Monk By MP3
年末に村上春樹氏の『モンクのいる風景(新潮社)』を読んだ関係で、久しぶりに彼、セロニアス・モンクの音楽が聞きたくなった。Amazon で検索してみたら著作権が切れた影響かもしれないが、1950年代の音源が大量にセット化されて出ているのが目を引く。また気がつくと、ダウンロードで買えるデジタル・ミュージックも、いつのまにか随分と幅を利かせている。特に、モンクのリバーサイド時代の音源が、MP3ながら600円×2組で全153曲が揃うというのはすごい(CDバージョンの10分の1くらいだ)。で、思わず買ってしまった(「Thelonious Monk - The Complete Riverside Recordings」Vol.1,2)。ダウンロードも非常に簡単だし、第一、CDなら15枚にもなる大きなセットを買っても家人には見つからないのはありがたい(笑)。
実は以前から、ビル・エヴァンスのリバーサイド時代の12枚組セット「The Complete Riverside Recordings」は、CDで持っている。確かに資料としては貴重なものなのだが、オリジナルのLPの構成がまったく反映されていない上、同じ曲の別テイクが並んだりしていて、実は普段、音楽を聴くにはまったく向いていない(オリジナルLPなどと書くこと自体が、すでにアナログ世代なのかもしれないが)。その点、MP3の場合、特定の曲を選んで曲順を入れ替え、オリジナル・アルバムごとにプレイリスト(音源等を再生する順番をリスト化したもの)を作るというのも簡単にできる。年明けの休暇を使って、Amazon Music のアプリ内で、今回買ったモンクのセット・全153曲を整理してみた。
まず、オリジナルLPの曲を先に入れる。そして、そのあとに Altenate Take を追加していくという単純作業のくりかえし。かつて、今は曲種別に出ているアシュケナージの「ショパン:ピアノ作品全集(DECCA)」を買ってiTuneに取り込み、オリジナルLPどおりの作曲年代順(レコーディング順)に組み直したこともあるくらいで、そういう作業は僕はきらいではない。ただ、今度のMP3のセットには演奏時間と演奏者しか情報がないので、LPごとの収録曲を特定するには少し調査する必要がある。ネット上のモンクのディスコグラフィや、CD化されたときに追加されたボーナス・トラックなどを参考にリスト化していった。結果、ほとんどのテイクの出自は判明したが、このコンプリート盤にも収録されていない曲、というか聴けない曲がいくつかあったので、参考までに記録しておく。
1)「Epistrophy (Short version)」
「Thelonious Monk with John Coltrane」(1961年発売)に入っていた第5曲目「Epistrophy」は、このLP内では3分7秒の長さだったのだが、これにあたるテイクはコンプリート・セットの中には見あたらない。コルトレーンとモンクが演奏した「Epistrophy」は同セットの中に2つ含まれている。それは、10分46秒の長いバージョンと、「Epistrophy, Fragment」と題された1分46秒でフェードアウトするバージョンの2つ。ともに1957年6月26日にニューヨークのスタジオで演奏されたものになるが、調べてみると、どうやらオリジナルLPに収録された3分ちょっとのテイクは、上記2つの演奏をつないで作ったものだったらしい(今では「Epistrophy (Short version)」と呼ばれているようだ)。なので、これは別に「Thelonious Monk with John Coltrane」のMP3バージョンからダウンロードして補っておいた。
2)「Crepuscule with Nellie (Take 2) 」
同じコルトレーンからみのセッションで、「Crepuscule with Nellie」という曲が何回か演奏されているが、LP「Monk's Music」に収録されたのがモノラルの「Take 6」というもの。CD時代にこちらはステレオの「Take 4+5」がボーナス・トラックとして収録されているが(※1)、実はこの曲は前日6月25日のセッションで3回も演奏されており、どうやら結局モンクはこれらに満足せずアウト・テイクとしていた。このうち「Take 1」および「(Breakdown)」という2つは、コンプリート・セットに含まれているが、なぜか「Take 2」のみはその中には見あたらない(「Crepuscule with Nellie (Take 2) という曲が確かにあるが、これはモンクがイタリアでのライヴで演奏したもの)。探してみると、「Complete 1957 Riverside Recordings」と題した2枚組CDに、メンバーの会話から始まる「Take 2」が含まれており、これもこちらで補っておいた。
3)「Abide With Me (Take 1)」
この曲は、もともとがセロニアス・モンクならぬウィリアム・ヘンリー・モンクという人が作曲した曲で、我が国では『日暮れて四方は暗く』(讃美歌39番)として知られている。バッハのコラール集などのように4声部のパートに分かれていて、これをレイ・コープランド(tp)、ジジ・グライス(as)、コールマン・ホーキンス、ジョン・コルトレーン(ともにts)のホーン・セクションの4人が演奏している。モンク(ピアノ)は参加していないが、「Monk's Music」というLPの冒頭に置かれ、1分弱のごく短いものながらとても異彩を放っている。この曲の別テイク「Abide With Me (Take 1)」が、やはり「Complete 1957 Riverside Recordings」にしか収録されておらず、これもこちらから加えてみた(両テイクとも、1957年6月26日の演奏)。
4)「Theronious」
「The Thelonious Monk Orchestra at Town Hall」というLPの冒頭にこの曲が置かれているが、それはオリジナルLPでは55秒というごく短いものだった。今回のコンプリート・セットには、同じ演奏者たちによる3分4秒のテイクが入っているが、55秒というタイムを持つバージョンはない。調べてみると、今出されているCDでは、すべて長い3分4秒のテイクに置きかえられている。おそらく、であるが、この長いテイクの冒頭55秒あたりで曲冒頭のテーマ提示が終わるので、そこで切ったものがLPに使われたのではないか。こちらについては今度、中古LPを手に入れて確認してみたい。
※1 実は「Monk's Music」の「Crepuscule with Nellie」にはもう一つミステリーがある。私が所有している「Monk's Music」のCDは1999年に紙ジャケット仕様で出たものだが、2011年にOJCバージョンとしてジャケットの左端にオレンジのラインを入れて復刻されたCDには、テイクの扱いが上記2)(私の持っているCD)とは逆になっているという。つまり、ステレオの元「Take 4+5」がトラック6に「Take 6」と名前を変えて置かれ、ボーナス・トラック扱いのトラック8にモノラル音源の元「Take 6」が「Take 4+5」として置かれているらしい。どういうことだろう。それを確認するためだけに、また同じ盤のCDを買うのもどうかとは思うが、このOJCバージョンには「Blues For Tomorrow」という曲が最終9トラック目に追加されているのが目を引く。これは先ほどから何回も登場している1957年6月25日の「Crepuscule with Nellie」セッションにおいて、モンク抜きで演奏されたという珍しいもの。こちらは、「Thelonious Monk - The Complete Riverside Recordings」や「Complete 1957 Riverside Recordings」にも収録されているのだが。
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