ステンズビー Jr. の楽器を設計のモデルとしたソプラノ・リコーダーを出している(SRE-520ほか、ジャーマン式もあり)。さらに、オランダのテルトン(Engelbert Terton, 1676-1752)のモデルもある(SRE-515、こちらもジャーマン式あり)。SUZUKI のステンズビーには、ABS樹脂ではなく高比重プラスチックを使った上位版もあって、これはやや細身ながら非常に上品な音色を持っている。さらにテルトン・モデルは、発売元のHPに「小学3年生の小さな手にもぴったりとフィットします。」と、児童用のようにも書いてあるが、雑味の少ないくっきりとした音色で、僕はかなり気に入っている。ちなみに鈴木楽器製作所でこの「テルトン・モデル」を設計された若い女性の方の話が、リコーダー奏者の太田光子さんのブログに出ている。>>こちら。※※。

 以上、2回にわたりプラスチックを使って、古いタイプのリコーダー復刻する試みを見てきた。今は3Dプリンターなども開発されているのだがら、今後はそうした新技術を使った楽器製作も新しい段階に入っていくのかもしれない。

※さらに海外仕様では、703W(W は木目仕様を表す記号)というタイプも出ていたようだ。ちなみに現行モデルにも 703BW、709BW という木目仕様がある。余談になるが、アウロスはかなり前から、ABS樹脂製のフラウト・トラヴェルソも出している。>>こちら。
※※さらにマニアックな話になるが、フランスのヴァンサン・ベルノランというフルート製作者が、合成樹脂製のステンズビー・リコーダーを作っている。こちらは、射出成形ではなく一本一本樹脂本体を削って作っているようだ。無論、価格は数万円する。ここまでくると、正直、素人には高すぎるが、興味のある方は一度ご覧ください。>>こちら。

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2019年11月24日 (日)

リコーダー 蘇る名器(その1)

 思い出してほしい。我々が学校の音楽の授業で吹いていた(吹かされていた)リコーダーは、ほとんどがプラスチック、正確にはABS樹脂の射出成形で量産されたものだった。音楽教育的な意義は少しはあったとは思うが、そのことがリコーダーという楽器に、「子どもの楽器」「子どもでも吹ける楽器」というようなイメージを作り出していたことは否定できない。一方で、他の伝統的な楽器と同じく、リコーダーにも歴史的な名器というものが残っている。それは当然ながら、木製。この楽器の全盛期であったバロック時代には、多くの名工(工房)が卓越した木工技術を駆使して、今より多種多彩な木のリコーダーを製作していた。その一部は、コレクションとして各地の美術館や収集家の手に今も所蔵されている。戦後、ヨーロッパを中心に古楽復興の機運が盛り上がったときに、デイヴィッド・マンロウやフランス・ブリュッヘンといったプロフェッショナルな演奏家も現れ、それとともに歴史的な楽器の復元も企図された。フリードリッヒ・フォン・ヒューネやフレデリック・モルガン、ハンス・コルスマといった先駆的な楽器製作者たちは、残されたオリジナル楽器から精密なコピーを作り、それは多くの演奏家たちが録音やステージ演奏に使うことで広まっていった。

 1977年、全音楽譜出版社(Zen-on)という日本の会社が、フランス人でイギリスに渡った製作者ブレッサン(Peter Bressan, 1663-1731)製のアルト・リコーダー(F管)を元に、ABS樹脂製ながらオリジナル設計を活かした楽器を製作した。フォン・ヒューネが設計を担当。ブリュッヘンがその楽器を演奏した写真も残っており、これは値段も普及品とさほど変わらなかったこともあり、画期的な製品としてロングセラーとなった(1500B)※。僕も十数年前に買って実際に吹いたことがあるが、少しハスキーな音色や楽器全体の優雅な形状など、確かに他のプラ製楽器とは一線を画すリコーダーであった。ちなみにこの 1500B は途中でマイナーチェンジをしていて、大きな変更としてはピッチが当初の A=440Hz から A=442 に変えられている(型番も 1500BN となった)。これは、演奏時の標準ピッチが高くなってきたことによるという。

 それから40年後の2018年の秋には、新たに日本の代表的な楽器製作者である平尾重治氏と竹山宏之氏の共同設計・監修によって、この 1500B の後継楽器 Giglio G-1A が登場している。こちらは、指穴のアンダーカット(中へ入るほど穴が広くなる)や、全体の重量バランスなど、さらにオリジナルに忠実な設計が目指されている。が、ただひとつ残念な点は、この「新ブレッサン」もやはりモダンピッチで設計されていること。この間、古楽演奏の一般化によりバロック・ピッチ A=415 の楽器が普及しており、アマチュア演奏家でもそうした楽器を使う人が増えている。木製リコーダーは非常に扱いが難しい楽器で、2時間以上吹き続けることは、楽器にひび割れなど致命的なダメージを与えると言われ、厳禁されている。演奏家のあいだでも長時間の練習できる楽器が切望されていることもあって、当のG-1A の発売時にもバロック・ピッチ版の G-1A の発売予定に言及があったという。

 そして、今夏、ついに全音が待望の 415Hz バージョン Giglio G-1A/415 の発売を発表。9月20日に無事に出荷にこぎつけた。値段も1万円弱とリーズナブルな価格帯に抑えられている。近々、モダンピッチ版 G-1Aと頭部管のユニットを共通化し、中部管および足部管を取り替えることで、バロック・モダン両ピッチに対応可能になるという。これは、チェンバロなど他の楽器と合わせることの多い実際の演奏現場では歓迎されるはずだ。以下に、これら「新ブレッサン」を並べた写真を掲げておく。左から G-1A、1500BN、1500B、そして G-1A/415 と、楽器の長さの違いがわかっていただけると思う※※。

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 この G-1A/415 の登場は、リコーダー界ではかなりの話題となっているが、一般のクラシック音楽のファンの方にはあまり知られていないのではと思い、あえてご紹介した次第。G-1A/415 をプロの演奏家の方が演奏した動画も上記リンク先にあるので、一度、聴いてみてください。

(参考)全音からは、この G-1A/415 の発売に合わせたように、『ゼンオン DVD フランス・ブリュッヘン リコーダー・コレクション ~今、蘇る歴史的名器の響き』という映像資料が出た。「約300年前の巨匠たちによって生み出された17本の歴史的名器を、2人の名演奏家による演奏と美しい映像で堪能できる貴重なDVD。」とのこと。ブリュッヘンの弟子筋であるケース・ブッケとワルター・ファン・ハウヴェが、各リコーダーで短い曲を吹いたあと、最低音から順に半音づつ音を鳴らしていくだけ!!というおそろしくマニアックなDVDであるw。ブックレット解説が、我が国のリコーダー製作者・斉藤文誉さんでこれも非常に詳しい。ちなみに、フレデリック・モルガンがこれらの楽器のデータを計測した『ブリュッヘン収蔵 リコーダー図録』も全音が以前から出していて、これはオリジナル・リコーダー好きにはまさにバイブルだったが、その音や外観をじっくり見ることのできる今回のDVDは、本当にありがたい企画だ。おそらく再版は望めないと思うので、興味のある方はぜひお買い求めを。

※ソプラノ・リコーダーとしては、同じイギリスの製作者ステンズビー・ジュニア(Thomas Stanesby Jr., 1692–1754) の作(C管)を元にした 150B という姉妹作があり、こちらはマイナー・チェンジ版の 150BN として今も発売されている。 また、ソプラノ・アルト両方に、木目仕様の楽器も出ていた(150BO、1500BO)。
※※ちなみに、この G-1A/415 の元となったオリジナルのブレッサンは A=410Hz であり、本当はもう少し管長が長いはず。オリジナル楽器のピッチは、時代や国によって様々であり、一概にこうと決められないのだという(ブレッサンにも、403Hz や 406Hz 等の楽器がある)。個人製作家の中には、そうしたオリジナルどおりのピッチで楽器を作っている方もいて、その場合は大抵20万円以上はするのが普通だ。ちなみに415Hz というのは、モダンピッチの半音下ということで、便宜的に定められた値と言われている。そういう基準がないと、メーカーの違う楽器でアンサンブルはできないことになり、ある意味、仕方のないことかもしれない。

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2019年7月 9日 (火)

音楽の愉しみ(その2)

 2012年に、「音楽の愉しみ(その1) 」という記事を書いた。毎日の生活の中でできる、気軽なクラシック音楽の愉しみ方について書いたものである。今回はふと思い立って、その続きを書く。

4)曲名当て
 これは、誰しも一度は無意識に試したことがあるかもしれないが、ラジオ(主にNHKのFM放送)でクラシック放送を聴いているときに、その流れている音楽の作曲家や曲名を当てるという「ひとりクイズ」である。僕の場合、平日の朝(月曜を除く)、7時25分から始まる「クラシックカフェ」という番組の再放送を通勤途中の車の中で聴いているときがそうだ※。例えば先日、朝一番にカー・ステレオから流れてきたのは、ホルン独奏とオーケストラの曲。ホルン協奏曲自体は決して珍しいものではないが、有名なものはモーツァルトかリヒャルト・シュトラウスに限られる。その時流れていた曲は曲調、和声の感じから後者の交響詩『英雄の生涯』によく似ていたので、リヒャルト・シュトラウスの「ホルン協奏曲」と推測ができた(実際は、第1番・変ホ長調)。無論、得意・不得意もあって、僕の場合、ハイドンとモーツァルトの区別は結構できる(つもり)。逆に曲数や曲種も多いロマン派の室内楽曲やピアノ曲の場合、「これは誰の曲?」というときも結構あって、かなり迷う。シューベルトやシューマンあたりは独特の雰囲気があって、知らない曲でも何となく判断できることがあるが、ベルリオーズやリストあたりは当方もあまり知識がなくお手上げということも多い。ましてや後期ロマン派になると、まだまだ勉強不足を痛感させられる。そういう場合は、目的地に着いてから iPhone でNHKの番組サイトを呼び出し、「答え」を確認するというのがいつもの日課になっている。

5)演奏者当て
 4)のクイズをやろうというときに、当然、すでに聞き知っている曲がかかるときがある。正確に数えたわけではないが、僕の場合、上記「クラシックカフェ」 で既知の曲に出くわす確率はおよそ半々くらいだろうか。その場合は、その曲の演奏家の名前を推測するクイズに移行する。今度は、演奏の特徴や楽器から出る音色などが判断のヒントになる。上記の「ホルン協奏曲」の場合、実は先週あたり集中して聴いていたペーター・ダムのホルンの音色に非常に似ていたので、「もしや」と思って確認してみたら、やはりペーター・ダム(ホルン)、ルドルフ・ケンペ(指揮)、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏(EMI)であった。こういうときは実際かなりうれしいし、自分の音楽的感性に対する密かな自信にもなる。ほかに最近、正答できた演奏者では、アンネ・ゾフィー・ムターの弾くブラームスのヴァイオリン・ソナタ「雨の歌」(DG)や、ザビーネ・マイヤーのモーツァルト作曲、クラリネット協奏曲(EMI)があった。でもこういうことができるのも、その判断に音楽的な見地だけでなく、録音メディア等に対する若干の経験・知識が関わっていることは否定できない。というのも、例えばカラヤンはメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」は録音しているが「真夏の夜の夢」は録音していないとか、ワーグナーの交響曲とはいえば一般的にレーグナー(指揮)、ベルリン放送交響楽団(シャルプラッテン)のものしか知られていない、といったトリビアめいた知識もこの場合、大いに役に立っているわけである。ただし、無論そのように様々な手法を駆使して推測をしたところで、どうしても4)のクイズほどの正答率は得られない。「これはヨーロッパの有名オーケストラの演奏だろう」と推測していたらなんと日本のオケだったり(最近、日本のオケの質は随分上がったとみえて、マーラーやブルックナーなどの大曲も軽々とこなせるようになった!)、往年の大指揮者だと思っていたら案外、若手の演奏だったりというような経験は、結構、日常的に起きる。結局、自分を相手に「ブラインド・テスト」をしていることになるわけで、世評やブランドを抜きに音楽家を評価することの難しさを日々痛感している。

6)曲の脳内再生
 テレビやラジオなどである音楽が流れてきたときに、それを引き取って脳内で続きを再生してみることはないだろうか? 以前、大河ドラマで宮﨑あおい主演の「篤姫」という作品があったが、この音楽は作曲家の吉俣良氏が担当されていた。特に主題曲は、井上道義 (指揮)、NHK交響楽団による魅力的な楽曲で、僕も気にいっていたものだった。あるとき、土曜日お昼の再放送の時間帯に、ダイニングに置かれたテレビからそのテーマ音楽が流れてきた。それを聴くとはなしに聴きながら、その部屋を出て洗面所で洗面。その間ずっと頭の中で主題歌を辿っていて、それが終わりに近づいた頃にダイニングに戻ってきたら、脳内の音楽とテレビの音楽がちょうどユニゾンで重なって、終了の和音で終わったということがあった。これは、僕的にはかなり感動できる出来事だった(笑)。そして、これはCD等を使えば、いつでもできる遊びである。音楽を途中まで聴いて、途中でボリュームを絞り、ややたってから音を出してみる。頭の中で鳴っている音楽とどこまでシンクロしているか?・・・思うより簡単ではないと思うので、ぜひ一度お試しを。

※ちなみに「クラシックカフェ」の本放送の方は、午後2時代である。

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2019年3月 6日 (水)

エアチェック再開の記(その2)

 (その1)では、FMチューナーを使ったエアチェック再開について書いたが、今回の話題はネットでのサイマル放送の録音について。NHKのラジオ放送については、「らじる・らじる」というサービスがあり、パソコン(Web)およびアプリでの視聴が可能になっている。これは圧縮音源(HE-AAC 48kbps)ながら、ノイズのないクリアな音声ということで録音対象としても有力である。昨年6月の『ステレオ』誌の特集「FM聴こうぜ」でも、この録音方法が紹介されているくらいだ。実際、ネットラジオ用に有料/無料の録音ソフトがすでに数多くあって、検索するといろいろな記事が引っかかってくる。僕が日常的に使っている Macintosh でも対応ソフトがいくつかあるが、タイマー録音用として1台専用にしたいので、以前、子どもに使わせていた Windows7 のモバイル・パソコン(Sony Vaio VPCW219AJ)を再生利用することにした。ハードディスクを安い SSD に換装し、OS を再インストール。余計なソフトはアンストールしたが、なぜか肝心の無線LANが不安定なところがある。ただしこの機種には、今では珍しい有線LANポートもあるので、余っていたLANケーブルでルーターに直結しておいた。実際、この方が無線LANよりは、かえって通信状況も安定しているだろう。で、次は、いよいよ録音ソフトの選択だ。

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 Windows で、「らじる・らじる」などネット・ラジオを録音するフリーソフトとしては、「どがらじ」というものと、「Radikool」というものがあり、前記『ステレオ』誌の記事でもこの2種が推奨されている。どちらも Windows7 で使用可能とのアナウンスだったが、実際にインストール作業をしてみると、Servise Pack 1 にまでアップデートしておかねばならないことが判明した(Microsoft .NET Framework のバージョン関係らしい)。これがなかなかの手間で、何度もダウンロードとアップデートを重ね、結局、半日くらいかかった。その後、無事2つのソフトをインストール。それぞれを使って、番組の録音も試してみた。GUIや使いやすさの点では、「どがらじ」が勝る。「らじる・らじる」で受信した音楽データを、再エンコードなしで録音できるという点も非常に良い。ただ、今回は電源管理に優れている「Radikool」の方を選んでみた。録音レートも、設定画面で「m4a」に変更し、少し設定をいじれば「再エンコードなし」に設定し直すことができた。100分の番組「ベスト・オブ・クラシック」を録音してみたところ、1回の番組で35.6MBとなったので、計算上は1か月すべての放送を録音しても、1GBの記憶領域で済むことになる。ちなみに(その1)で触れたアナログFM放送を PCM 録音したものでは、同じ「ベスト・オブ・クラシック」1回分だけで1.09GBのバイトを消費するので、これに比べるとその差は歴然だ。たまたま上記 Vaio には、なつかしいメモリースティック・デュオ・プロのメディア・スロットがある。僕の場合、HARD OFF で投げ売り状態の小容量メモリースティック(1GBや2GB)を仕入れてきて、これに1月分の録音を何も考えずにまとめて入れておき、バックアップがわりにしている。

 さて、肝腎の音質はどうだろう。今週初めの「古楽の楽しみ」は、僕の好きなルネサンス期の声楽曲を流しているので、これを録音。m4a のまま iPod に移して就寝前に聴いてみた。左右チャンネルの分離も充分以上だし、何よりノイズレスである点は大きなアドヴァンテージだ。ボリュームを上げていっても雑音は皆無。この点では、ベッドサイドに置いて使っている携帯型のCDプレーヤー(Discman)よりも優れていて、同じ音源を元のCDメディアで聴くよりも、静寂性の点では勝っていると思われる。もはや携帯型プレーヤーやミニ・コンポ、レシーバー等で気軽にFM放送を楽しむのは、このネット音源を活用することで十分であろう。今日現在、我が家の Vaio では、この「古楽の楽しみ」に加え、「ベスト・オブ・クラシック」、「N響 ザ・レジェンド」を自動録音する設定としている。仕事で遅くなった日など、まったく放りっぱなしにしているが、それでトラブルになったことはない。このうち何度も聴きたいと思う番組・回については、アナログFMの PCM 録音でも重複録音し、CDに焼いて保存する、というエアチェック・ライフに、当面は落ち着きそうだ。

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2019年3月 1日 (金)

エアチェック再開の記(その1)

 先日、カセットテープを聴くことができるウォークマンをオークションで見かけたので、落札してみた。WM-EX1 という再生専用の機種で、特別な機構は付いていないものの、そのシンプルさがかえって潔い。かつてFM放送をエアチェックしたテープが実家の屋根裏倉庫に大量に保管してあったので、早速、その一部を持ち出して聴いてみた。テープ自体はすでに30年程経過しているのに意外なほど劣化しておらず、想像していたよりずっと音が良い。カラヤン晩年のライヴや、若き日のアバド、ムーティなどの溌剌とした演奏をしばし楽しんだ。無論、これらのうちいくつかの演奏はCD-Rでも出ていたりしている。が、こちらのテープはあくまで個人で利用するための録音であり、著作権的にも問題がないというのは、何とも気分が良い。

 その勢いをかって、FMのエアチェックを再開してみたいという気が起こり、2月になってからいろいろ調べてみた。まず、当時良く売れたというパイオニアのシンセサイザー・チューナー(F-120D)を物置部屋から引っ張り出してきた。が、実家に住んでいた頃とは電波事情も変わっていて、T型の屋内アンテナをつけてみただけではなかなかきれいに受信できない。数年前は、壁につけられたテレビのアンテナ端子につなげば受信できたので試してみたが、地デジ化に伴ないVHFアンテナを降ろしてしまったこともあり、こちらもほとんど感度がない。そこで知り合いの電気屋さんに頼み、手頃な屋外用アンテナをベランダに立てることにしたのが、先週の木曜日のこと。上記チューナーもチューニング・スイッチの接触が悪くなりかけていて(この機種の弱点・・・)、この際、せっかくなので往年のバリコン・チューナーを使ってみたいと思いたった。たまたま近所の HARD OFF に出ていた YAMAHA T-3 という5連バリコンの機種を買ってみた。これでNHK-FM のクラシック番組を聴いてみると、実にやわらかい音楽的な音がする(※1)。T-3には出力端子が2系統あるので、一つは録音用、一つはモニター用としてアンプにつなぐことができるので、これはこれで都合が良い。以上で、受信まではOK。さて、問題は、録音の方法である。

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 さすがにテープ録音というのは、もはやありえないだろう(カセットデッキ、DATデッキはまだ自宅にあるが・・・)。いったんデジタル機器でデータ化しておけば、場所もとらないし音源の管理だって楽である。ネット検索してみると、A/Dコンバーターを使いパソコンに録音しているという方が最近は多いようだ。ただ我が家の場合、パソコンをチューナーの近く、テレビ下の備え付け家具の中に収納することになり、ノイズ対策的に考えても不安がある。日中は仕事で家人ともども留守の場合が多いので、熱のことも心配だ。そこで、パソコンの代わりにICレコーダーを使うという方法が最も手軽そうだということで、こちらの方面で引き続き調べてみた。

 条件は2つ。タイマー録音(留守録音)ができるということ。世は圧縮音源ばやりだが、せめてCD並みの無圧縮音源で録音したいので、ライン入力を PCM 録音できるということは必須だ。後者は意外に盲点で、ソニーのある機種などはマイクからは PCM 録音できるが、ライン入力は MP3 のみというものもある。しかも、こうしたことはカタログデータからは意外にわからないので、注意が必要だ。あとライン入力からの録音レベルについても、細かく調整できるタイプの機種が望ましい。これができれば、アンプ等を通さずにチューナーとレコーダーとを直結できるからである。結果、以上3つの条件に合うオリンパスの DS-901 という機種を選び、Amazon で新古品を買ってみた。試しに番組を録音してみたが、もともと自宅にあったサンヨーの古いICレコーダーと比べても、情報量が多く十分にクラシック向けである。

 で、最後は、タイマー操作ということになる。ICレコーダーの方には、上記のようにタイマー機能がついている(※2)。あとはチューナーの電源を On/Off させる方法だが、我が家には30年物のソニーのタイマーがあって最初はこれを使うつもりでテスト録音もしてみた。しかし、常時使用するにはいかにも古いので、何か代わりのものがないかと考えていたら、偶然、スマートコンセントにタイマー機能がついているものを発見した(Meross WIFIスマートプラグ)。これなら、平日(月~金)の午後7時30分~9時10分にチューナーをつないだコンセントを通電させるといったスケジュール管理もお手のものである(これは「ベスト・オブ・クラシック」の放送時間)。しかもスマホの専用アプリを使って操作ができるので、出先から通電を確認したり、もし放送時間が変更になったりした場合などにも対応が可能だったりと、何かと安心感がある。自宅にWIFI環境があるということが必須だが、1個2千円を切る価格でこんなことができるのは驚きだ。サイズもちょっと大きめの電源タップくらいで、まったく邪魔にならない。

 ということで、こうして我が家のエアチェック体制が復活した。土曜日夜の「N響 ザ・レジェンド」で、マタチッチのブルックナーの5番(1967年11月22日、東京文化会館で収録)という珍しい音源が放送されたので早速録音してみたが、やはりライヴは良い。廉価なイヤホンでも十分空間が広がり、楽しめる。たまたま本日3月1日は、NHK-FM の放送開始から50周年ということで、お昼からずっとクラシック番組を放送している。我々の世代のノスタルジーと言われればそうかもしれないが、ちなみに今月の『ステレオ』誌(音楽之友社)は、LPレコードとカセットの特集。アナログ復活の機運は、なかなか根強いものがあるのではないか。ただ、さすがに上記、特番を全部録音するという気にはならなかったのだが、こういうときこそサイマル放送の出番ではないかということで、このお話は例によって(その2)ということにします。

※1 この頃のヤマハのチューナーは、アンテナ端子が「PAL」という種類で、現在、テレビ等でも標準的に使われている「F型」コネクターとは互換性がない。ただ Amazon 等で、「F型>PAL」の返還コネクターが安く売られていて、これを使えば特別な電線処理はいらない。
※2 これも買ってからわかったのだが、DS-901 のタイマー録音機能では、「毎日」という設定があって、これは文字通り毎日同じ時間帯で録音できるわけだが、他の機種にあるような「曜日選択」ができない。なので「ベスト・オブ・クラシック」のように平日しか放送がないような番組の場合、厳密には対応できない。一応、土日になるとタイマー録音設定をオフしているが、この場合、せっかく設定した内容がクリアされてしまう(泣)。

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2012年10月30日 (火)

音楽の愉しみ(その1)

 本日のテーマは、カテゴリー名そのままの「音楽の愉しみ」。

 音楽の愉しみ方と言えば、コンサートに出かけたり、レコードやCD、最近ではDVDやネット配信等で演奏記録を映像付きで鑑賞する、というのが一般的なのだろう。あるいは楽器ができる人なら、自分で演奏してみるとか。僕の場合も、もちろんそれらが基本であるのは間違いないのだが、とかくクラシック音楽となると、演奏会場に出かけていったり(割と高価、時間制約あり)、再生機器や楽器を購入したり(こちらも結構、高価)と、投資と手間がかかるものである。そうではない、もっと気軽な、毎日の生活の中でできる愉しみ方だってたくさんある、というのが、今回のお話。

1)楽章冒頭の音程当て
 これは音楽を聴いているとき、次の楽章の冒頭の音程を当てる「ひとりクイズ」である。交響曲やソナタなど多楽章形式の曲で、ある楽章が終わり次の楽章が始まるまでのインターバル間に、冒頭のテーマを頭に中で鳴らしてみる。それだけのことなのだが、流れてきた音と頭の中の音とがぴったりと合ったときは、結構、快感である。またこれは、なれてくると誰でも正答率が高くなると思われる。というのもクラシック音楽、特に古典派の音楽では、各楽章の調性選択には一定のルールがあり、基本的には前楽章の終了の和音から次の楽章のテーマが導き出されるようにできているからである。ちなみにベートーヴェン以降はそうしたルールを基本に、それをいかに踏み外していくかが、作曲家の手腕になっているのだが。

2)テーマ曲等の音程当て
 その1の応用編で、今度はラジオやテレビで流れてくるテーマ曲の冒頭の音程を当てるというもの。例えば、平日午後7時30分から NHK・FM の「ベストオブクラシック」を聴くとしよう。「7時のニュース」が終わりこの番組のテーマが流れ出るまでの一瞬の無音時間中に、テーマ曲の音程を想像してみる(この曲はオリジナルで、北爪道夫氏の作曲らしい)。NHK の「きょうの料理」のテーマ曲とか(これはなんと冨田勲氏作曲)、同じく NHK の野球中継のテーマ曲(古関裕而氏作曲)など、有名テーマは皆さんたいてい憶えていると思うので、ラジオやテレビを見ているときなら、いつでも手軽に楽しめる。ただしこれには前楽章とのつながりがない分、ちょっと難易度はあがるかもしれない。でも絶対音感のない僕の場合でも、上記の「ベストオブクラシック」の冒頭は、最近、ほぼ当てられるようになってきた。というより絶対音感のある方は、残念ながら愉しみ1・2の音程当ては、まったく愉しめないと言うべきか。これはかわいそう・・・笑

3)交響曲等の主題当て
 これは厳密には僕のオリジナルではないが、やはり「ひとりクイズ」もの。もう20年以上前の話になるが中日新聞(東京新聞)のコラム記事で、ある音楽専門ではない大学教授の方が書かれていたものである。この方(残念ながらお名前は失念)は、新幹線などで出張する際に、好きな曲のミニスコアを持参し、それを読みながら好きなテンポで曲を脳内再生して愉しんでいるとのこと。これはある意味、ちょっとマニア向けの話なのだが、そのあとに、スコアが手元にないときには、交響曲等の楽章ごとのテーマ(第1主題、第2主題等)を思い出していく「遊び」をしていると書かれてあった。このコラムで例に挙げられていたのは、ベートーヴェンの交響曲全集。実際にやってみると、なかなか難しい。第3番、第5番、第9番あたりは比較的に簡単に思い出せるかもしれないが、第1番とか第2番あたりになると第2楽章やスケルッツオの第2テーマあたりは即答できなくて、「うん?」という感じになる。僕の場合も、曲頭から順に鳴らしていかないと出てこない楽章がある。これはブラームスの4つの交響曲や、モーツァルトのウィーン時代の交響曲あたりでも十分愉しめるクイズだし、マーラーやブルックナーになればもっと難易度があがり、上級者だって手こずるはずだ。しかもまさにいつでもどこででもできるので、音楽ファンが待ち時間をつぶすには最適だろう。皆さんも一度、チャレンジしてみてはいかが?

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2011年7月31日 (日)

ベートーヴェン第二交響曲の編曲版

 先週末、1時間足らずだが空き時間があったので、久しぶりに地元では大手の書店に入った。文庫の棚の前をうろうろしているうちに、ふと店内のBGMが耳に入ってきた。ピアノと弦楽での演奏で、しかもとても聴きなじみのある曲である。にもかかわらず一瞬、曲名が出てこない。古典派のスケルッツオぽい音楽なのだがとしばし考えていると、音楽が次のアレグロ楽章に移り・・・ここで、ようやく「わかった!」

 ベートーヴェンの交響曲第2番ニ長調。「火を吐くような」とよく形容される決然とした開始部を持つ音楽。当時としては、最大の規模を誇る長大な終楽章だ。気がついてみれば何のこともないが、田舎の書店のBGMにこうした編曲もの、しかもいかにもマニアックな曲がかかるなんて思ってもいないし、意表をつかれた感じだ。誰が選曲しているのだろうか?とレジのあたりを見渡すのだが、当然のことながらアルバイトらしき女の子しかいない。まあ、一般的には有線放送の可能性が高いのだろうが、ちょっと得をした気分で店を出た。

 帰って調べてみると、なんとこれはベートーヴェンのオリジナル編曲らしい。ナクソスにも数枚このバージョンの演奏があるので全曲を聴いてみた。ゆったりとした序奏からアレグロに入るあたりもとても自然で、こちらがオリジナルだと言われてもまったく違和感のないできだ。特に終楽章はいくつかの演奏を聴きくらべたりして十分、堪能した。

 ちなみにまたまた個人的な話だが、筆者は少し前にモーツァルトのリンツ交響曲を、モーツァルトの弟子フンメルがピアノ、フルート、ヴァイオリン、チェロの四重奏に編曲したバージョンのCD(Boston Skyline, BSD144)を中古で手に入れ聴いたばかり(ワールド・プレミエ・レコーディングズとCDにはある)。こうした編曲版にはちょっとおもしろい裏話があって、フンメルがモーツァルトの後期交響曲6曲をピアノ(と室内楽)用に編曲した楽譜にはメトロノーム表示があるのである。当然のことながら、モーツァルトのオリジナルにはメトロノーム表示はない。当時、モーツァルトの「アダージョ」や「プレスト」が一体どれくらいの速さで演奏されていたかは、今の我々は様々な間接資料からしか想像するしかないのだが、「フンメルはモーツァルトの音楽と、そこから生じた伝統に対して、我々がもっていないような種類のアクセスをもっていたのであるから、彼の記したテンポを十分に検討せずに無視するわけにはいかない。」というのが、モーツァルト研究の大家ニール・ザスラウ氏の見解だ(『モーツァルトのシンフォニー II 』小学館・刊)。こうした点からいっても、編曲ものだといって軽視はできない、やはりそれなりの聴きどころというものがある。近頃は、そういうことを思わないではいられない。

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