2022年4月16日 (土)

「ウポポ」とはどういう音楽か?

 「土曜日の朝は、FM日和」。家事をこなしながら、あるいは仕事等で移動の途中、NHK-FM をずっと流している。番組的にはピーター・バラカンの「ウィークエンドサンシャイン」(7:20~)、ゴンチチの「世界の快適音楽セレクション」(9:00~)、最後に「邦楽百番」!(11:00~)という具合で、日頃あえて聴かないジャンルの音楽をたっぷり聴けるのは、何よりもうれしい。

 中でも「世界の快適音楽セレクション」は、「燃える愛の音楽」とか「ミラクルの音楽」といった1番組1テーマをもとに、クラシックも含む様々なジャンルの曲を20曲近くかけるという、まさに音楽好きのための番組。これは毎週、聴き逃せない。ところで番組の最後の方には、最新の音楽を紹介するコーナーがあって、今年1月末の番組で流れたのは「ハララルデ~ミトゥヌハチ~マイナルハトゥティ」という3曲。『ハララルデ~与那国のわらべうた~』(リスペクトレコード RES-337)からの紹介で、歌っていたのは太田いずみ、与那覇桂子、与那覇有羽の3名だった。「わらべうた」というにはなかなか味があって、音楽として十分楽しめる。どこかしら「なつかしさ」も感じられる温かい音楽だ。特に与那覇有羽さん(男性)は、他の女性2人に比べて一見素人ぽいのだが、それが平均律の音程とは微妙にずれている点も含め興味深い歌いぶりだ。短いが、このCDのPVビデオがあったので、下記にリンクを貼っておく。


https://www.youtube.com/watch?v=98UAADEQe_4

 一方、話は南の果てから北の果てに。昨年秋だと思うが同じ NHK-FM の番組「エキゾチッククルーズ」で、サラーム海上さんが担当の「伝統音楽の迷宮」を聴いた。リスナーのリクエストに応えての選曲だったと記憶するが、そこで流れた曲はまさに衝撃的だった。アイヌにルーツを持つ Marewrew(マレウレウ)という女性4人組のボーカルグループの曲で、タイトルは「Sikata KuyKuy」。4人が「シカタ―、クイクイ、ウーパス、ホンネー、ルーケェ、ハチナ(以上、カナは筆者の聞きなし)」という節を1拍づつずらし歌っていく。一種の輪唱のようでもあるが、音程は高く終わるものと、低く終わるもの2種があって、高く終わると次の歌い出しは高く始まる。で、次は低く終わり、次を低く歌い出す。で、次は高く終わり・・・という繰り返し。簡単に言えば、ライヒなどのミニマル・ミュージック、そのままである。これは、アイヌの伝統音楽そのままなのだろうか?

 この曲の動画はないようだが、たまたま2年前にネットドラマのエンディングテーマとして使われたという「Sonkayno」という曲のビデオを見つけた。曲の雰囲気はわかっていただけると思う。

https://www.youtube.com/watch?v=WokvUb-SQo0

 「コトバンク」によれば、「アイヌ民族の音楽において最も重要で数が多いのは,祭りに関係して歌われるウポポとリムセである。ウポポは大勢が輪になってすわり,行器 (ほかい) のふたを軽くたたき拍子をとりながら歌うもので,少しずつずれて歌い継いでゆく独特の演唱法に特徴がある。」とのこと。一方、マレウレウのプロフィールは、「アイヌの伝統歌「ウポポ」の再生と伝承をテーマに活動する女性ヴォーカルグループ。さまざまなリズムパターンで構成される、天然トランスな感覚が特徴の輪唱など、アイヌROOTSのウポポを忠実に再現する貴重なアーティスト。」と紹介されている。なので、これらを見る限り「Sikata KuyKuy」や「Sonkayno」は、まさにそうした「ウポポ」そのものの再現なのだろう。

 アイヌ文化は12、13世紀に遡ると言われているらしい。ミニマル・ミュージックは前世期中葉に登場するので、どちらが古いかはもはや議論する気にもなれない。かなり以前の話になるが、西村朗氏の『ケチャ~6人の打楽器奏者の為の』を実演で聴いて、「こんな音楽があるのか」とひどくびっくりしたものだったが、のちにそれがインドネシア・バリ島の民族音楽「ケチャ」とそっくりだったので、それ以上にまたびっくりしたことがあった。同じように、ライヒの『クラッピング・ミュージック』などはアフリカ・ガーナのドラミングのリズムをモデルにしているというような説明を聞いたことがある。が、「ウポポ」のほうがずっとミニマル・ミュージックぽいのではないだろうか。もし、「ウポポ」について詳しい方がいらっしゃったら、参照すべきサイト情報などぜひご教授いただきたい。

 上記の「Sikata KuyKuy」は、『mikemike nociw』(Tuff Beats/Chikar, StudioUBCA-1065)というCDに入っている。

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2022年3月 2日 (水)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その9・シューベルト9)

 シューベルトの交響曲第9番(第7番)『グレイト』も、フルトヴェングラーの得意な曲の一つで、後年、一段と円熟したスタジオ録音も残している(ドイツ・グラモフォン)。こちらの戦時録音は1942年5、6月、あるいは12月のライヴで、より若々しい、動きの大きい表現を見せている。第4楽章の推進力は、まったく見事なものだ。ところで、この音源には以下の問題がある。一つは、第2楽章が途中、第250小節の全休止の部分で盤の切り替えがあること。つまり、このLPを元に復刻する限り、休止部分の間合いが再現できない。また、第3楽章の最後の和音が短く切れている点も、割と目立つ瑕疵だ。前者については、復刻盤CDによって休止の長さはまちまち。しかしどの盤が正しいかは不明なので、以下の文章では特に触れていない。後者については、特に断らない限り、短く切れていると思っていただきたい。

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 レコード番号は、33D010033/4 。「プリ・メロディア盤」としてはアコード盤が出ているが、これについては MYTHOS から復刻盤が出ている(NR-9006 GH Gold)。アコード盤の板起こしは珍しい。やや高域寄りの明るく鮮烈な音質は、そのアコード盤由来だろう。迫力も十分だが、強音部を中心にやや「ガサガサ」と荒れ気味ではある。針音(元LPの傷も含む)も盛大だ。ただこのCD-Rは、面白いことに原レコード盤のままトラックが切ってあるので、第2楽章は2つに分かれている(結果、全5トラックになっている)。これはこれで、ある意味、「正しい」処置だ。

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 さらに Grand Slam も、うれしいことにアコード盤を元盤に使っている(GS-2101、2013)。製作者の平林直哉氏のコメントは、「メロディア盤からの復刻はすでにいくつかのレーベルで出ているので、当レーベルでは制作にあまり力を入れてきませんでした。しかし、ファンからのご希望が多いので、今後は順次発売していく予定です。まず、シューベルトは1960年前後に製造されたアコードと呼ばれるレーベル面のLPを復刻の素材としました。これは最初期ではありませんが、盤質が安定していて音も明瞭と言われているものです。」。同じアコード盤を復刻に使ったとはいえ、こちらは低音寄りの音作り。まったく針音なしとはいかないが、この盤はスクラッチ・ノイズの少ないことで評判である下記の Delta 盤よりも静かなくらいだ。「ラ・ヴォーチェ京都」の永井琢也氏所蔵の盤だというが、余程状態の良い盤だったのだろう。

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 この『グレイト』にはいわゆる「VSG盤」もあって、同じ MYTHOS から復刻盤が出ていた(NR-5006 Gold)。音出しが強いのは上の NR-9006 GH と同じだが、こちらの方が復刻に使った盤の状態が良く、針音も少ない。このレーベルとしては音自体ややおとなしめで、音楽に余裕がある。

 一方、Delta 盤の使用盤は「青色大聖火盤ガスト56」との記載がある。「サー」という継続ノイズはあるが、いつもどおり余計な色はつけず、真面目かつ清潔な復刻。また同じ「青トーチ盤」からの復刻に、OPUS 蔵盤がある(OPK-7010)。毎回指摘しているように、低域を上げ高域を下げるというイコライザーをかけたかのような音質ではあるが、少なくともスピーカーで聴く限りいつもの OPUS 蔵盤ほどこもった音になっていない(元盤の音質自体が、ややハイ上がり気味なのかもしれない)。スクラッチ・ノイズも非常に少なく、MYTHOS 盤等がやりすぎと思う人にはぴったりくるだろう(注1)。

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 真正メロディア盤には、いつものようにピンク・レーベル(モスクワ・アプレレフカ製)がある。こちらは、そのうちの GOST61 盤。マトリックスは両面が「1-1」で、「プリ・メロディア盤」と同じである。

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 アリア・レーベルからこのピンク・レーベルの GOST61 からの板起こし盤が出ている(AR-0016)。「ARDMOREの復刻は秀逸。今回は5回目のリマスタリングで満足行く結果が出た。この重量感、この存在感。すごい。」。コメントどおりの音。最初、ブラインド・テストをしたときに、かなり低音が強かったので、こちらが OPUS 蔵盤かと思ったくらいだ(失礼!)。これは、メーカー側の説明にはないが、元盤よりピッチ・速度を落としている関係だろう(注2)。この処置は、どうだったか。確かに1951年の同曲のセッション録音と比べると、このメロディア音源のピッチは若干高めである。しかし、このアリア・レーベル盤は、そのDG盤よりもさらにピッチを下げている。「第3楽章の最後の余韻はオリジナル盤(初期メロディア盤)ではカットされているのですが、今回の復刻では修正が施されています。」とのこと(注3)。

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 こちらの写真は、やはりアプレレフカ製の GOST68。こちらもマトリックスは両面とも「1-1」で、盤質が上がっているのか、聴いてみるとスクラッチ・ノイズもかなり少ない。

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 こちらの写真のイエロー・レーベル(レニングラード製)は、GOST73 である。なんとこちらも両面「1-1」のままである。

 さて、Serenade レーベルの板起こし盤(SEDR-2010)については、製作者の平林直哉氏がこう注釈している。

「このCDRはメロディアのホワイト・レーベル(シューベルト)、ピンク・レーベル(R.シュトラウス)から復刻したものである。ホワイト・レーベル、イエロー・レーベル、たいまつレーベルは1950年代後半から1960年頃に製造されたもののようだが、それぞれについての詳細は明かではない。一方、ピンク・レーベルは1960年代から1970年代初頭にかけて製造されたようである。いつ頃製造されたものが、あるいは何色のレーベルのフルトヴェングラー盤が最上の音質かについては諸説あるが、少なくともこの復刻盤では現時点で望みうる最上の音質で楽しめるように心がけている。  【平林直哉】」

 ここで平林氏が述べている「ホワイト・レーベル」が何かということだが、「1950年代後半から1960年頃に製造された」とし「イエロー・レーベル」(=おそらくアコード盤)、「たいまつレーベル」と並べているところを見る限り、「プリ・メロディア盤」の中の白いラベルの盤を指してそう呼んでいるように思える。が、この項の(その3)で取り上げた同じ Serenade レーベルの第6番《田園》(SEDR-2009)では、GOST73 以降の盤を「ホワイト・レーベル」と呼んでいる。また、ベートーヴェンの第4番の Serenade 盤(SEDR-2008)についても「ホワイト・レーベル」を復刻に使い、さらに「全楽章ともに聴衆入りのライヴ演奏」と説明しているので、これは明らかに GOST73 以降の盤のことを指してそう呼んでいる。なので、こちらも真正メロディア盤の可能性が高いと言える。その傍証として、最初に触れた第3楽章の最後の箇所が挙げられる。というのも、この「33D010033/4」の場合、GOST73 の途中で上記第3楽章最後の終結和音の切れが<修復>されている(この部分、後付けのような響きが若干しないでもないが、これ以下の盤にすべて共通)。

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 こちらがその「ホワイト・レーベル」盤の実例。上が、レニングラード製の GOST73。下が、モスクワ製の GOST80 で、マトリックスはともに、A面が「1-2」B面が「4-2」と変わっている(注4)。マトリックスが両面「1-1」の盤と比べると、ごくわずか背景音等がマスクされた感じがするか。これらのうちのどれかを復刻した Serenade 盤は、あいかわらず出音レベルが高く、バックグラウンドには低いブーンという音が入っているためか、音がやや重く感じる。なお、平林氏が監修している DREAMLIFE 盤も、第3楽章最後の終結和音の切れが<修復>されているので、同じ盤を使った可能性が高いだろう。音の傾向もほぼ同じ。

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 この曲にも、日本に輸入された黒レーベル盤が出ている(M10-10033)。写真の盤のマトリックスは、A面が「1-3」B面が「1-3」。同シリーズの他盤と同じで、スクラッチ・ノイズは実用上、皆無に近い。一部の黒レーベル盤にあるデジタル臭さも抑えられていて、非常に聴きやすい盤だ(注5)。第3楽章の最後は、修正済み。

(注1)一般に広く販売されたものではないが、日本フルトヴェングラー協会の会員頒布資料として、青トーチ盤を使った板起こし盤を出していた(WFJ-23 『大戦下のフルトヴェングラーとベルリン・フィル』、2003)。こちらは浅岡弘和氏の所有盤からの復刻とのこと。状態の良いLPをそのままストレートに復刻したようで、バックの雑音も極めて少ない。音質的には、Gland Slam 盤と似た感じ。もし中古で安く買える機会があれば、手に入れても損はないと思う。

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(注2)アリア・レーベルからの復刻盤で、これまで聴いたベートーヴェンの第5番交響曲、「第九」では、そうした明確なピッチ下げは行われていなかった。ちなみに僕が聴いた限りでは、Turnabout から出たLP盤(TV4364)は、このアリア・レーベル盤以上にピッチを下げている。
(注3)この GOST61 のピンク・レーベル盤を復刻した盤としては、以前、OTAKEN RECORDS からCD-Rによる復刻が出ていたようだ。
(注4)この原盤変更を GOST80 からとしているサイトもあるが、実際の変更時期は GOST73 の途中からのようだ。
(注5)こちら黒レーベル盤についても、(注3)同様 OTAKEN RECORDS から、CD-Rによる復刻が出ていたようだ。

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2022年2月19日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その8・ベートーヴェン9続き)

 さて、今回は前回の続きで「ベルリンの第九」の真正メロディア盤を聴いていく。以下の写真は GOST61 のアプレレフカ(モスクワ)盤。

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 第1楽章の初めの方で、数カ所で傷による雑音(1箇所は針が飛ぶ場合あり)が入るというので非常に安く買ったものだが、他の面のコンディションは良好だった。僕がこれまで聴いてきた「ベルリンの第九」と言えば、フィリップスの廉価版LP(>>こちらを参照)、あるいは学生時代に買った1枚組のエヴェエスト盤LPだったが、それらに比べると実にすっきりとしたきれいな音で、初めて聴いたときには本当に驚いた。マトリックスは、「A面2-1・B面2-1・C面2-3・D面2-2」であり、これは前回紹介した OPUS 蔵盤のライナーノーツに記された「(2枚目が GOST61 )の青トーチ盤」と同じである。このLPの第4面は全編「ハイドン・ヴァリエーション」なので、「第九」に限るなら原理的には前回取り上げた「プレ・メロディア盤」と同じマスターからできていることになる。それでいて、バックのノイズは非常に低く、僕の視聴環境では正直、CDより済んだ音がする。

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 会員制CDショップ「アリアCD」のCD-Rレーベル「アリア・レーベル」に、この GOST61 盤から復刻された盤がある(AR-0022)がある。やはり雑音は少なめで、元LPと音色感は合っている。ただし、第2楽章の始めあたりの強音部では、歪みが目立つ。いくら60年近く経ったレコードとは言え、LPではそういうことはないのだが。
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 一方、あまり数は見ないが、レニングラード製のイエロー・レーベル盤もある。この上の写真の盤は GOST68。こちらは製造工程が改善されたのか、盤質由来のノイズはかなり少なくなっている。

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 こちらも GOST68 だが、アプレレフカ(モスクワ)製。例によって若干、ザラザラ感が残る盤。これらの盤のマトリックスは、「A面2-2・B面2-2・C面2-3・D面2-2」なので、1枚目は上記の盤より番号が上がっている。そのためか僕の所有する盤では、GOST68 の方がほんのわずかに音が重い感じはある。ただ、「そもそも『第九』に関しては、Gost-56・61とGost-68とは大きな音質の違いがあって、比較すると、Gost-68は音の豊かさがかなり失われている。」というようにおっしゃる方もあるが、これまで聴いてきた曲でも GOST68 で急に劣化しているという印象は少ない。使う針を選べば十分深い音だと思う。

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 また GOST68 盤は、より古い版に比べ当然ながら状態が良い盤も多い。なので、それを復刻に使ったものがいくつかある。まず Serenade 盤(SEDR-2004、2002)。GOST 番号については記載がないが、パックインレイに記載されたレーベル写真(一部)で、GOST68 であることがわかる。ライナーノーツには、こうある。

「ブラームスの第4(SEDR2003)は〈たいまつレーベル〉であるが、この第9は〈ピンク・レーベル〉である。未確認の情報によると、この第9もまた〈たいまつ〉が最も鮮明な音質らしいが、それを確認する手だては今のところ全くない。本来であれば〈たいまつレーベル〉のLPも入手し、この〈ピンク・レーベル〉と比較して、良い方を出すべきであろう。だが、いくら〈たいまつ〉とはいえ、やはり問題なのは保存状態である。つまり、保存状態の良くない〈たいまつ〉と、状態の良い〈ピンク〉となると選択はむずかしくなるだろう。」

 しかもこの復刻に使われた盤は元々は「海外の倉庫に眠っていた手つかずの、つまりは全くの新品」だっただそうで、「従って、現時点でこのCDRは当時のメロディアの第9の音を偲ぶには最適な資料となりうる、このように考えて復刻を決意した次第である。」とのこと。相変わらず出音レベルは高く、それに伴いやや音が歪む箇所もあるが、(その6)で聴いたブラームスの第4番と同じくこのレーベルの初期のものなので、決してやり過ぎてはいない。ミント盤だったとあって針音も少ない。他に Serenade 盤を出している平林直哉氏がプロデュースした DREAMLIFE 盤(DLCA-7005)がある。こちらの使用盤表記には「D10851〜3」とだけある。詳細は非公表ながら、同シリーズのシューベルトの交響曲第9番の巻(DLCA-7010)のライナーノーツに、「このシリーズのDLCA-7005に使用したLP」として、Serenade 盤と同じ真正メロディア盤のジャケット写真を載せている。SACD層で聴くとさすがに音に余裕があるし、やや落ち着いた雰囲気の好復刻になっている。

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 GRENNDOOR 盤もこの GOST68 を「メロディア盤の中でも音質の一番良い68年プレス盤」として、原盤に使っている(GDCL-0016)。解説の桧山浩介氏は、この「第九」の録音が「演奏を記録したマグネトフォン録音としては最初期のものにあたり、そのために復刻に際してはもっとも慎重な作業が求められるものの一つである。」と書いている。具体的には、レベル変動、音とびの修正、コンプレッサー処理の結果生じている全体にわたるダイナミックレンジ幅の補正、そしてピッチについての配慮などを上げている。その上で、この修正には「作業者の音楽一般についての素養や音楽性、さらには「第九」そのものについての楽曲上の知識など、さまざまな条件に恵まれた時にはじめて満足できるものが出来上がる困難な作業であろうが、おそらく20種類は優に超えるであろう大戦中の「第九」の復刻CDのなかで、このCDはこれらの条件がもっとも理想的な形で仕上がったものとして高く評価いたしたい。大戦中のフルトヴェングラーに関するドキュメントとして最上位に位置付けられるものと確信する。」と書いている。で、実際の音はどうか。音はこもっており、ガヤガヤというバックの雑音も大きいので、会場の音がマスクされた感じになる。第2楽章の冒頭など、かえってダイナミックレンジ幅が狭まって、平板にならされているような印象だ。GOST68 自体は、大変素直な音なのだが。

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 他にこの「第九」にも、日本に輸出された新しい黒レーベル盤がある(M10-10851)。

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 OTAKEN レコードから、この盤を使った復刻盤がある。このレーベルの主宰者・太田憲志氏は、以下のように書いている。

「『当CDの音源を提供して下さいましたのは、皆様よくご存知の音楽評論家、小石忠男先生です。ソ連邦崩壊と前後して、メロディア社からフルトヴェングラ-の多くの戦中録音がLPレコードで復活したのは、私どもの記憶に新しいところですが、そのためにご尽力されたお一人が、、他でもなく小石先生その御方であられたそうです。(中略)ただM10シリ-ズと言われる本シリーズの復刻となると、少々疑問に思われる方もあるやも知れません。かく言う小生も先生からこのシリーズを譲り受けた時、ありがたい気持ちと同時に、正直戸惑いを覚えたのも事実です。ところが聴いてびっくり玉手箱!何とこれらのレコードはクリアーに鳴り響いていることでしょう!小生手持ちの同シリーズの何点かと聴き比べても明らかに違うのです。早速先生に問い合わせたところ、今回ご提供いただいたレコードは、このシリーズ用に新たに製作されたメタル原盤からのファーストプレス品だからではないか、とのことです。ならば、アナログレコードは、製造ナンバーが若いほど高密度、高精度なのですか?とお聞きしましたところ、間違いなくそうです、とのことでした。」

 黒レーベル盤の音は、「プリ・メロディア盤」等とは若干変わっているが、一般的にはこの盤の方が一皮向けた音だと思われるだろう。この項の(その7)で紹介した平林氏のコメントにもあるように、この曲の第4楽章、特に後半は、どうしても歪みが多くなり、ピッチも下がり気味になる傾向にある。その中で、この後半部分は、この盤が一番鮮明に聴こえる。黒レーベル盤については、いろいろマイナス意見もあるが、「第九」については、かなりアドヴァンテージがあるということだ。OTAKEN 盤も雑音は少なく、デジタル風。高弦が金属的に響くが、「黒レーベルらしく」は仕上がっている。

 第2楽章の初め、1分52、53秒あたりの音飛びだが、今回聞いた中では、Serenade 盤と DREAMLIFE 盤は未修正で、それ以外の盤では修正しているようだ。

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2022年2月12日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その7・ベートーヴェン9のプリ・メロディア盤)

 フルトヴェングラーと言えば、「第九」。「第九」と言えば、フルトヴェングラー。という具合で、この巨匠の数ある同曲演奏はある意味、神格化されている。戦後の雄大なスケールを誇る諸演奏と比べ、こちらの戦時演奏(1942年3月録音)は、迫力と緊迫感に満ちたドキュメントとして、極めて聞き応えがある。ただし、この「ベルリンの第九」のような演奏を好んで何度もくりかえし聴くというようなことは、あまり相応しい行為とは言えないのかもしれないが・・・

 この項では、フルトヴェングラーといえども海外のサイトで買えるメロディア盤は、それほど高価ではないようなことを書いていたが、さすがに「第九」は別格。「プレ・メロディア盤」ともなると、大概10万円コースとなる。申し訳ないが今回は紹介できるLPを僕も持っていなくて、「そういう曲こそ板起こし盤の出番!」、と悔し紛れに言ってみるほかない。レコード番号は、「33D-10851/4」で、2枚組。最後の4面めには、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」(1943年12月録音)が入っている。さて、この曲にもメロディア社に統一される前の「ВСГ(VSG)」が出した「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」、いわゆる「VSG盤」がある。非常に希少な盤だが、VENEZIA、Delta、MYTHOS、そして Grand Slum といった有力メーカーがそろって復刻盤を出している。

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 このうち VENEZIA 盤(V-1019)は、「復刻には、音楽評論家の浅岡弘和氏の所蔵する盤が用いられ、音量調節やフィルター等のマスタリングは一切行わず、オリジナル性と鮮度を保った復刻となっている。」とのこと。その言葉を丸ごと信じたくなるほど、自然な音だ。針音は多いが、盤に刻まれた音がいかにすばらしいかを想像させてくれる。一方、Delta盤(DCCA-0004/5)も評判の高い復刻で、バックグラウンドにわずかに(針音とは別の)サーというノイズが入るものの、音の解像度は非常に高い。

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 一方、MYTHOS 盤(NR-ZERO1&2 Gold)は、音量レベルが高く、臨場感・迫力は一番高い。針音、バックの暗騒音は極めて大きいし、最強音では歪みも出るが、まさにその場に立ち会っているような感覚が味わえる。こうした華のある復刻が好きな人もいるだろう。

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 また、Grand Slam 盤は、製作者の平林直哉氏が「ラ・ヴォーチェ京都の永井さんからお借りした。」という盤を使っている(GS-2090、2012年)。復刻時にはかなり苦労されたことが、平林氏の著書『フルトヴェングラーを追って』(青弓社・刊)に書かれている。特に「問題は第四楽章である。外周はほぼ問題ないが、内周にいくにしたがってレベルは少しずつ下がってくるし、音像は甘くなり、ダイナミック・レンジも狭くなってくる。」という。またCDのライナーノーツでは、メロディア盤LPのイコライジングについて次のように述べている(注1)。

「 メロディアの初期LPがどの周波数特性を使用していたか、これに関する情報は全くない。このディスクに使用したVSGレーベル盤は1950年代終わりから1960年代初頭のプレスと思われるが(メロディアのフルトヴェングラー・シリーズは1959年が最初と言われる)、再生してみると、RIAAでもそれほど違和感はない。しかし、乏しい情報を整理し、実際に試してみたところ、オールド・コロンビアが最も近いと思われた。従って、このディスクではオールド・コロンビアを基準にリマスタリングしている。」

 ここで言われている「オールド・コロンビア」を「Columbia LP(Old-LP)」カーブとするならば、そのカーブは RIAA より低域の補正、高域の補正とも浅い(特に低域)のはず。つまり再生にあたっては、低域を多めに下げ高域もやや下げるという方向性になる。個人的には、それではより軽いすっきりした響きになると思うが、この Grand Slam 盤は先に挙げた3盤より心持ち低域寄りに聴こえる。逆に言えば、この Grand Slam シリーズの中では、比較的落ち着いた音調で好感が持てるが(注2)。

 アコード(レニングラード)盤にも GOST56 はあるが、例によって復刻盤はない。またリガ盤は GOST61 だけで、GOST56 はないと言われている。他の曲でよく復刻に使われる GOST56 の「(青)トーチ盤」は、この「第九」では OPUS 蔵盤があるのみである(OPK 7003)。ただしこの OPUS 蔵盤の復刻に使われた第4楽章、つまり2枚め以降は、GOST61 のラベルになっているという(注3)。かなりこもった音で復刻されており、低弦はボンついている。前回にも書いたが、おそらくイコライジング・カーブが他の盤とは違うのだろう。僕もメロディア盤のイコライジングの方向性としては、上記のコロンビア・カーブとは逆、つまり低音域をやや持ち上げる補正を考える人もいても不思議ではないが、この「OPK 7003」盤はいかにもやり過ぎのように思える。ちなみにこちらも、復刻したLP自体は、坊田信吾氏の提供とクレジットがある。このあたり希少かつ高価な盤だけに、メーカー側も盤の調達をコレクターに頼っているのがわかって、なんだかちょっとホッとした気分だ(笑)。

 最後に、一点だけ。このメロディア音源には、第2楽章の初め、1分52、53秒あたりに音飛びがある。今回聞いた中では、Delta 盤、OPUS 蔵は修正し、それ以外の盤では修正していない。

(注1)ちなみに、平林氏はのちに38センチのオープンリール・テープで同じ「ベルリンの第九」を復刻している(GS-2146、2016)。「当シリーズでは同一演奏をメロディアLP(VSGレーベル)から復刻したCD(GS 2090廃盤)を一度発売しています。LP復刻も独特の味わいがあり、どちらが良いかは簡単には言えないのですが、LPはカッティングの際にマスターの音をある程度加工しているので、このテープ復刻の方がより原音に近いと言えます。」との認識だった。
(注2)「プリ・メロディア」LP盤のイコライジング・カーブの関係だが、アメリカのレコード協会が RIAA カーブを正式に採用したのが1954年と言われている。すぐには各社に広まらなったという説もあり、ましてや冷戦時代のソ連がそんなに素直にこれに従ったとも思えない。では、RIAA カーブではなかったかと言えば、この項でも見てきたように GOST61 や GOST68 以降の真正メロディア盤にも「プリ・メロディア盤」と同じマトリックスを持つ盤が結構ある(ベートーヴェンの第5番、ブラームスの第4番、そして次回に紹介する「第九」の真正メロディア盤しかり)。マトリックスが同じで、イコライジングが違うなどということは、一般的には考えられない。これは僕には大いなる疑問だが、いずれ項を改めて考えてみたいと思う。
(注3)多くのプリ・メロディア盤、メロディア盤を所有されているこちらの方のブログにも、GOST56 と GOST61 とが混在する盤の存在について記述がある。また、OPUS 蔵盤のラーナーノーツによれば、使用盤のマトリックスは「A面2-1・B面2-1・C面2-3・D面2-2」とのこと。第3面までは、おそらく他の「プレ・メロディア盤」も同じ。また、第4面のマトリックスには「2-1」となっている初期盤もあるらしいが、この面は全編、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」が入っている。

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2022年2月 3日 (木)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その6・ブラームス4)

 最初にフルトヴェングラーのこのブラームス第4番の戦中ライヴ盤を聴いたときは、驚いた。第1楽章の提示部の途中で、どんどんとアッチェレランドしていく場面は、この巨匠でもこの時期にしか見せなかったまさに大胆な解釈だ。演奏自体も放送録音だったベートーヴェンの第5番あたりとは違い、フルトヴェングラーは思いの丈を曲にぶつけている。その意味では、板起こし盤の評価も少し変わってくるのかもしれない。ただ元々の録音の状態が、これまで聴いてきた曲と比べ少しだけ落ちる。主な点だけ挙げると、まず全体に「ブーン」という低い音が被っている。そのほか、B面の第3・4楽章は最初から終わりまですっと「パラパラパラ・・・」という遠くの空を飛んでいるヘリコプター音のようなパルス雑音が入っている(注1)。この2点はメロディアの初期LPを含む下記のすべての盤で聴くことができるので、マスターテープに由来するものだろう。この点は、あらかじめ断っておく。

 さて、この曲にもいわゆる「プリ・メロディア盤」がある。番号は「D-09867/8」。僕が実際に聴いたのは、レニングラード製の黄色いアコード盤で、盤質はそこそこ(細かな傷は多い)。ベートーヴェンの第5番等と比べても当時からあまり数は出なかったとみえて、オークション等でも余り廉価なものは見かけない(2万円以下では手に入らないだろう)。この盤の場合、レーベル面にハンコや落書きもあったので、そこまではしなかったが。

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 第5番でも触れたが、この時期のアコード盤は「プリ・メロディア盤」の中では盤質が良いものが多い印象だ。曲の印象的な始まりの部分で、弦の上がり下がりにも微妙な抑揚が感じられ、今まさにそこで演奏されているかのような臨場感が味わえる(これに比べると、多くの復刻版はのっぺりとした印象になっている)。先に述べたように、この曲では演奏の勢い・迫力も大事で、その点でもすばらしい。ただアコード盤を使った板起こし盤はまったくないのが実情で、少し残念だ。

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 最も初期の盤のひとつと思われるものとして、この曲には「VSG 盤」がある。メロディア社に統一される前の「ВСГ(VSG)」が出した「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」というレーベル表記を持つ希少盤だが、当然ながら僕は未収集。というか、メロディア盤収集歴の浅い僕などは、まだ一度も売られている現物に出会っていない。ただし、この音は VENEZIA 盤で聴くことができる。VENEZIA レーベルは板起こしとしてはパイオニアの部類だが、あまりデジタル的に音源自体をいじってないのか、素直な好復刻が多い。このブラームスの場合も、針音は割と多い方だが、曲冒頭の暗騒音の部分からメロディア盤の生々しい臨場感を一番よく伝えていると思えるのは、この盤である(V-1023)。邪道かも知れないけれど、僕はこのCDをリビングの 7.1ch システムで聴くのが、結構好きだ。

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 さらに板起こしで人気が高いのは、「トーチ盤」だろう。私自身は所有していないが、こちらにも複数の復刻盤があるので有り難い。このうち MYTHOS 盤は「青トーチ盤」を使用。僕が聴いたのはゴールド盤仕様のCD-R(NR-5016 Gold)で、これは情報量こそ多いものの、使用盤の関係か、第1楽章等の強音部で弦の音色がややザラザラと荒れていて残念だ。ただし、後半は持ち直しているし、演奏自体の荒々しい感じは良く出ている。OPUS蔵盤も「青トーチ盤」の復刻(OPK 7012)という。例によってややこもった音質になっていて、低音部はボーボーと鳴っている。僕はこの一連の項を書くにあたって、音質判定が盤のレーベル名に左右されないように、往年のパイオニア製の6連CDプレーヤーを復活させて、ランダムプレイをかけて追加確認している。OPUS蔵盤はこの簡易ブラインドテストでも、いつも一発で判定できる。無論、派手派手しいテープ音源盤等よりずっとマシだが、想像するに元LPはもっと澄んだ音のはずである。このレーベルはほとんど同じような音作りなので、プリ・メロディア盤を復刻する時に使用するイコライザー・カーブが、他レーベルとは違うのだろう。一度、設定データを聞いてみたい。

 一方、Delta 盤は「紫色大聖火(トーチ)盤」を使用している(DCCA-6008)。いつもながら針音の少ないすっきり系の音で、聴きやすくはある。が、静かな部分でかすかにサーという音が聴こえているし、全体に音楽がやや平板化されている感じがする。さらに、平林直哉氏の手になる Serenade レーベルにも、「たいまつレーベル」(青トーチ盤)からの復刻がある(SEDR-2003)。これは針音は少し残るが、平林レーベルの初期ものだけに、盤の音情報をそのまま伝えるなかなか筋の良い復刻だと思う。上記 VENEZIA 盤に迫っている。例によって DREAMLIFE からは、同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7008)も出ている。パックインレイに記されたレコード番号は「D09867〜8」となっているが、使用盤は非公開。下記で紹介する同じ平林氏のレーベル Grand Slam 盤では、より後期の真正メロディア盤を使っているが、盤表面の針音の感じだと、このSACDはプリ・メロディア系の盤から音を取った可能性が高いように思うが、どうだろう。いずれにせよ Serenade 盤よりやや整音されているが、このシリーズでは成功した方だと思う。

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 GOST61 以降の真正メロディア盤は、例によって各時代で何種類も出ている。このうちイエロー・レーベル GOST61 のレニングラード盤は、「プリ・メロディア盤」と比べほとんど遜色のない盤だと思う(2枚あるうち、下のものは若干パチパチノイズが多い)。とはいえ、海外のショップでは3千円もしなかった。いわゆる「Записано ВСГ / GOST61」表記も付いているが、これはあくまでレニングラード製であって、VSG製ということはありえない。にもかかわらず、これを「プリ・メロディア盤」のVSG盤と同じ種類だとしたり、共産党幹部用の特別仕様盤などと言っているのは、日本の一部の人だけではないかと思うが、どうだろう。

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 こちらはピンク・レーベルの GOST68 と、同 GOST73 の2枚である。ピンク・レーベルの復刻には、平林氏のレーベル Grand Slam 盤(CD)がある。盤の選択について平林氏は

「フルトヴェングラー/ベルリン・フィルの戦時中のライヴ録音の中でも、最も濃厚、強烈と言われる演奏を1枚に収めました。2002年、同内容の CDR(Serenade SEDR-2003)を発売しましたが、今回のGS-2107ではその原盤を流用せず、全く新規に作り直したものです。CDRはたまたま集まったLPから復刻しましたが、今回のマスタリングでは複数のLPを比較試聴し、最上の結果が得られたものを選びました。」

と書いている。実際に、上記「VSG盤」、そして SEDR-2003 の復刻でも使った「青トーチ盤」、さらにフランス協会盤と聴き比べた結果、あえてこのピンク・レーベル盤、しかも GOST73 を選んだという。確かに盤の状態が良いことも幸いしてか、解像度・SN比は高い。相変わらず録音レベルが高いのは玉に瑕だが、ベルリン・フィルの高弦の美しい伸びが良く出ている(僕の GOST73 盤のマトリックスも、「プレ・メロディア盤」から共通の「1-1/1-1」だ)。

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 ほかにホワイト・レーベル(GOST80)も手元にあるが、驚くべきことにこちらもマトリックスは「1-1/1-1」。原理的には初期盤と同じ音が入っていてもおかしくない。実際に聴いた感じも、明確な音の劣化というものは感じられない。

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 さらに日本にも輸入された黒レーベルの方も手に入れやすいが、こちらのマトリックスは、A面3-2、B面1-2と番号が上がっている。A面を聴くと、確かにやや鮮明さがなくなっている感じはある。その意味では、上記メロディア盤の GOST68・73・80は、海外では千円台でも普通に買えると思うので、お買い得と言えるだろう。

(注1)このパラパラ音は、元のLPでは第3楽章と第4楽章の曲間にも入っている(おそらく音源自体も、両楽章で切れずにつながっている)。CD化の際には、この曲間部分に無音部分を入れる関係で、第4楽章の曲頭からパラパラ音が聴こえる盤と、聴こえない盤がある。shin-p氏はこのことから以下のように推察されている。「メロディア盤などでおなじみのブラームス/交響曲4番は42年6月21日録音ではないかという意見がある。メロディアCDでは42/06/21とクレジットされている。shin-pは1,2楽章が43年で3,4楽章が42年録音ではと推察している。録音状態が前半と後半であまりに違うからだ。」(「フルトヴェングラー資料室 WF Archives1942-5」

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2022年1月30日 (日)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その5・ベートーヴェン5続き)

 前回の続き。無論、この交響曲第5番の1943年録音にも、GOST61 以降のいわゆるメロディア社になってからの諸盤がある。今回はそれらを順次、紹介する。真生のメロディア盤には、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンク・レーベルと、レニングラードでプレスされたイエロー・レーベルがある。

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 これらのイエロー・レーベル2枚は、いわゆる「Записано ВСГ / GOST61」表記の盤。最近、動画サイトで、某ベストセラー作家の方がこの盤をもらったことを興奮気味に紹介されていた。これを「VSG盤」と呼ぶかどうかについて僕の考えは、この項の(その2)に書いたが、これは見てのとおり正真正銘の「アプレレフカ盤」。上の「Записано ВСГ」という表記は、単に「VSG原盤」あるいは「VSG工場での製盤」というだと思う。ちなみにこれらの盤を、ロシアのショップ等で「VSG盤」などとして高く売っているようなことはない。上の盤は、まったくの無傷・ミント盤ながら24ユーロだった。

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 上の写真の盤はともに GOST68 だが、盤質もかなり良く、(その1)で紹介した「プレ・メロディア盤」や GOST61 盤と比べても特に劣化した感じはしない。ちなみにこの2盤は、マトリックスはA面・B面ともに1-1で、以前のままだ。

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 まず最初に取り上げる板起こし盤は、GREENDOOR 盤(GDCL-0017)で、CD自体には元LPの情報は記載されていないが、発売元HPの記載やCD帯には、「本CDは、メロディア盤の中でも音質の一番良い68年プレス盤より復刻を行った。」旨の記載がある(ジャケットのデザインから判断するに、レニングラード盤だろう)。かなり音量レベルが高い復刻で、低音もブーストされている。聴き応えはあるが、メロディア盤の音としてはどうか。(その1)の注にも書いたが、同じ GREENDOOR レーベルのベルリンの「第九」盤等でも、桧山浩介氏によるライナーノーツ「大戦中のフルトヴェングラーの演奏とその録音をめぐって」で、「レベル変動の修正」「コンプレッサー処理の結果生じている全体にわたるダイナミックレンジ幅の補正」「ピッチについても配慮が必要」と書かれている。確かに、古いLP自体が演奏のダイナミクス等を忠実に記録していることはあり得ない。レベルを上げ下げしたり、コンプレッサーをかけたりすることは、ダイナミックレンジが狭いLPでは必ず必要な作業だ。ただしどれだけ処理を加えたかまでは、今となってはどこにも記録されていないはず。「40年代の録音時にエンジニアの行った不自然なレベルの上げ下げを可能な限り修正し、聴きにくかった演奏をもとに戻したテイク(GDCL-0017の帯解説)」と言いながらも、結局は復刻担当エンジニアの胸先三寸で、レベル調整やトーン・コントロール等のスライダーを上げ下げしているとも言える。「自分はフルトヴェングラーの演奏を隅から隅まで知り尽くしている」というような思い込みが強くないと、そういうことはなかなかできないはずだが・・・。むしろ、この GREENDOOR 盤は、冒頭から大音量で始まる。まさにコンプレッサー処理をかけ直したというような音作りだ。

 また平林直哉氏のCD-Rレーベル「Serenade」にも、ピンク・レーベルの復刻とされている盤があった(SEDR-2011)。こちらも、「いかにも」という派手な音が入っている。ただし、GREENDOOR 盤よりは高音寄りの音。GOST 番号の記載はないので、どの時代の盤を原盤に使ったのかは不明だ。だが、ネット上の先達の皆さんによる調査は、非常に素晴らしい。それによれば、この第5番のメロディア盤は、GOST68 の途中でレコード番号が「33HD-05800/1」と新しくなっていて、それを判定できる箇所があるという。

「メロディアの初期の盤以外のLPとCDでは,エコーを加えているほか,第1楽章の443~4小節を編集で別の演奏と入れ替えており,急に音調が変わるので違和感がある。」(加藤幸宏氏のHPサイト「Classical CD Information & Reviews」)(注1)
「ただ最後期の黒レーベル盤は、マトリクス番号も33ND05800 1-3、33ND05801/1-4と変わり、音質が相当劣化したばかりでなく、第1楽章第442-443小節に突然別の演奏が混じり込むなど、大変ひどいことになってしまいました。」(Facebookページ「ウィルヘルム・フルトヴェングラー研究」2021年8月14日における末廣輝男氏の発言

 この情報をもとに Serenade 盤を聴いてみたが、確かにエコー成分はこれまでの盤より多め。また第1楽章の上記の個所に来ると、2小節分だけ急に重々しい音質に変わっているのがわかる(タイム表記だとおよそ7分15秒前後)。が、これを「別の演奏」の差し込みとするかどうかは、異論もあるようだ。

「会議室におけるWF氏清水氏などの書き込みによれば、メロディア盤には「ガスト73」規格以降のLP/CDは1楽章7'07"付近に音の間延び現象があり、コーダに向かっての盛り上がりに「ズッコケて」感興を殺がれる-という。NHKFMで放送された87年返還テープでも「ズッコケ」は確認できる。01年末に日本に輸入されたギリシャdacapo盤と89年DG盤CDはこのテープを使っていることからこの「ズッコケ」が確認できるが、87年返還テープを使ったCD/LPと73年規格以降のメロディア板おこしCD/LP以外は正常。」(shin-p 氏のHPサイト「フルトヴェングラー資料室 WF Archives1942-5」

 こちらでは単に「間延び現象」としていて、別意見。僕も「別の演奏と入れ替えた」という確信は、正直持てなかった。ちなみにこの shin-p 氏の発言にあるように、ソ連から返還されたコピー・テープを元にしたドイツ・グラモフォンのCD等も、上記音の突然変化が認められる。さて話を戻すと、上記の Serenade 盤からは、そうした新盤と同じ特徴を聴き取ることができる。なので、おそらく GOST73 盤(33HD-05800/1)のうちピンク・レーベル盤を復刻に使っていると想像されるわけである。参考までに、僕の所有する GOST73 のピンク・レーベル盤を挙げておく(マトリックスは両面とも「2-1」)。

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 DREAMLIFE からは、同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7006)も出ている。パックインレイに記されたレコード番号は「D05800〜1」となっているが、やはり第442〜443小節は音質が変わっているバージョン(やや補正をかけているようだが)。つまり、上記 Serenade 盤と同じ「33HD-05800/1」からの復刻という可能性が高い。こちらも平林盤の常で音圧レベルがかなり高い。迫力を求める人には良いかもしれないが、第2楽章の始めなど静かな箇所では、音楽のバックに他の盤では聴こえていない低い持続音が聴こえている。

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 ちなみに同じ GOST73 には、ホワイト・レーベルもある。こちらも番号は「HD-05800/1」(上の写真の盤のマトリックスは「A面2-1・B面4-3」)。このホワイト・レーベル盤について、「手持ちのLP,CDの中ではこれが音質ベストだ。高音は少し荒々しい音だが一皮むけたような音だ。」と評価する方もいるが、基本的には上記「HD」番号の音である。

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 また1990年頃に出たいわゆる黒ジャケット・黒レーベル盤にも、もちろんこの演奏はある。ただこれらの新しい盤には、上に報告されているような瑕疵はあるものの、当然ながら針音等は圧倒的に少ない。LPの雑音が苦手な人には良いかもしれない。

 以上、真正メロディアLP盤の板起こしCD盤を見てきたが、個人的には(その4)で紹介した「プリ・メロディア盤」の復刻盤を聴く方が本来のメロディア盤の良さを味わえるように思う。とはいえ、真正メロディアLP盤の GOST68 あたりは、価格も海外からの購入なら千円台からかなりの数が出ている。マトリックス1-1のものが手に入ったなら、気軽にメロディア盤の音を楽しむにはうってつけの盤になるのではないだろうか。

(注1)このサイトには、当該箇所を「第1楽章の443~4小節」とするが、楽譜で確認した限りでは、やはり442〜443小節のようだ。ただこの方のサイトの当該演奏のCD評では、40枚以上の盤でこの箇所の異同を挙げていて大変参考にさせていただいた。感謝したい。 

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2022年1月29日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その4・ベートーヴェン5のプリ・メロディア盤)

 今回取り上げるのは、ベートーヴェンの交響曲第5番。フルトヴェングラーのベートーヴェン演奏の中でも本命中の本命である。1947年5月の戦後復帰演奏会における同曲の演奏は、そのドキュメント性もさることながら、演奏の劇的拍力の面でもまさに究極の記録である。この「メロディア盤」に聴ける演奏は、その3年前、1943年6月の放送録音でまさに戦時中。そこに聴くことのできる緊張感あふれる響きは、前者に勝るとも劣らないものがある。特に後半2楽章の溌剌としたリズム感覚は、後年のフルトヴェングラーからは失われたものだ。

 元LP、復刻CDともに、かなりの数が出ている。レコード番号は「D-05800/1」。メロディア社が誕生する前から出されていた、いわゆる「プリ・メロディア盤」が初出と言われている。このうちで、板起こしによく使われるモスクワ製の盤に「灯台盤」がある。GOST番号は、当然「56」と古い。こちらはかなり珍しく、高価。残念ながらこのLPは僕は未所有なのだが、VENEZIA 盤(V-1021)および Delta 盤(DCCA-0006)に使用されているので、間接的ながらその音を聴くことができる。

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 前者は非常にバランスが良い復刻で、決して派手ではないが楽器の音が良く聴こえ、力強さにも欠けていない。もちろん元LPの力かもしれないが、この音源のベストの一つと言える板起こし盤だと思う。一方、後者はこのレーベルの常でやや高音寄りの音作り。力任せではないところは良いし、高弦の伸びもきれいだ。

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 あと会員制のショップだが、アリアCDのオリジナル板起こし「アリア・レーベル」にも、「灯台盤」の復刻があった(AR 0011)。入っている音自体はさすが「灯台盤」だが、バックの雑音はやや多い。また「ラストのラストではLP特有の音割れが起きる。」と店主の方が書いている。「しかしここをきれいにしすぎると、せっかくの勢いが全て殺がれてしまう。「音質」を取るか「勢い」を取るか、そのギリギリのところで落着させた。/というか全編「音割れ」と「勢い」の戦い。これほどまでに厳しく辛い作業になるとは。」とのことだが、先の2盤では音割れしていない箇所でも、音が割れている箇所がある。おそらく使用した盤の問題だろう。ほかにも「MYTHOS」レーベルには、以前から「灯台盤」から復刻したCD-R盤が何種類か出ていた(注1)。

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 同じモスクワ製の盤の中に、水色のレーベルに「聖火」のマークをつけた「(大)トーチ盤」がある。これはかなり数が出たものと思われ、中古レコード店やオークションでも比較的良く見かける。ミント盤にこだわらなければの話だが、価格も1万円前後から買えるようだ。「OPUS蔵」盤(OPK 7001)は、これを復刻している。元LPに比べると、いつものようにやや低音が強調されているが、音色はよく再現されている。これはこのレーベルの復刻としては、成功しているのではないか。

 この「(大)トーチ盤」の次によく見かけるのは、イエロー・レーベルに両手にラッパを持ち吹いている人型のマークがついた通称「アコード盤」ではないか。こちらは、レニングラード製。上記「トーチ盤」より、やや価格は高めか。

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 音楽評論家の浅岡弘和氏は「残念ながらモスクワプレスに比べ音質はだいぶ落ちる」とあちらこちらに書いているが、同じく多数のメロディア盤を収集されているこちらのブログ主の方は以下のように言っている。「LPでアコードと聖火を聞き比べたとき、アコードの明るくて分離の良い音を支持する人は多いのではないだろうか。」。基本的には、盤質の違い、それを聴く側の好みの違いとしか言えないだろう。が、僕の視聴環境でも鏡のようにきれいな製盤のアコード盤を聴くと、どの板起こしCDよりも雑音が少ないように感じる。ただし残念ながら、このアコード盤の復刻盤はまだ見たことがない。

 また同じレニングラード製の盤に、「33」という数字がレーベルに書かれた盤がある。

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 これはかなり珍しい盤だ。なぜ僕がそれを持っているかと言えば、この写真のLPはA面に1箇所だけ傷があり音飛びするから、安かっただけである(それでも1万円近くした)。実際に聴いてみると、非常に迫力のある音で鳴る。ちなみにこの業界では?、この盤を「大33盤」と呼び、別にレーベル面が黄色いバージョンもあった。さらに小さめの白抜きの書体で「33」と書かれた「小33盤」というものもあるらしい。

 ほかに珍しい盤として、「リガ盤」がある。リガは、現ラトビア共和国の首都。バルト海に面しているせいか、ブルーの波とカモメが描かれたレーベルが美しい。僕は所有していないが、早い時期から WING が板起こし盤を出していた(WCD-203)。このCDの表紙で代用させていただこう。

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 復刻盤で聴く範囲では、一聴して「トーチ盤」「アコード盤」と比べて「やや鈍いかな」と感じるが、あえて手を加えず派手さを押さえたと思える。

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 さて、ここで「VSG盤」について触れて置く必要があるだろう。(その2)の注にも書いたが、「MYTHOS」の板起こしCD盤(MPCD9019、別にCD-R盤も出ている)のメーカー・インフォによれば「あるはずのないVSGレーベル」として宣伝されている。以下はその全文。

「旧ソヴィエト時代の謎に包まれた音源リストにあって、その最高峰とされているVSGレーベル。そして、この5番の音源には青松明や灯台レーベルしか存在しないと信じられていたいままでの常識がついに打ち崩されます。ミソスのライブラリーにはあるはずのないVSGレーベルが存在していたのです。
 旧ソヴィエトの放送関係者から入手したというこの盤は、もちろん世界で初めてここに復刻されるのです。いままで最高と言われていた青松明や灯台レーベルの音をさらにクリアーにして、奥行きと凄みを増した音楽が間違いなくここに刻まれています。いままで極々限られた一部の人間しか聴くことのかなわなかった幻の音源が、ついに光を当てられることとなった音楽史に刻まれるべき1枚なのです。(ミソス) 」

 この盤のCDケースに入っている紙表紙には、このレーベルの通例に従って、復刻に使用したLPのレーベルが記載されているが、これが若干怪しい(注3)。というのも、曲目や演奏者が書かれている場所には、非常に簡単に「L. ベートーヴェン/第5番 交響曲/V. フルトヴェングラー」 としか書かれていない。通常なら楽章表記や表情記号が書かれているはずで、上のような簡素なデザインは珍しいからだ。ただし、清水宏氏編の有名な『フルトヴェングラー完全ディスコグラフィー(2008年改訂版)』の「Label and Jacket Gallery」にも同じ「VSG盤」のレーベル写真が載っていて、こちらも同じような簡素な表記だ(ただしこちらはA面の写真で、表記の一番下に「コンサート会場での録音」というような文字の記載がある)。音的にも大きめの音量で、これまで聴いた中では一番きらびやかな音がする。音質的には、やはり「プリ・メロディア盤」からの復刻であることは間違いないと思うが。

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 これまで聴いてきた盤は、概ね GOST56 時代、1950年代末から60年までの間に出たものと推測されているが、メロディア社の設立は1964年と言われているので、それまで、GOST61 時代に入っても1963年頃までは「プリ・メロディア盤」が出ていたことになる。そのうちの一つがこれ。上に写真を載せた「青トーチ」と比べると聖火のマークがやや小さくなっている。いわゆる「ピンク小トーチ盤」と言われるタイプで、おそらくこの時期にのみ出されたものだろう。音的にも、上の諸盤と比べてまったく遜色がない。

 以上、「プリ・メロディア盤」でフルトヴェングラー、1943年の第5番を聴いてきた。全体として音楽的で、時に美しく明るい楽音が特徴。逆に力感は、「フルトヴェングラーの戦時録音」というイメージほどではない印象だ(注2)。テープ音源を復刻した廉価CD等では迫力重視で荒れた音場のものも多く、それがかえって緊迫感を増していた。が、戦時中といえども、当時の会場では歪みの少ないハイファイの楽音が流れていたはず。その意味では、「プリ・メロディア盤」を聴き直すことが、演奏自体の印象の見直しにつながる可能性もあるではないだろうか。

(注1)10年ほど前に MYTHOS が D5800/5801(青灯台レーベル)を使って、「仕様:200グラム重量盤、オリジナルジャケット仕様、オリジナルレーベル仕様。」という板起こしCDならぬ板起こしLPを出したことがあった(MPLP004)。これは正直、期待以上の高音質で、特にバックグラウンドのノイズは、他の復刻CDより少ないくらいであった。参考までに。

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(注2)今回、紹介した所有盤のマトリックスは、いずれもA面1-1、B面1-1であった。ただし、この項の(その1)の注にも書いたように、レコードの再生においてはイコライジング・カーブの問題がある。時期的に見ても「プリ・メロディア盤」が RIAA カーブ以外を採用していた可能性もある。ただこれについても定説はないようなので、僕の感想もとりあえずの考察にならざるを得ない事情はある。
(注3)上の(注1)で触れたベートーヴェン交響曲第5番の MYTHOS の 復刻LPだが、その同じシリーズに交響曲第7番の復刻LPが出ていた(MPLP-006)。これはこの項の(その1)でも紹介した「MELODIYA ダブルレター 33D-027779/80」を元に復刻したものだが、なぜかそのレーベル面は上にも写真を載せた「プリメロディア スモールピンク松明」仕様というものだった。こちらにも書いたように「第7番」のプリ・メロディア盤は存在しないので、これは公然の「レーベル創作」だった。

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2022年1月26日 (水)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その3・ベートーヴェン6)

 前回のベートーヴェン交響曲第7番に続き、第6番『田園』を取り上げる。フルトヴェングラーのベートーヴェンと言えば、3、5、7、9といった奇数番の交響曲が有名で、そのあおりを受けてかこの曲はそれほど話題にならない。数多い彼の録音の中でも、非常に特徴的な演奏ではあるのだが・・・。実際、復刻盤の数も多くない。

 レコード番号は「33D-02777/78」なので、(その1)の注に書いたように「33D-027779/80」という番号を持つ第7番と連番になっている。こちらもレコード番号の上に「GOST 5289-68」という数字がついたものが初出であるという。レーベルの色も第7番と同じく、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンクと、レニングラードでプレスされた黄色が基本。上半分に記された「MELODIYA」という文字が、中白抜きの書体と、普通のベタ塗りの書体の2種があるところも同じ。マトリックスは「A面3-2・B面3-2」。僕が最初に聴いたメロディア盤は、実はこの『田園』で、第1楽章の冒頭部分の弦の響きを聴いた時には、その穏やかな表情と豊穣な響きにうっとりさせられたことを、よく憶えている。これはベルリンの国立歌劇場で行われた定期演奏の録音だというが、若干エコーがかけられている可能性もあるだろう。美しいことは美しいが。

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 残念ながらこの第6番には、ピンク・イエロー両盤とも、はっきりそれと明記された板起こし盤はない。ただ別にホワイト・レーベルの盤があり、平林直哉氏が主宰する板起こし盤レーベル「Grand Slam」の前身のCD-Rレーベル「Serenade」に、その復刻とされている盤があった(SEDR-2009)。以下はそのメーカーによる紹介文(注1)。

「メロディアLPからの復刻盤であるブラームス第4(SEDR2003)、ベートーヴェン第9(SEDR2004)を発売して以降、幸いにもフルトヴェングラーのメロディア盤LPを十数枚入手した。それらを過去のLP、CD等と比較試聴し、復刻に値する結果が得られると判断したものだけを、今回、 SEDR2008、2009、2010、2011の4枚として発表することになった。このCDRでは「田園」がホワイト・レーベル、それ以外はピンク・レーベルから復刻したものである。これらのLPが、過去に発売されたメロディアのLPの中でも最高の音質かどうかは判断できないが、現時点では望みうる最上の音質であると考えている。とにかく、このCDRはその昔出ていた伝説のメロディア盤がどのような音であったか、それを知るひとつの手がかりとして世に問うたもので、各方面からのご意見、ご批判をいただければ幸いである。 【平林直哉】 」

 メロディアのホワイト・レーベルと言えば、プリ・メロディア時代の白トーチ盤等があるにはあるが、第6番(および第7番)にはプリ・メロディア盤は存在しない。では、何を使ったか。

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 実は GOST73 には、ホワイト・レーベル(レニングラード製)があった。この盤あたり候補になる。もしそうだったなら、「これらのLPが、過去に発売されたメロディアのLPの中でも最高の音質かどうかは判断できないが」という平林氏の留保も、ある意味理解できる。このSerenade 盤は、音圧レベルが非常に高く、アンプのボリュームを8時くらいにすると、もう普通にうるさい(笑)。強音部でビビリが出るし、残響成分は抑えられていないので、低音がボン付き気味ではある。が、実はこれは他の板起こし盤も、多かれ少なかれ似たような傾向にある。

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 こちらはモスクワ・アプレレフカ製の GOST73。これらやや後期の盤については、「音が鈍く聞こえる」という方もいらっしゃる。が、実際 GOST73 盤を聞いたが、初出の GOST68 盤と比べてもそれほど遜色はない。ちなみにこのピンク・レーベル盤のマトリックスは両面「3-2」のまま。「交響曲第6番『田園』のマトリックスが、初期プレスも後のプレスもA面3-2・B面3-2で変わらない」とする人もいるが、僕の所有する上記 GOST73 のホワイト・レーベルのマトリックスは「A面4-3・B面3-2」で、A面のみ番号が上がっていることは事実だ。DREAMLIFE から同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7009)も出ていて、パックインレイに記されたレコード番号は「D027777〜8」。これまでの通例から、上記 Serenade 盤と同じLPからの復刻という可能性もある。Serenade 盤同様、音圧レベルがやや高めで暗騒音が耳につくし、針音も多めである。それを除けば、音自体は決して悪くない。

 さて、この曲にも青レーベル盤があって、こちらも新世界レコード社が日本語の帯をつけて直輸入販売している(「33D-027777/79(a))。裏ジャケットの解説は英語になっており、演奏者はやはり「ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル」名義。上に修正シールが貼られている。

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 「OPUS蔵」盤(OPK7001)は、この輸出用・青レーベルを復刻している。このレーベルにしてはあまり低音は強調していない方だと思うが、この曲のトラックには音量の増加とともに「ジジジ」という雑音が混じる。板起こしに使った盤の状態が悪いのか、レコード針との相性なのか、かなり耳障りだ。このレーベルは正式なメーカーではないのかもしれないが、この点、製作者側はどう考えているのだろう。無論、原LP盤はそういうことはない。

 一方、Delta 盤(DCCA-0007)の使用LPは、「ブルーメロディア盤(ガスト68相当)」との表記。上記輸入盤青レーベルか、あるいはこちらの「Записано ВСГ」表記盤を使ったと考えられる。ちなみに後者の盤を「VSG盤」と呼び珍重するべきか否かについては、この項の(その2)に詳解した。第7番と同じく薄い白地の簡素なジャケットに入っている。「MADE IN USSR」の表記入り。Img_3887

 Delta 盤の方はスクラッチ・ノイズはほぼないし、さすがにきれいな『田園』が聴ける。が、こちらには、テープ録音のヒスノイズのような音が少し入っている点が気になる人もいるかもしれない。ちなみに解説には「ここでは一つの試みとして自然さを失わない程度に音質を調整することにした。」とある。そのために入ったノイズだろうか。また曲冒頭の低弦の音が、ほんの一瞬だがフェードイン気味に始まる。元LPでは少し前から録音が始まっているのだが、板起こしの際に楽音ギリギリで始めようとした結果、このようなことになったのだと思うが、これはかなり残念だ。

 1990年頃にソビエトから日本に直輸入された黒レーベル盤にも、この『田園』はある(M10-27777 004)。ちなみに僕の所有盤のうち一枚は、ジャケットがワーグナーやラヴェル等の盤のものになっていて、わざわざ「ジャケット違い」というメーカー側のメモが入っている。写真下段は、正しいジャケット。盤質も非常に良く、何の問題もなく良い音で鳴る。

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 今回、3枚の復刻盤を紹介したが、これらの視聴時にあらためてLPを聴いてみたところ、スクラッチ・ノイズを除けば元LPの音は非常に優秀で、あらためてこのフォーマットの素晴らしさを再認識した。この交響曲第6番のメロディア盤は、冒頭に書いたように他の奇数交響曲ほど人気がないためか、海外の中古市場なら千円台で買える。手軽にメロディア盤に親しむには最適だと思うので、気になる人はチャレンジしてみてほしい。

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2022年1月23日 (日)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その2・ベートーヴェン7のVSG盤)

 この「第7番」のレコードの青レーベルには、マニアの間で「VSG盤」と言われ、特に珍重されているタイプのものもある。この「VSG盤」については、日本では「全ソ連芸術家養成所で出した一種の教育用レコード〜(共産党員専用盤?)」(浅岡弘和氏『二十世紀の巨匠たち』芸術現代社、注1)、または「共産党幹部向けの特別仕様」(ブログ「西方見聞録」、注2)とか言われている。特にメロディア盤を多数集められているこれらの方が、「音も良い」「初版」のように喧伝されていることが、高い評価につながっているのだろう。

 ところで「ВСГ(VSG)」は「Всесоюзная Студия Грамзаписи(VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI)」が正式表記。直訳の意味は「ALL-UNION RECORDING STUDIO」である。その実は、ロシア盤の製作スタジオ・プレス工場の名前である。一般にメロディア・レーベルが誕生する1964年以前のレコードおよびレーベルを、のちにメロディア・レーベルで再販されるものと区別して「古メロディア」「プリ・メロディア」とも呼ぶ。「リガ」「AKKORD」「33」「灯台」「トーチ(聖火)」などが有名だが、その一つに上記「VSG」もあった(注3)。

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 Discogs の説明では、こうある。

>>「Vsesoyuznaja Studija Gramzapisi」(「All-Unionレコーディングスタジオ」と訳されます)は、1957年11月5日にソ連のモスクワで設立され、レーベルとしてスタートしましたが、レコーディングスタジオであり、時にはレコードプレス工場でもありました。 Мелодия以前の植物のロゴには「ВСГ」(「VSG」)と書かれており、フルタイトルとともにリリースで使用されています。
1964年7月、「VSG」は「All-Union Melodiyaレコード会社」ВФГ「Мелодия」に参加し、メインのレコーディングスタジオになりました。 

 つまり、メロディアに統合される前の「VSG」は、一つの独立したメーカーということになる(少なくとも「全ソ連芸術家養成所」などとは訳せない)。上記レーベルの盤は、その意味で確かに初期盤としての価値は高いかもしれない。また、これらの盤には「GOST」番号もないことは、やはりかなり初期の盤だと思わせるものがある。

 一方、メロディア統合後の「VSG」表記は、単なる「製作スタジオ」あるいは「プレス工場の名前」としか言えないのではないだろうか? 実際、GOST61以降のメロディア盤のレーベル上における「Всесоюзная Студия Грамзаписи」という表記は、「Апрелевский Завод Грампластинок(モスクワ・アプレレフカ工場)」や「Ленинградский Завод Грампластинок(レニングラード工場)」の表記と同じ場所、横罫線の上に書かれている。ジャケット裏でも、通例、プレス工場名が入る左下欄外に、この表記が入っている。例えば、このように。

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 青レーベルを多く見かけるが、稀にピンク・レーベルもある。「特別盤」というには結構数も出ていて、フルトヴェングラー以外にも、オークション等で普通に見かけるほどだ(注4)。さて、仮に「VSG」が工場名だったとしよう。その場合、プリ・メロディアのリガ盤やモスクワのトーチ盤、さらにメロディアのレニングラード盤にも「VSG」の文字が見られるものがあるのはなぜか?という疑問が残る(下記の画像は、Web上から拝借させていただいた)。

Rigas1

Torch2

Torchi1

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 ただこの場合は必ず「VSG」を意味する「ВСГ」「Всесоюзная Студия Грамзаписи」の文字の前に、「Записано」とか「Записано B o」と書かれている。これは「記録」「録音」という意味の語で、おそらくだが「VSG原盤」あるいは「VSG工場での製盤」というような注記ではないかと想像されるのである。

 まとめると、日本のマニア間で「VSG盤」と呼ばれているもののうちには、少なくとも

1)メロディア社が設立される前に存在した「VSG」レーベル盤
2)メロディア社が設立される前に、レーベルに「Записано ВСГ」と記されたリガやモスクワ、レニングラード盤
3)メロディア社に統合された後に、「VSG」工場で製作された真正メロディア盤
4)メロディア社に統合された後に、レーベルに「Записано ВСГ」と記されたレニングラード工場で製作された真正メロディア盤

の4種があるということだ。この時代も製作場所も違う各盤を、一様に「VSG盤」と呼んで何か特別な盤であるとするのは、やはり無理があるのではないだろうか。

 さて肝心の「第7番」だが、上記ブログで「VSG盤」と言われていた盤と同じものが、こちら。

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 こちらは3)の青盤。また「VSG盤」については、「厚紙アルバムに封入されたデラックス仕様のセット」とする意見もあるようだが、この第7番(や第6番)は単に薄い白地の簡素なジャケットに入っている(注5)。また「MADE IN USSR」と英語で!記載があることから、基本は輸出用と考えられる。少なくともこの点でも、共産党員専用などとは言えないだろう。音質的にも、(その1)で取り上げた青レーベルと同程度だと思う。

 以上、「VSG盤」について書いてきたが、フルトヴェングラー盤のうち、いわゆるプリ・メロディア盤としての「VSG盤」は、初期盤として貴重だろう。またロシア語の Wikipedia 等を見ると、「VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI」は統合後もメロディアの中心的スタジオ・工場であったことは間違いないようだ。例えば、そこに優先的に良い機材が配備されていたようなこともあっただろう。なので、「VSG」表記が付いた盤が比較的音が良いというようなことも、もしかすると、あり得る話かもしれない。メロディアは謎多いレーベルであり、僕が上に書いたようなことが絶対に正しいなどとは思っていないが、「VSGだから特権的な盤」と大騒ぎすることについては若干留保が必要ではないだろうか。ぜひ皆さんのご意見を求む。

(注1)『二十世紀の巨匠たち』芸術現代社・刊
(注2)occidental 氏のブログ>>「Gost-68で初登場したフルトヴェングラーの2つの音源」
(注3)フルトヴェングラーのプリ・メロディアにおける「VSG盤」は、僕の知る限りベートーヴェンの「第九」、シューベルトの「グレイト」、ブラームスの交響曲第4番がある。さらにベートーヴェンの交響曲第5番について、「MYTHOSのライブラリーにはあるはずのないVSGレーベルが存在していた」とされる。>>(その4)参照
(注4)
フルトヴェングラーの盤など一部以外は、VSG盤といえどもかなり価格は落ちる。
(注5)上記(注2)のブログの主宰者の方も、同じタイプの盤を3枚所有されているらしいが、いずれも白地の BSG 共通ジャケットだったらしい。ちなみにフルトヴェングラー以外にも「Всесоюзная Студия Грамзаписи」という文字が小さく入った白字の共通ジャケットは普通に存在する。

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2022年1月15日 (土)

板起こしで聴くメロディア盤のフルトヴェングラー (その1・ベートーヴェン7)

 フルトヴェングラーの数多い録音の中でも、第二次世界大戦中の一連の録音の中に、最も彼らしい本領を見る人は多いだろう。今では、安い廉価盤CDでも聴ける音源である。だが、元はと言えばソ連が戦利品として持ち去った放送用録音テープ(マグネットフォン録音)から作られた、いわゆる「メロディア盤」というLPレコードが初出であった。当時は、ソ連という鉄のカーテンの向こう側で出ていた、いわばまぼろしの盤。自由に売買できるようになった今でも、我が国の輸入レコード専門店などでは、1950年代後半から60年代にかけて出たような古いオリジナル盤には、数万円から十数万円の値がつけられている。実は昨日もオークションサイトで、1942年のベルリン・フィルとの「第九」(アコード盤)が、十万円弱で落札されていた。まあ、こうなると「メロディア盤とはどのような音が入ってるのだろう」と興味を持ったとしても、余程のマニアでないと手が出ないだろう。ただしよくしたもので、今世紀に入ってからはこれらの古いLPを「板起こし」という形で音盤化したものも多数出るようになっていて、だいたいの音はわかるようになってきた。今回はそうした板起こし盤を中心に、メロディア盤音源を聴いていくことにしたい。まずは比較的新しいメロディア盤の一つである、ベートーヴェンの交響曲第7番イ長調から。

 レコード番号は「33D-027779/80」(注1)。その上に「GOST  5289-68」という数字がついたものが初出だそうで、この最後の「68」というのが製造年代(1968年以降)を表すというのが通説になっている(「GOST」の文字等はキリル文字で「ГОСТ」と書かれている)。1956年以降を示すという「56」というのが一番古く、次いでに「61」「68」「73」「80」と続く。つまりこの「交響曲第7番」の場合、最初にソ連でフルトヴェングラーの音源が出たのは1960年代の末か1970年初め頃だと推定され、その頃からするとすでに10年ちょっとが過ぎていたことになる。上に見たような何万円もするような希少価値はないので、僕のようなメロディア盤ビギナーにはかえって都合が良い。

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 レーベルの色は、モスクワのアプレレフカでプレスされたピンクと、レニングラードでプレスされた黄色、この2種が一般的(注2)。プレス工場の名前は、レーベルの真ん中に引かれた太い罫線の上に表記されている。また、同じようなデザインだが上半分を占める「MELODIYA」という文字が、中白抜きの書体と、普通のベタ塗りの書体の2種がある。またアプレレフカ盤とレニングラード盤のうち、どちらが音が良いかについては、諸説ある(注3)。上記のように比較的新しいタイトルなので、製盤技術的にもコンディション的にもひどい品質のものは少ない印象だ。ただ、モスクワ盤の一部には、少しザラついた盤質のものがあると言われていて、僕の所有する2枚の中白抜き文字のピンク・レーベル盤(GOST68)のうち、1枚は入っている音自体は悪くないものの、SP盤のようなザワザワというごく小さな針音が絶えず入る。ちなみに、黒ベタ文字のピンク・レーベル盤(GOST68)やイエロー・レーベル盤(GOST73)は、そうしたことはない。

 音楽評論家の平林直哉氏が主宰する板起こし盤レーベル「Grand Slam」の前身のCD-Rレーベル「Serenade」に、イエロー・レーベルの復刻とされている盤がある(SEDR-2008、2002年)。盤のノイズは割と多い方。でも曲の冒頭から、元LP以上に凄絶な音響が聴ける。DG 版などのテープ系のCDと比べても、もともと音源自体エコー成分が多めなので聴き応えはあるが。第4楽章の冒頭は欠落のままで、解説には「今や伝説と化した事故を音で確かめられる復刻盤が、世の中にひとつくらいはあってもよいのではないかと思っている。」とある。ただし、テープ復刻盤とは違い、板起こし盤では、後述の GREENDOOR 盤、OTAKEN 盤以外はすべて欠落したままである。ちなみに、2004年末に DREAMLIFE から同じ平林氏のプロデュースで出たSACD/CD(DLCA-7007)も出た。使用盤の情報はないが、盤の雑音の状態等からおそらく同じ盤からの復刻と思われる。針音等は軽減されている。ただ平林盤の常でもあるのだが、低音を中心に音圧レベルが少し高過ぎる点はどうか。第2楽章の始まりも、LPよりかなり大きめの音になっている。

 その点ではピンク・レーベルの GOST68 を復刻した Delta 盤が注目される(DCCA-0023)。いわゆるスクラッチ・ノイズはほぼなし。実にすっきりした音づくりで、会場の微細な物音も良く聴き取れる。高域にサーという音が微かに入り、終楽章などでは高弦がややキンキンするところもある。が、エコーの具合等、音自体は GOST68 のLP盤の音に近い。第1楽章の冒頭も Serenade 盤ほど、盛大に始まらない。実はベートーヴェンの書いたスコアでは曲の始まりは単に「f=フォルテ」、あるいは「fp=フォルテピアノ」だ。序奏部分がやや進んで14小節目でクレッシェンド。17小節目に至り、序奏主題がホ長調で出ることころで初めて「ff=フォルテッシモ」が来る。フルトヴェングラーの演奏でも原レコード盤では基本的にそうなっているので、Serenade 盤等の冒頭部分では、復刻時に音量を上げている可能性もあるだろう(第2楽章の始め等も)。

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 同じピンク・レーベルの GOST68 を復刻したものに MYTHOS 盤がある。特定のショップでしか扱ってないレーベルだと思うが、板起こし専門の代表的なレーベルの一つだ(松竹梅の3種があるが、竹の NR-ZERO 6 Gold で聴いた)。針音もやや多めながら、その分、目の覚めるような鮮烈な音である。迫力も十分なのだが、決して低音は強調されていない。この GOST68 から最大限、音情報を引き出すことに成功した板起こしではある。こちらも若干、音量は大きめだが。

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 さて、この曲には青レーベルもあって、このうちには新世界レコード社が日本語の帯をつけて直輸入販売した盤もある。「33D-027779/80(a)」という番号がついている。ジャケットには上記アプレレフカ盤と同じベートーヴェンの彫像をあしらった白いジャケット・デザインが使われているが、文字の配置が若干違う。また裏ジャケットの解説は英語になっており、演奏者は「ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル」になっていて、上にシールが貼られている。これは結構売れたようで、今でも日本のオークションでも意外に安価で出ることがある。上記ソ連盤とは時期的には同じ頃に出たと思われるが、盤の状態も非常に良く、上記ピンク&イエロー盤より出音のレベルも若干高いので、板起こしの原盤にもよく使われる。

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 「Grand Slam」では、2010年に出したCD盤(GS-2046、2010)では、こちらを復刻している。押し出しの良い音は、いつもの平林流。わずかにブーンという音が入るが、針音は少なく比較的丁寧に仕上がっている。余談だが、このCDは併録された世界初出音源の「レオノーレ序曲第3番」が売りなのだが、「恐ろしく売れ行きが悪い」と平林さんはエッセイでこぼしていた(笑)。さらに、板起こしメーカーとして有名な「OPUS 蔵」からも、この「33D-027779/80(a)」を使ったCDが出ている(OPK 7002)。こちらはこのレーベルの常として、良く言えば低音の効いた、悪く言えばぼーっとした音場になっている(ヘッドフォンで聴くと、ジジジ・・・という雑音が絶えず入っている)。ネットなどでは絶賛する人も多いが、まったく受け付けない人もいる。元LPが出た頃のオーディオ機器ではこのような音がしたのかもしれないが。

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 またクレジットにはないが、ライナーノーツの表紙&パックインレイのデザインから、GREENDOOR 盤も同じ番号の盤を使っていることがわかる(GOWF-2001)。こちらも低音寄りにイコライジングしたようで、音楽のバックにハム音のような暗騒音が入っている。ある意味、緊張感を高めてはいて、この盤だけ聴いている上では、この音が好きという人もいるだろう。ただ「OPUS蔵」とともに、元LPに刻まれた音の状況を正確に写しているとは言えないだろう(注4)。

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 さらに新世界レコード社が輸入販売した全23巻のうちの一枚で、黒ジャケット・黒レーベル盤がある(M10 49727/8)。こちらも多くの板起こし盤を出している「OTAKEN RECORDS」は、音楽評論家の小石忠男氏が所蔵していた「M10用原盤」の「手動プレス盤」からの復刻盤を出している(TKC-322)。こちらは、バックノイズのないデジタル的な軽い音作り。聴きやすいとは言えるものの、上記の板起こし盤を聴き慣れた耳には、「高音寄り」「きれいすぎ」に聴こえるかもしれない。

 さらに青レーベルには、マニアの間で「VSG盤」と言われて珍重されているタイプのものもある。これについては、最初なので別稿で詳しく考えてみたい。

(注1)同じ作曲家の交響曲第6番『田園』の番号は「33D-027777/78」なので、連番になっている。
(注2)GOST73 の白レーベルも家にはある。他に僕は所有していないが、黒レーベル&金文字の GOST68 もあるようだ。

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(注3)ちなみにLP盤のマトリクスは、中白抜き文字のピンク・レーベル盤(GOST68)および青レーベル盤が「3-2/3-1」、黒ベタ文字のピンク・レーベル盤(GOST68)は「3-2/1-2」であった。ちなみにこちらの記事だと、前者の方が「初版」とのこと。マトリクス番号が逆転するというのはある意味不思議だが、GOST73 の黒ベタ文字のイエローレーベルは「1-3/1-2」なので、確かに番号が若返っている。
(注4)この GREENDOOR盤「第7番」のCDには書かれていないが、同じ GREENDOOR レーベルのベルリンの「第九」盤等では、桧山浩介氏によるライナー「大戦中のフルトヴェングラーの演奏とその録音をめぐって」で、「レベル変動の修正」「コンプレッサー処理の結果生じている全体にわたるダイナミックレンジ幅の補正」「ピッチについても配慮が必要」と書かれている。だとすると、レーベルとして復刻時に音を補正している可能性が高い。また当然ながら、レコードの再生においてはイコライジング・カーブの問題は確かにある。これらのレーベルでは、カーブを変えているなら、上記のような音になる可能性もある。ただし、GOST68 盤の時点では、すでに RIAA に近いカーブであったと思うが。 

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